気候変動や生態系保全…「ヴィーガン男子」が抱く食と環境の問題意識

連載「拡張する『食のバリアフリー』」#03

共同生活と環境保全活動を行うインターナショナル・サマーキャンプ(黒坂陸さん提供写真)

「食のバリアフリー」は宗教上の理由や嗜好、アレルギーなど、どんな食生活の方でも、食を楽しめるように、日本に増える多国籍な住民や観光客の多様な食文化や食嗜好にも配慮する考え方。食のバリア(制限)に対して正しい知識を得て多様な国籍の友人と分け隔てなく食事を囲むことにより、日本社会に暮らしながら、多様な文化に対する理解が促進されるなど私たちの“世界”を拡張することができる。 本連載は、多様な食のチョイスへ理解を後押しし、インクルーシブ(包括的)な視点を持ってもらうための一助となるよう、識者や食の実践者のお話から、ハラール、ベジタリアン、ヴィーガンなどの食文化や嗜好についてひもといていく。(取材・腰塚安菜) 本連載もいよいよ最終回。11月1日「世界ヴィーガン(完全菜食)デー」にこの原稿を書いている。目前の10月末、私は肉、魚、卵、乳製品、はちみつまで動物由来の食品を摂らないヴィーガンの若い実践者と会うため渋谷・表参道には少なくない洒落たカフェを予約した。この場所を選んだのは彼の食生活への配慮というより、都会的な彼の普段の雰囲気を意識した。学生から社会人まで20代の若者が多く所属し、「環境について話そう」をテーマとするコミュニティ「Spiral Club」のメンバーで、FAO(国連食糧農業機関駐日連絡事務所)のインターン経験がある黒坂陸さんに話を聞いた。 中央大学在学中、環境の授業を中心に選んでいたが、「食が環境にもたらす影響」についての考えを深めるきっかけの一つは、国際寮で出会った、無宗教でベジタリアンの学生との出会いだった。2つ目のきっかけは、自身が大学二年生の夏に参加したチェコ共和国でのサマーキャンプ。幼少期から11歳まで、埼玉県川越市の自然が多いとは言えない環境で育った黒坂さんは、チェコでは世界中からの若者達と環境問題へのアクションについて語らう機会をもち、森林の中の生活と仲間と囲んだベジタリアンの食に影響され、自然とヴィーガンとなったそうだ。 大自然の中でのサマーキャンプの環境と、仲間といちから作る日々の食事に重きを置いたコミュニティに触れ、ヴィーガンは単なる「食事法」である以上に素敵な生き方、持続可能な暮らし方であると気付いた黒坂さん。現在は都会の中で、自分らしくヴィーガンライフを続けている。その過程でクッキングスタジオ「Studio Vegan」を主宰するヴィーガンシェフの吉村純さんなど、手本となる師匠や友人と巡り合い、今では食と環境(問題)を橋渡しする記事の執筆やイベントの開催をリードすることも。環境問題という社会ごとを生活と直結する日々の食事で自分ごと化していき、たどり着いたテーマは「食べるという環境活動」だった。 黒坂さんは「同じコンテクストで話すべき『食』と『環境』が全く違うものとして語られていることに問題意識を持っている」と話す。FAOでのインターン経験も生かされ、気候変動問題については、先述の「Spiral Club」のWEBサイトを通じ、ファクトを用いて力強く執筆する。例えば森林を開拓して育てられる家畜からの排出量が、世界全体の温室効果ガスの14.5%を占めており、地球温暖化の大きな原因の一つであること。メタンの総排出量の約39%が牛などの反芻動物によるもので、温室効果ガスの総量の5.7%も占めること。気候変動だけでなく、生態系の保全や水質汚濁、土壌汚染など、食をめぐる問題は広範囲にわたっていることなど。今年8月から9月にかけて日本でも多く報道された南米アマゾンの記録的な森林火災についても、私たちの食生活とつながっていることを掘り下げる記事を執筆中だそうだ。 ヴィーガンを実践していれば日頃の食生活での苦労をしないのかと読者は気になるだろう。環境問題を話し合う「Spiral Club」の仲間内ではもちろん自然に食事を囲めるが、黒坂さんの場合、家族の理解や協力を得られたことも大きい。「ヴィーガン食を一方的に薦めることはしないが、新しいコミュニティーに参加する時や、ヴィーガンである理由を聞かれた時は、必ずなぜヴィーガンをやっているのかを伝えるようにしている。