「ぷよぷよ」は「テトリス」のよさを反転させて生まれた

連載・発想のスイッチの入れ方#02/ゲーム作家・米光一成

「ぷよぷよ」は1991年に誕生し、今なお愛されている人気ゲームだ。「テトリス」という絶対的な人気を誇る「落ちモノパズルゲーム(落ちゲー)」がすでに世に存在していた中で、ぷよぷよはどのように誕生したのか。生みの親で足元で考案したカードゲーム「はぁって言うゲーム(※)」も人気を博すゲーム作家の米光一成さんに「ぷよぷよ」の核となったアイデアやそれにたどり着いた経緯、そしてアイデア発想法などを聞いた。(聞き手・葭本隆太/写真・成田麻珠) ―「ぷよぷよ」誕生の背景にある最も重要なアイデアは何ですか。  「ソフト(やわらかい)」をテーマにするとよいのではと思ったことが根幹にあります。(そのアイデアに至った背景には)自分も大好きだった「テトリス」のよいところとして連想したキーワードの「ソリッド(硬い)」を反転させることで違うゲームにできればという発想がありました。 ―そのアイデアに至った経緯を教えてください。  私は(アイデアを考える際は)とにかく思いついたキーワードをすべて書き出し、それを客観視する作業を当時から行っています。ぷよぷよを考えたときは「テトリスのよいところ」と「落ちゲーを作る状況」について書き出しました。後者には「スタッフがやる気をなくしている」といったワードがありました。当時はテトリスや「コラムス」が登場し、「落ちゲー」がジャンルとして確立されそうな雰囲気の中で、(所属していた)コンパイルも落ちゲーを作らなくては、とチームが動いていました。サイコロが降ってくるゲームだったのですが、一向に面白くならず企画がつぶれそうな中で私が引き継ぐことになりました。しかし、スタッフはやる気をなくし、飽きている。デザイナーはすでに次のプロジェクトに入っており、新しい絵が描けないので必然的にサイコロを使うことになる。ただ、その時にサイコロでなくても、昔作った別の絵を持ってくればよいと気づき、その前に私が作ったRPGゲーム「魔導物語」の雑魚キャラである「ぷよぷよ」を使えばよいと発想しました。サイコロのゲームで面白くならない中で、サイコロからぷよぷよを出すことでプログラマーの目先が変わり、やる気を出してくれると思いました。 一方、「テトリス」のキーワードとして「ソリッド」がありました。ゲームと言えばマリオとか柔らかいキャラクターを操作するのにテトリスはブロックという無機物を操作する。横一直線に並ぶと消える数学的なソリッドなイメージのルールもあります。それであれほど面白いので「ソリッド」はテトリスのよいところだと思いました。ただ、それを踏襲すると二番煎じになると思って、ソリッドの真反対であるソフトをテーマにすると全然違うものになるのではと考えました。ぷよぷよも柔らかいキャラクターなのでソフトをテーマにするとよいと思いました。 ―たくさんのキーワードの中で「ソフト」が光って見えるような瞬間があったのですか。  考えを巡らせていてふっと力を抜いたときに「やわらかいだわ」と思った瞬間はあるのですが、その瞬間を求めていると出ない気がします。(大事なことは)ほぼ完成しているけれど、自分が気づいていない状況まで自分を追い込んでいるかどうかという気がします。 ―ぷよぷよの面白さの一つに「連鎖」があると思うのですが、これはどのように発想したのですか。  ぷよぷよの要素はソフトというコンセプトからすべて派生しています。元々コラムスには連鎖があって自分で組み込むのは難しいけど、ときどき連鎖によってたくさん消える爽快感がありました。ぷよぷよは一直線でなく曲がってもつながります。これもソフトなイメージです。曲げて繋げることを利用して自分で組み込む連鎖ができると面白いに違いないと。対戦という仕組みもキャラクターの楽しげな声もソフトというイメージからきています。 ―「ソフト」というキーワードが出た瞬間にすべての要素が一気に決まっていくのですか。  とても説明が難しいです。「『テトリスの良さ』と『落ちゲーを作る状況』に関わるいろいろなキーワードをピースとして、最初はランダムで並べているものをパズルのようにはめていくけど、いまいち絵にならないのが、ソフトが見えた瞬間にオセロがすべてひっくり返るようにできた」と説明していたこともあるのですが、どこか実感として違う。