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認知機能の低下リスクに備える…高齢者の資産管理に金融各社が一手

代理出金や顔・音声認証
 「人生100年時代」と言われる中、テクノロジーを活用した高齢者向け金融サービスに注目が集まっている。加齢に伴って高齢者の認知機能の低下リスクが高まり、保有資産への影響が懸念されるため、金融機関などには対応が求められている。銀行口座の入出金や資産管理など幅広いニーズがあるだけに、各社とも対策に力を入れる。(取材・浅野文重)

 三菱UFJ信託銀行による高齢者の資金管理を支援する信託商品「代理出金機能付信託(つかえて安心)」の販売が好調だ。領収書などを専用のスマートフォンアプリで撮って送るだけで代理人が契約者の資産の払い出し請求ができ、高齢の契約者は体力や判断能力が低下しても代理人を通じて自分の金を使える。払い出し請求内容や入出金履歴を他の家族にも伝えることで不正を防止する。「代理人が高齢者の資産をアプリで引き出せるのは初めて」といい、販売から半年で契約が1400件を突破した。

 マネーフォワードでは高齢者の銀行口座の取引状況から認知症や金融詐欺の兆候を検知し、通常とは異なる取引をすれば家族に通知するシステムを検討している。2019年中に京都信用金庫と実用化を目指す。

 認知機能の低下によりキャッシュカードや通帳を紛失する懸念も出てくる。そこで負担が少なく、セキュリティーの観点からも期待されるのが現金自動預払機(ATM)の顔認証だ。

 ATM市場で約3割を占めるOKIはデンソーウェーブと共に開発を進める。顔に関する情報を登録、2次元コード「QRコード」化して携帯端末に送り、この情報を読み取ることで通帳がなくてもATMから現金を引き出せる。

 海外では音声による認証確認が進む。HSBCは電話取引サービスを行う際に、パスワード入力ではなく電話での声による認証を行う。より安全で簡単な身分証明として利用者を伸ばしている。

 日本では高齢者の増加が見込まれている。個人金融資産は年齢に比例して増え、35年には60歳以上の高齢者が個人資産の7割を保有するとの予想があり、慶応義塾大学の駒村康平教授は「資産の高齢化も進んでいく」と指摘する。高齢者の資産をいかに管理していくのか問われている。
日刊工業新聞2019年10月31日

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