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量子コンピュータ開発、政府肝いり英国の状況は

量子コンピューティングの実用化に向けて、欧州勢も動き出している。英国では政府の肝いりで産業界への啓発活動を推進し、次代への道を切り開こうとしている。「量子コンピューティングはすでに実用化の初期段階にあり、世の中を変える力を秘めている」と語る英ケンブリッジ・クオンタム・コンピューティング(CQC)のイリアス・カーン代表取締役兼最高経営責任者(CEO)に英国での状況などを聞いた。

―量子計算機の商用機では「アニーリング方式」が先陣を切る一方で、万能型の「ゲート方式」の進展も目覚ましいです。量子化学向けソフトで実績を持つ立場から、両方式をどうとらえていますか。

「両方式はそもそもシステム自体も、解こうとしている問題も異なり、優劣の関係にない。量子アニーリングは『組み合わせ最適化』といった特定の演算にたけている。これに対してゲート方式は汎用性に優れ、従来型のコンピューターとの親和性がよい。そこは重要な観点としてとらえている」

―マシン性能からみると、いずれもまだ十分とは言えません。

「量子化学などは研究期間が長く、今すぐに完全なマシンを求めてはいない。もとより自動車や化学業界はスーパーコンピューターの活用を通して、量子計算で何ができるかを知っている。先進ユーザーはこの1、2年で計算規模がさらに増えると見込んで、開発投資に踏み出している。それが現実だ」

―英国での取り組みを教えて下さい。

「英政府は2018年に『量子コンピューティング・イニシアチブ』を立ち上げ、産業界のトップ50社に対して、量子計算の基礎やアルゴリズム、適用用途のあり方などのトレーニングを無償で実施している。企業が必要なのは材料化学やシミュレーションの知識であり、量子計算機の活用に伴う面倒な作業は我々のような専業ベンダーが担えばよい」

―CQCの強みは。

「量子力学を用いて化学現象を解明する分析基盤ソフト『ユーメン』に加え、デバイスに左右されない認証可能なランダム数値が使える量子暗号化装置『アイアンゲート』を近く日本市場に投入する。量子暗号化では当社は世界的なリーダーだ。また『チケット』と呼ぶ、量子開発者向けソフトウエアスタックも強みだ」

―日本への助言は。

「日本には理論物理学などで優秀な人材がたくさんいる。大学や研究機関との関係を強化し、そういった人たちが活躍する場を提供したい。量子コンピューティングの研究はこの1年で様相が変わってきた。日本だけが開発段階というわけにはいかないだろう」(取材=編集委員・斉藤実)

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