ソフトはジグソーパズルがほぼ完成していた中での最後のピースか、もしくは、これを隅においたから後は自動的にわかるわみたいな感じです。 ―ぷよぷよの開発にはテトリスが多分に影響したと思いますが、目の上のたんこぶのように感じることはありませんでしたか。  いや、もう神、神。大好きですもん。もうあれは大発明だと思ってました。テトリスが登場した当時はコンピューターゲームの容量が増えてシンプルなゲームから複雑でストーリー性があってたくさんのキャラクターが登場して、という方向に推移していました。そのころにあれほどシンプルなのにずっと楽しいゲームが現れてショックでした。自分はきれいな絵にだまされていたと。自分はこれが好きなんだと思いました。ぷよぷよを考えるときは神に似た何かにならないように、でも神のスゴいところは受け継ぎたいと考えていたと思います。 ―米光さん自身はぷよぷよの一番の面白さはどこにあると思いますか。  「あれ」全部が答えだと思います。 ―ぷよぷよは20年以上愛され、eスポーツの公式ゲームにもなりました。  ずっと遊んでいただけてうれしいですし、eスポーツに向くなぁと思います。 ―ゲーム作家としてeスポーツの盛り上がりをどのように受け止めていますか。 いろいろと複雑な感情もありますが、大本は歓迎するというか面白そうだなぁと、もっと面白くなるといいなと思っています。 ―複雑とは。  うまく言語化できないのですが、ゲームという非現実的なマジックサークルに入ると、何のしがらみもなく純粋に楽しんで、それが終わったら元の日常に戻ることができるのがすごい利点だと思います。職業として行われるeスポーツは(お金や生活とか)楽しみ以外のものも背負ってしまうので、無邪気なゲームとは少し違うものになる。それはそれで面白いし、スゴいと思うので歓迎していますけど。 ―米光さんが手がけたカードゲーム「はぁって言うゲーム」が足元でヒットしています。  演技力のゲームだけど、その力とは違う場所で勝ち負けが決まる構造は意識しました。大げさに表現する力が求められたり、とても演技しやすいものと演技しにくいものを入れて(カードを引くときの)運が影響したり。(また、)普段の生活では伝わらないとつらいけど、そこをゲームにした瞬間に面白くなる。その反転ができるといいといつも思っています。売れたのは運。自分の作ったゲームはすべて面白いと思っているので、売れなければ(逆に)運が悪かったと思っています。 ―「運が悪かった」ゲームにはどのようなものがありますか。  いっぱいあります。最近では時事ネタを使ったカードゲーム。賄賂とかが出てきてお金をためた人が勝ち。「これは面白い」と思って作ったのですが、冷静になると(賄賂を獲得した悪い人が勝つので)気分が良くない。ゲームは明るい方がいいと反省しました。 ―米光さんにとってこれまでで最高のゲームは何ですか。  今作っているものです。いつもそのときに作っているゲームが一番スゴいと思っています。(今作っているゲームは)タロットカードで遊ぶ「ゲーム」と「儀式」と「占い」をハイブリッドしたもので、手札4枚を持ってルールに従って全部出せればクリアになり、(出したカードによって)占いができます。一人で遊ぶカードゲームはルールを守ることに意味を見出しにくいので、なかなかポピュラリティ(大衆性)を得られない。だから「儀式」ということにして、一人でルールを守ることに対する意識を生み出そうと考えました。普段一人でカードゲームを遊ばないような人が遊んでくれるかもしれないと思っています。 ―これからどのようなゲームを作りたいと考えていますか。  私は大本の仕組みを変えることの影響力は意外と大きいと思っています。(例えば)テレビのクイズ番組に出てた高速道路の休憩所のトイレの話ですが、個室のドアのカギを開ける部分が小物置場になっていて、その仕組みによって忘れ物が激減したらしいです。単なる仕組みなのに交番に連絡するといった働く人たちの手間をなくし、忘れ物をして困る人も減ると。そういう仕組み一つで変わることがたくさんあるし、それをたくさん思いつけば、劇的にいろいろなことが改善すると思います。それを考える人が増えるといいと思っています。