【坂村健】「AIと同居」「HaaS」…近未来の住宅はこれだ

連載・住まいが変わる#04

旧赤羽団地に開発した「Open Smart UR スタートアップモデル」

 東京都北区の旧赤羽台団地では、老朽化に伴い2000年に始まった建て替え事業が今なお続いている。その一角に残る旧団地のポイント型住棟(スターハウス)の一室が6月、2030年ころの実現が期待される近未来の住宅に生まれ変わった。設計を主導したのは東洋大学情報連携学部(INIAD)の坂村健学部長。IoT(モノのインターネット)に欠かせないOS「TRON(トロン)」の開発者で、1980年代から民間企業と連携し、コンピューターや通信を活用した未来の住宅を複数実証してきた。そんな坂村学部長に今考える近未来のスマートハウス像や今回開発した住宅を通じて実現したいことを聞いた。(聞き手・葭本隆太)    ―1989年に竹中工務店などと開発した「TRON電脳住宅」など過去の実証住宅と比較してURと開発した今回の近未来住宅「Open Smart UR スタートアップモデル」のコンセプトの特徴を教えて下さい。  AIを活用してビッグデータを解析する仕組みは今までにない取り組みだ。スタートアップモデルには44個のセンサーを備えており、居住者の体温や空間の温度を把握し、空調設備を最適制御して快適な住環境を提供したり、ヒートショックを防止したりする。画像認識により「人が倒れた」などの異常も判定する。複数の住宅のデータをつないで活用する考え方もある。例えば他の住戸と比べて水の消費量が著しく多いことから水道管の故障を迅速に推察するといったことが考えられる。  技術の進化でネットワークの接続コストが安くなったことも(過去の実証住宅と比べて)大きな進化だろう。今では有線から無線に代わり、データはクラウドに直結させている。一方、住宅を構成するあらゆる部品にコンピューターを搭載して通信でつなぐことで、セキュリティー性能を高めたりエネルギー消費量を少なくしたりして快適な生活空間を作るという(未来の住宅に対する)考え方は80年代から変わっていない。  ―パーソナルデータを活用する仕組みに対し、実際に住む居住者からの抵抗は予想されませんか。  一方的にデータを集めるのではなく、居住者に納得してもらえるような制度設計は非常に重要だ。不信感があると普及しない。データの提供が世の中の役に立ち、ひいては居住者自身の健康や生活にとってメリットになると理解してもらうことが大事になる。それが進めば匿名化された形での提供には協力が得られると考えている。  ―UR都市機構と組り組む意義をどのように感じていますか。  独立行政法人であるURは、多くの企業がオープンにつながるハブになりやすい。本物のスマートハウスは一社だけでは実現できない。(住戸単体ではなく)団地という実証フィールドを持っている点も大きい。  ―IoTにおける「オープン」の重要性はこれまでも指摘してこられました。  インターネット時代は多くのモノがつながってこそ威力を発揮する。オープンは欠かせない。スマートハウスシステムは20年ほど前から家電メーカーが興味を持ち、商品化も試みてきた。ただ、結論から言えばうまくいかなかった。自社製品同士とだけつながったり、自社のスマホアプリからのみ操作できたりする仕組みを導入して各社が囲い込んだからだ。技術が悪いのではなく、根本的な考え方が間違っていた。 坂村学部長はこれまで民間企業と連携し、数々の実証住宅を研究開発してきた。左は1989年に開発した初の実証住宅「TRON(トロン)電脳住宅」。右は2004年に開発した「PAPI(パピ)」(提供:坂村健)  ―プロジェクトでは「HaaS」というコンセプトを提唱しています。  自動車メーカーが「MaaS」という移動サービスの提供を提唱するように「aaS(as a Service)化」は世界の潮流だ。住宅でも物理的な住戸にとどまらず、生活環境をサービスとして提供する考え方が重要になる。シェアリングはその一つだろう。例えばクギは金づちを所有しないと打てない時代ではない。三軒両隣と言われた頃に比べて地域の関係性が希薄になった一方で、ネットを使うことにより団地居住者同士などでの貸し借りはやりやすくなっている。  ―HaaSはMaaSと連携することで生活の快適性は高められそうです。  移動は建物同士をつなぐサービスだ。住まいとは密接な関係があるため、HaaS側としてはMaaSによる移動データと積極的につながっていきたい。実際にスタートアップモデルの洗面所の上部に備えたディスプレーでは最寄りのJR赤羽駅に関わる運行情報を表示している。  ―スタートアップモデルでも導入していますが、操作のインターフェースとしてAIスピーカーが商用化されました。これが近未来のスマートハウスに与える影響をどう見ていますか。  操作のインターフェースとしてだけでなく、たわいもない話の相手になることが、特に高齢者の単身住まいが増える可能性が高い日本では重要になると考えている。会話は認知症といったリスクの低減などにつながるからだ。スタートアップモデルは「AIと暮らす」コンセプトを掲げているが、それは住宅や居住者のデータを解析する役割だけでなく、文字通り「同居人」になる価値も大きいと思う。  ―操作インターフェースとして複数の操作をスイッチ一つでできる「スマートスイッチ」を提案しています。  夜寝る前は電気を消して扉のカギを閉めるなど、同時に行う操作を一つのスイッチにまとめることは生活を快適にする上で重要だ。  ―URとの取り組みについて今後の展望を教えてください。  12月をめどに複数の民間企業が参加する「UR Open Smart研究会」を立ち上げる。スタートアップモデルは我々のコンセプトを発信し、研究会に企業の参加を促す呼び水と位置づけており、実際に住むことはできない。このため研究会ではURの団地で実際に居住できる住戸を改めて作って実証したり、団地全体でシェアリングを実証したりすることを検討している。

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