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“シンプルで深い”アナログメーターに装着するIoT角度センサー

大阪市大発ベンチャーが実用化
“シンプルで深い”アナログメーターに装着するIoT角度センサー

機械式メーターにユニットのスケルトンタイプを設置した状態(サーク提供)

大阪市立大学発ベンチャー(VB)のSIRC(サーク、大阪市中央区、高橋真理子社長、06・6484・5381)は、機械式アナログメーターに簡単に装着できるIoT(モノのインターネット)センサーユニットを実用化した。独自の磁性薄膜素子により、圧力計や温度計の針が回る角度を磁界の変化で捉え、デジタル数値を自動記録する。ビル・施設の保守や工場の生産性向上とビッグデータ(大量データ)活用で利用できそうだ。

 サークのコア技術は大阪市大の辻本浩章教授(同社会長)が開発した5ミリメートル角の超小型・省エネルギーの磁性薄膜センサー素子(サークデバイス)だ。一つで電流、電力、角度計測、周波数抽出ができる多機能性を特徴としている。実用化第1弾が今回のIoT角度センサーユニットだ。

 心臓部は直径45ミリメートル、高さ22ミリメートルの円筒形部に収められ、直径100ミリメートルの計器カバーを交換する形で設置する。メーター中央に置かれる薄型磁石が針の回転角度を読み取り、数値を近距離無線通信「ブルートゥース」などで送る。複数素子により高精度で、11秒ごとの通信で一つのボタン電池で1年間、稼働する。価格は消費税抜きで1万5000円。同社は顧客のIoTのシステム化まで手がける。

 大規模工場の管理には数百から数千台の計器が使われている。デジタルメーターは非常時の電源喪失で作動しなくなる問題がある。そのため保守・保全が重要な施設では、担当者がアナログメーターを目視で読み取り記録している。人手の不足・高齢化とIoTによるビッグデータ分析で、後付けのデジタル化にニーズがある。

 ファンドを通じて同社に出資するJR東日本や関西電力で実証試験した。今後は、水道管の漏れを感知する水圧センサーの実証を、経済産業省の支援を受けてアフリカで行う計画だ。
日刊工業新聞2019年10月17日
山本佳世子
山本佳世子 Yamamoto Kayoko 編集局科学技術部 論説委員兼編集委員
シンプルで深い、と同社を取材して感じた。針の回転をとらえるというユニークで簡単な製品を面白く思ったが、これは広く同社の可能性を知ってもらうための第一弾にすぎない。コア技術で電流と電圧を測れるため電力計という大市場を狙うが、計量法の検定などハードルが高いことから、これは少し先のプランだという。技術の多機能性に溺れずに、焦点を絞って市場を見ながら着実に進めていく戦略だ。ある時は大風呂敷、ある時は手堅く。ベンチャーこそそんな姿勢が必要なのだろう。

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