私なりのアプローチはこの仕組みだから面白いと体感できるゲームを作ること。それを子供たちがプレーして(仕組みはいろいろなことを変えられると)気づくといろいろなことが変わる気がしています。 <次ページ:アイデア発想は普段の環境作りから> ―米光さんご自身には発想力を磨くための習慣はありますか。  (ぷよぷよを開発したときのように)キーワードの書き出しは意識してことあるごとにやっています。あと一つ大きいと思うのは(ゲームの企画を手がけ始めてから)すべてをアイデアで解決しようと決めた時があるんです。例えば腹が立つ相手がいても怒るのではなく、この人はなぜこんなことをするのかを徹底的に考えて理由について仮説を立てて相手の立場に立って理解して怒りを静めたり。それからはずっと(アイデアを生む)素振りをしているような感じ。常にアイデアを出せる状態です。 ―常にアイデアが生まれる中では使えるものと使えないものがあると思うのですが、使えるアイデアが浮かぶ時はどんな時ですか。  (傾向は)ないです。絵が上手な人が急にド下手になることはないですし、絵が上手な人に絵がうまく描ける時はどんな状態ですかとは聞かないですよね。それときっと同じ。常に一定のクオリティーは出せます。ただ、仮によいアイデアが出せる時と出せないときの差があるとしたら「材料」です。 ―というと。  自分が詳しくないテーマについてよいアイデアを出せと言われても難しい。知識や現場感みたいなものは必要です。詳しい人たちにたくさん聞いて材料をそろえてからなら出せると思います。 ―他人の意見はアイデアにどう生かしていますか。  私はすぐにアイデアを開示して他人の声を取り入れます。アイデアが行き詰まる時は自分でも気づかない枠の中だけで考えてしまっているとき。人の声を聞くと「そんな考えがあるのか」とその人の視点で改善できます。 ―一般のビジネスパーソンも仕事の現場でアイデアを求められる場面があります。ビジネスパーソンがアイデアを出せるようにする上でまず何をすべきでしょうか。  短期的にはなるべく自分の興味や経験があることと結びつけられると勝ちだと思います。釣りが好きな人の場合、釣りとの類似性を考えたり、新製品を釣り人が使うと想定して困りごとを実感として考えたりすると他の人には出せないアイデアが出せますし、その後が楽です。「ひらめいた」がすべてを解決することは本当にまれ。そこからどうするかが立ちふさがるはず。自分に材料があることから出したアイデアであれば興味深く続けられます。 (逆に)それほど興味が無いことについて、いきなりアイデアを考えても出てきません。それについて調べることは大事ですが、その日から調べていくのは昔から興味があった人に比べてスタートが遅れていますから相当損です。 ―長期的に取り組むべきことはありますか。  アイデアを出す環境を整えることが重要だと思います。会社近辺のランチマップを作るとか、仕事とは関係のないことについても同僚とアイデアを出し合う雰囲気を作っていると、いざ仕事のときに役立つと思います。普段からやっていることはとても威力がある気がします。 ―アイデアを共有する方法として企画会議などがありますが、よい会議の進め方はありますか。  企画会議で面白いアイデアが出た経験が私自身にないです。一つ思うのは会議で課題を共有してアイデアを考えるよりも、事前に共有して個々人がアイデアを持ってくる形の方がよいと思います。そこでアイデアをふくらませたり、アイデア同士を掛け合わせたりということであれば会議はあってもいい。 あとアイデアの否定はしないこと。アイデアの段階では全部乗っかっていい。うまく転がって駄目だと思っていたアイデアが新鮮なものになることがあります。もし乗っかれないなら黙っていてそのアイデアが自然に流れるようにする。 それから経験則ですが、困ったことを解決する(課題解決型の)アイデアが必要な場合は(課題に直面した後)即座に検討した方がよいと思います。現場が見えていてアイデアをすぐに試せるという環境は大きいですし、(後ほど)会議で検討となるとそれまでに失われるものがある気がします。          

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