水道料金の減額分が教育費に?フラクタの加藤さんが考える技術と社会的インパクト

最近、自宅で車を洗うようになった。米国は車社会であり、16歳から自動車運転免許が取れるとあって、高校生も車で学校に通うことが多い。そんなわけで、各家庭に2台も3台も車がある。自然と洗車サービスが発達するため、どこに行っても、誰かがクイックに洗車してくれる場所が見つかるというわけだ。 僕が住むカリフォルニア州メンローパークにもたくさん洗車サービスがある。こちらに移住してから4年というもの、いつも近くの洗車サービスを使っていた。だが、ふと「久しぶりに自分で洗ってみようかな」と思って始めたところ、かえってこちらのほうが楽になってしまった。 「久しぶりに」というのには理由がある。学生時代は毎週金曜日になると、東京・西新宿にあるニッポンレンタカーで夜8時から朝8時まで、夜通しお客さんから戻ってきたレンタカーを洗車するアルバイトをしていた。体力が有り余って仕方ない時分で、金曜夜に柔道の練習が終わると、その足でアルバイト先に向かい、夜通し洗車をして、家に帰って少し昼寝をすると、また夕方には柔道の練習に出かけていた。 こうして車を自分で洗うようになったことをきっかけに、ある日家具も自分で作ってみようと思い立った。自宅から車で15分ほどのところに北欧家具のイケアがある。ちょうど子どもも大きくなり、彼らにベッドを買ってあげようと思ったのだ。 イケアは日本でも人気があり、ご存じの方も多いかもしれない。セミDIY(Do It Yourself)とも言うべき仕組みで、既にベッド用に木材などは切断され、塗装が施されている。それぞれの部品を組み立て関節部をネジで留めていくとオシャレなベッドができあがる。しかし、これが結構骨が折れる。一つのベッドを作るのに30個ものネジを留めなければならない。力を込めてネジを回すのは意外に大変な仕事だ。 メンローパークのダウンタウンに工具屋さんがあったのを思い出して、人生で初めて電動ネジ回し機を買ってみた。充電して使うとボタンを押すだけでネジがどんどん締まるプロ仕様だ。約60ドル(6000円)するが、これが実に便利なのだ。見るからに大変そうな木材と木材のネジによる合体が、ボタンを押すだけで終わってしまう。気付くと、1時間でツインサイズ(シングルサイズ相当)のベッド1台が完成してしまった。しばし放心状態になり、この電動ネジ回し機を見ているうち不思議な気持ちに包まれた。 こういう機械は、おそらく毎日このような作業をする大工さんのために作られたに違いない。しかし、このテクノロジー(強力なモーターと長持ちバッテリーの組み合わせ)がもたらしたのは、もっと大きな変化なのかもしれない。学生時代に亡くなった身体の弱い母であってもこうしたテクノロジーを使えば大きなベッドを自分で組み立てられただろう。母子家庭で育った僕には、女性の目線で物事を考えるクセが身についている。女性の社会進出にテクノロジーは欠かせないとあらためて思った。屈強な男でもちゅうちょするようなネジ回しを、電動ネジ回し機を持った女性がボタン一つでやり終えるとは何とも痛快だ。日本はまだまだ男尊女卑の国だ。その意味で米国と比べれば20年遅れと言われているし、僕の生活実感としても日本は本当に20年遅れている。 先日、メディアのインタビューに答えて、僕はこんなことを話した。「僕たちは、水道配管の更新にかかるコストを40%減らせる可能性があるソフトウエアを開発・販売しています。この社会的インパクトは、水道料金の低下によって現れます。こうして所得の低い人たちが享受する水道料金の減額分が、教育費に回るかもしれません。その意味で僕たちは教育会社だとも思うのです」。テクノロジーがもたらす広範な社会的インパクトを思い、また胸が熱くなった。 【略歴】加藤崇(かとう・たかし) 早大理工卒業。米スタンフォード大元客員研究員。ヒト型ロボットベンチャーのシャフトを共同創業し、米グーグルに売却。インフラ劣化予測の人工知能(AI)ベンチャー、フラクタを米で創業。米シリコンバレー在住。

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