会議にも参加します。アイデアを大量に発想するAIの実力

連載・発想のスイッチの入れ方#外/博報堂×TIS「AIブレストスパーク」

「介護ビール」「ダメだしビール」「ビールの野望」―。「ビール」を検索すると、別の言葉がランダムに結合され、新しい切り口となるキーワードが画面上に無数に表示される。博報堂がシステム開発のTISと共同で開発したアイデア発想支援システム「AIブレストスパーク」だ。商品企画やマーケティングなどを担うビジネスパーソンが、担当する商品や業界に関連して新しいアイデアを発想する際の作業を後押しする。機械が予想外の新しい切り口となるキーワードを与えることで、自分の興味や関心事などの枠の中で考えてしまいがちなアイデア発想の飛躍を促す。 今後は面白いと想定される順番にキーワードをランキング付けする機能の実装も構想しており、無数のアイデアから最適解を選び出す作業も支援できるようにする方針だ。AI(人工知能)技術の進化などによって定型業務の担い手は人から機械に置き換わってきている。発想領域の仕事にも変化は起きるだろうか―。(取材・葭本隆太) AIブレストスパークは、博報堂のアイデア発想ノウハウと自然言語処理や機械学習などのAI技術を組み合わせて構築した。利用者がアイデアやコンセプトのきっかけになるワードを入力すると、博報堂の知見である、別の言葉と掛け合わせると面白いアイデアに見える数千個の言葉群とランダムに結合したワードを「ブレストアイデア」として表示する。社会課題やJK(女子高生)用語などと結合したブレストアイデアを表示する機能なども備える。利用者はブレストアイデアの中から気になるものや面白そうなものを選び出してノート機能で蓄積し、商品企画やマーケティングのためのアイデアとして利用できる。入力したワードと関連性が強いと想定される言葉などをインターネット上の情報を基にキーグラフで表示する機能もある。 システムの発案者で博報堂の統合プラニング局に所属する栗田昌平さんは「AIブレストスパークはアイデア出しを効率化するシステムです。ベストな回答をすぐに導き出すわけではありません。最終的に面白そうなキーワードを選び出し、イメージを広げるのは人の仕事。ただ、多様な方向の切り口を大量に提示するので、一人で考えていても行き着かない広さや深さに到達できる点が良いところ。そこをターゲットに開発しました」と説明する。 今後は会議の活性化に寄与する仕組みも構築する。2020年春をめどにTISのスマートスピーカーに搭載し、AIブレストパークが会議に参加できるようにする。スマートスピーカーが会議参加者の発言記録を取りながら、発言があったフレーズからキーワードを自動抽出し、それを基にしたブレストアイデアの音声発信などを行う。 開発のスタートは3年ほど前。元々はエンジニアとして入社し、広告プランナーとして活動していた栗田さんが、発想領域におけるAI活用の可能性を考えた。社内のクリエーターの仕事に役立てられるような仕組みを模索し、データサイエンティストの後輩と検討してたどり着いた答えがブレスト用のアイデアだしの効率化だった。 「社内のブレスト会議に持っていくアイデアを準備する際に、効率的に広い切り口で考えられれば(役に立つ)と思いました。アイデアを考える際は自分の興味や既知の範囲から抜け出せないことがあります。私自身は(そこから抜け出すために)人に会ったり、ツイッターで検索したりして情報をインプットしていましたが、その作業を一つのツールでできればと思いました」(栗田さん) 一方、新規事業の開発を手がける博報堂のビジネスインキュベーション局の八幡功一局長(当時、現エグゼクティブクリエイティブディレクター)はコピーライターとしての自身の知見を後進に引き継ぐ仕組みを作りたいと考えていた。これが栗田さんの発案と結びつき、同局のビジネスとして構築することが決まった。従前から同局と付き合いがあり、AI・IT技術を持つTISとの共同開発に至った。 6月に稼働したシステムは博報堂の社内でも使われているが、反響には多様な意見がある。「(ランダムに出てくる言葉を見ることで)発想の幅を広げやすい」という歓迎の声がある一方で、「アイデアの質はもう一歩」といった厳しい指摘もある。 「アイデアの質の善し悪しは説明が難しいですが、(AIブレストスパークで)100個の言葉を表示しても利用者が気になったり、面白いと思ったりする言葉が2―3個しかないケースがあります。これについては利用者のログの分析や(博報堂の)クリエーターのナレッジの注入などで改善していきます」(栗田さん)。 一方、利用拡大に向けた今後の課題として栗田さんは顧客体験(UX)を意識している。その向上策の一つとしてシステムが生成するキーワードについて面白いと思われる順のランキング表示を念頭に置く。利用者のアイデア選びまでを機械が後押しする。 栗田さんは「(機械が示したブレストアイデアの中から)ベストの回答を選ぶのは人の仕事」と強調するが、ランキング表示は機械がその領域に一歩踏み込むことを意味する。では、そうした機能拡張を重ねていくと、将来、発想領域はどこまで機械が代替できるようになるだろうか。クリエーターの仕事に変化はあるだろうか。栗田さんは「(AIがどこまで発想領域を代替できるようになるかは)わかりません。ただ、キャッチコピーや広告デザインの仕事で言えば、人間が触れるところの機微はとても大事で(我々が)最も頭を悩ませるのはそこ。人が気持ちいいことを理解する必要がありますが、(機械がそれを理解できるのは)相当先ではないでしょうか」と考察する。 人の発想業務について定型業務のように機械が代替するのはまだ難しそうだ。ただ、著名なクリエーターにアイデア発想法を聞くと、まずは課題に即したキーワードを書き出したり(※1)、その課題とランダムに頭に浮かべた言葉を掛け合わせたり(※2)といった方法が上がる。そうした作業を一般のビジネスパーソンが簡単に実践したり、効率化したりという観点では発想業務においても機械の活用が広がるかもしれない。 ※1  ※2          

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