「3つの神話」を引きずる日本と韓国、経済ナショナリズムの不幸

安倍晋三首相(右)と韓国の文在寅大統領

 人生100年時代も時代の針は戻せない。世界経済をけん引してきた先進国には相対的な地位低下とともに、こうしたストレスが存在するが、いささか時代に遅れた三つの神話を護持しながら摩擦を繰り返しているのが日本と韓国だ。  これまでも摩擦や係争は引きも切らなかったが、韓国大法院の徴用工判決の後、日本が半導体関連素材など対韓輸出管理を強化したことで、これまで比較的平穏だった経済分野までが巻き込まれることとなった。  対日感情を抱える一方、経済面では韓国にとって日本は長年の追撃目標だった。今や鉄鋼、造船から家電、携帯電話、半導体に至るまでことごとく追いつき、追い越したというのが、財界人や経済専門家を除けば一般大衆に広く浸透した韓国の経済ナショナリズムだ。  しかも輸出型製造業は自身の通貨危機や、いわゆるリーマン・ショック後などに飛躍を遂げており、「製造業強国は危機を克服できる」という神話までが定着している。  「モノづくり」神話の本家を自認しつつも、多くの輸出型量産型製造業で世界市場シェアを譲ってきた日本にとって、こうした韓国のナショナリズムが愉快なわけがない。そこで登場するのが「基礎技術神話」だ。韓国はしょせん、応用技術で市場シェアを握っただけであり、基礎技術開発は劣後する。  「財閥系」大企業と中小企業間のギャップが大きく、広い裾野産業に欠けるため、今なお作り込みの必要な資本財や中間財は輸入に依存せざるを得ない、とする。半導体関連素材の輸出管理はまさしく、こうした経済ナショナリズムを象徴した選択であり、ノーベル賞発表の季節が巡るたびに日韓のメディアが大騒ぎを繰り返す背景にも同じ文脈が存在するようにみえる。  しかも不幸なことに、「製造業強国」の成立には米国などから見ればほぼ同じにしか見えないであろう「産業政策」が一定の役割を果たした、という認識を日韓は共通で持っている。産業の競争力を左右するのは企業の実力にすぎないが、こうした認識故に産業レベルの話が、いつの間にか政府を含めた国家間の話となりがちだ。  特に韓国では日本以上に政府が民間銀行の信用供与に介入した歴史がある。また近年でも積極的な自由貿易協定(FTA)推進によって輸出環境を整備してきた、という政府広報が集中的に行われたため、「政府主導神話」がより一般に浸透している。他方、韓国に真っ先に反応したのが霞が関の中でも「産業政策」の中心官庁であったことは偶然ではなかったであろう。  双方にとって真に不幸なことは過去の成功体験とその神話にしがみついていがみ合う間にも、多くの事業機会が失われるかもしれないことだ。双方がIoT(モノのインターネット)や人工知能(AI)の時代に真剣に向き合うなら、協力できることは多い。  米中に比べ圧倒的に不足するITやAI関連の技術者確保は喫緊の共通課題だ。また世界有数のロボット市場である韓国、韓流市場である日本といった、そして高齢化社会を効率的に維持する医療や行政サービスなどの現実から見れば、国境を越えたデータ移動ルールについても早く向き合う必要がある。  宇宙旅行はできても、タイムマシンが来ない限り、前を向くほかはないとまずは合意すべきだ。 (文=深川由起子<早稲田大学政治経済学術院副学術院長>)

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