「ゴーン逮捕」1年、日産は“負の遺産”を断ち切れるか

ゴーン被告はもはや過去の人

日産自動車の元会長カルロス・ゴーン被告が金融商品取引法違反容疑で逮捕されてから1年が経過した。日産は12月には“ゴーン後”の新経営体制がスタートするが、負の遺産は尾を引き課題は山積する。「事業」「提携戦略」「ガバナンス」の観点でこの1年を考察し、今後を展望する。(編集委員・後藤信之、渡辺光太)(総合1参照) 日産の2020年3月期連結業績予想は当期利益が前期比65・5%減の1100億円に落ち込む。世界的な自動車需要の減衰という環境悪化に、日産特有の問題が追い打ちをかける。 問題とはゴーン被告が主導した規模拡大戦略だ。中期経営計画(11―16年)「パワー88」中にタイやインドネシアなど新興国で工場を立て続けに新設した。また米国ではインセンティブ(販売報奨金)を使った安売りで販売増を図った。しかし新興国の工場は稼働率が上がらず、米国では収益性が悪化し、ブランド力も低下した。 立て直しのため日産は7月、22年度までの事業改革計画を公表した。世界で生産能力を1割弱減の660万台に縮小し固定費 を削減するほか、米国販売の適正化に取り組む。一方、電動化や自動運転など先進技術を搭載した新モデル投入を加速しブランド力を高め、収益性向上を図る。 再建策で注目されるのが、かつてドル箱だった米国事業が復活するかどうかだ。19年7―9月期連結決算では米国を中心とする北米事業の営業利益が、前年同期とほぼ同等の359億円となり、スティーブン・マー常務執行役員は「(米国事業復活へ)第一歩を踏み出した」と成果をアピールした。 ただ正念場はこれから。これまでの取り組みは日産の意思によるコスト管理の徹底が主眼だったが、ターンアラウンドの実現には、多くの一般消費者に日産車が選ばれるという難題をクリアする必要があるからだ。まずは冬に投入する新型「セントラ」の売れ行きが、「選ばれる日産」の片りんを見せるか注目される。 9月16日、報酬不正問題が発覚した西川広人社長兼最高経営責任者(CEO、当時)が辞任した。取締役会が促した事実上の“解任”だった。 特に人事・報酬でゴーン被告1人に権限が集中し、外からの監督機能が有効に働かなかった―。ゴーン被告の不正を許した原因について、日産が外部有識者らをメンバーに立ち上げた「ガバナンス改善特別委員会」は3月、こう指摘した。 特別委は日産に「指名委員会等設置会社」に移行するよう提言。日産はこれに同意し、6月に指名委等設置会社に移行した。計11人の取締役のうち7人を社外取締役とし、執行部門への監督機能を高めた。その後の西川社長の解任で、ガバナンス新体制が機能したことを示した。 一方、日産は43・4%の出資を受け入れる仏ルノーと実質的な親子上場にあり、ルノーと少数株主との利益相反問題は残る。取締役会がルノーの不当な影響を受けずに公平な判断を下せるよう、日産には継続的なガバナンス改善が求められる。 この1年間、日産とルノーの企業連合が主導権をめぐって攻防を繰り返した。企業規模で日産が勝る一方、資本面でルノーが支配する歪んだ関係が根本にあり、これまではカリスマとしてゴーン被告がバランスをとってきた。だが、ゴーン被告の逮捕により、たがが外れ両社の綱引きが勃発。日産幹部は「ゴタゴタが長引くと(連合が)駄目になる」と解決を急いだが、関係は一時悪化した。 さらにゴーン被告に代わり、ルノー会長に就いたジャンドミニク・スナール氏に日産は翻弄された。当初は「対等の精神に立ち戻る」(スナール氏)と関係回復を演出したが、4月にスナール氏が日産に経営統合を提案したことが明らかになった。 融和な関係を訴える一方、欧米フィアット・クライスラー・オートモービルズ(FCA)と経営統合を協議するなど狡猾な一面をのぞかせた。日産が6月に開いた株主総会では重要議案に対して「ルノーの意向が反映されていない」(同)と棄権する意向を通達した。 ただ、社外取締役などを増やした日産の株主総会後から、現状の両社は小康状態にある。だが、日産がルノーの影響力をそぎたい考えやルノーが経営統合を求める姿勢は変わっていない。 根本的な火種は残っており、主導権争いに再度陥ってもおかしくない。一方で自動車業界は生き残りをかけて他社や異業種との提携が相次いでおり、三菱自動車を含む連合で相乗効果を創出することが必須だ。 12月1日には内田誠専務執行役員を社長兼CEOとする新体制が発足する。業績回復など課題は山積しており、ガバナンス面での問題はもう許されない。加えて、連合に漂う確執や不信を解消できるか。前途多難な船出となる。

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