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トヨタの元生産担当副社長が語る、「日本は対抗するより対応すべきだ!」

新美篤志ジェイテクト会長に聞く
 ドイツが進める新産業革命「インダストリー4・0」。日本の製造業にとっても、どう関わるべきかは大きな問題となってくる。トヨタ自動車で生産担当副社長を務めるなど、トヨタのモノづくりに通じた新美篤志ジェイテクト会長に聞いた。
 
 ―インダストリー4・0をどう見ますか。

 「市場調査からアフターサービスまで、企業の一連のプロセスを社外とつないだコンピューターですべて管理することを目指しているようだ。個別のプロセスや企業では日本も相当IT化が進んでいる。だが、もしすべてがつながったとして、どんな新しい世界が来るのかはまだ分からない」

 ―モノづくりのあり方は変わりますか。

 「目指すのは非常にカスタマイズされた製品をどの工場でも作れるようにし、工場でもどんな発注にも対応できること。実現には製品と生産プロセスのアーキテクチャー(設計構造)を変えていくことが必須だ。トヨタ自動車は部品共通化を軸とする設計改革『TNGA』で加工基準を統一するなどの動きを進めており、独フォルクスワーゲン日産自動車も同様。焦点は進み方と広がり方。生産設備だけでなく、作業員の手当てまで日ごとに計算して指示が出るようになれば、社会への影響も大きい」

 ―本当に実現できるのかという気もします。

 「こういうものは、やってみるとどんどん新しい道が開けてくる。ドイツの底力はすごい。自動運転の制御ソフトにも、セキュリティーやセーフティーといった重要な部分でドイツから買わざるを得ないソフトがある。世界が驚くものを実現するかもしれない。少なくとも同じ土俵で話ができるよう、我々もレベルを上げていく必要がある」

 ―トヨタ生産方式を意識しているようです。

 「彼らが目指す“個別大量生産”では、1個1個違うものをあたかも同じように作るわけで、そこはトヨタの“1個流し”の考え方と同じ。違うのは、トヨタでは現場に人間の知恵を活用しようとしていること。すべてを完全に自動化してしまえばカイゼンの余地がなくなる。自動車業界で過去に完全自動化がはやった時期があるが、どこもうまくいかなかった」

 ―国策として進むドイツや、大企業が一気に進める米国に比べ日本はまとまりがありません。

 「ジェイテクトでも工作機械の数値制御(NC)装置を作っているが、他社とは言語が違う。他社と統一して技術が自社になくなることには抵抗がある。個人的には、対抗するより対応する手を考えた方が早いし一緒になって取り組む方がいいと思う。自動車業界でも燃費や安全などの規格は米国か欧州で決まることが多い。そこに乗っかった上で、独自性を求めていく方が現実的だろう」
日刊工業新聞2015年4月9日一面
清水信彦
清水信彦 Shimizu Nobuhiko 福山支局 支局長
新美篤志会長にはいつお会いしても刺激を受ける。知識経験ともに深く、そこに自分の考えを加えて大胆に話していただけるからだ。最新情報にも詳しくてこちらが勉強させられる。今回のインタビューでも、インダストリー4.0に対するトヨタ的な見方とはどのようなものか、端的に教わった気がした。おそらく現役の生産担当役員に話を聞いても、同じようなことをおっしゃるのではないか。あまりファシリテーター的なコメントになってなくてすみません。

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