イベントなどではつきものとなる、食事を提供してもらうシーンにおいては、前もって食事を済ませていくこともある。もし、皆で囲む食事の決定権がありそうな時は、自分でお店を決めることも」 「ヴィーガンになってみたい」という同世代や年下がいた時、最初に当たる壁は家族の理解と考え、アドバイスをすることもあるという。「『だし』などを含め、ヴィーガンの日本食への適応は厳しい通説があるが、探せば選択肢は沢山ある。また、無理せず実践することも重要だと考える。『環境のために』とヴィーガン食にこだわり、その一食で家族や友人との関係を壊すくらいなら『フレキシタリアン(動物性・菜食の選択に柔軟性を持たせるスタイル)』でもいいのではないか。動物愛護、健康、環境問題など動機はさまざまだからこそ、今一度、なぜヴィーガンを実践するのか自分に問うてみることから始めてほしい」。 ヴィーガン実践による黒坂さんの「食べるという環境活動」から私はもう一つ大きな気づきを得た。それは飲食店や機内食で「特別食」とみられがちなヴィーガン食は、俯瞰してみるとコミュニティーの参加者すべてに適応する「誰もが食べられる食事」そのものという見方が出来ることだった。 黒坂さんがインターンをしていたFAOの発信するメッセージ、「Food is life(人生).Food is love(愛). Food is culture(文化). Food is nutrition(栄養). Food is a human right.(人権)」には、一体どんな含意があるだろう。食とはただお腹を満たすだけでなく、多様な捉え方が出来るものと教えてくれる。 筆者はこの9月、小泉進次郎環境相がニューヨーク訪問時にステーキを食べた行動がニュースになっていたことを真っ先にネガティブに受け取った視聴者の一人だ。しかし、その時、瞬時に肉食と気候変動問題とのつながりを想起した人は、いったいどれだけいただろうか。黒坂さんの実践する「食べるという環境活動」に共感できる人(見聞きしたことがある以上に、実践にまで至る人)は、恐らくまだまだ少数派だ。 一方、熱心にヴィーガンを実践し、公言するハリウッド俳優も近年目立つようになってきた。 実写版『アラジン』で主演のメナ・マスードは、ヴィーガン・プラントフード(植物性食品)グルメコミュニティー・インスタグラム @evolvingveganを立ち上げ、投稿や動画で熱心にヴィーガンの店や料理の普及啓発をする。また『ジョーカー』主演のホアキン・フェニックスは3歳からヴィーガンを貫き、動物性の服や小物も身に着けないという。 日本に多国籍の人々が増えるに伴い、フード・ダイバーシティ(多様性)を尊重し、するニーズが高まると予想できるが、「食のバリアフリー」を自分ごと化するにはなんらかのきっかけが必要だ。家族や友人など実践者が身近にいる事で一見「環境問題」と映らなくとも、その人が営む食生活から発信されるメッセージで共感したり、自分の食生活を見直したりするきっかけとなる。 ハラール、ベジタリアン、ヴィーガン、コーシャ、フレキシタリアンなど、ひとつひとつの食嗜好を具体的にしてみると、想像以上に細分化された「個性」である。身近に増え始めた「〇〇フリー」を記載した食品も、食のバリアフリーのニーズの高まりを教えてくれる。日本もホテルやレストランといった身近な街で提供するサービスを始め、社会インフラを整え、個人のレベルでも適応と配慮の意識を高め、来る東京五輪・パラリンピック開催年の2020年を迎えたい。     腰塚 安菜(こしづか あんな) 1990年生まれ。慶應義塾大学法学部卒業。在学期から商品の社会性に注目し、環境配慮型ライフスタイルを発信。(一社)ソーシャルプロダクツ普及推進協会主催「ソーシャルプロダクツ・アワード」審査員(2013~2018)。社会人ユースESDレポーター(平成28年度・平成29年度)として関東地区を中心に取材。日本環境ジャーナリストの会(JFEJ)所属員。主な取材フィールド:環境・社会、教育、文化多様性

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