国内は19施設止まり、日立の粒子線がん治療装置が持つ課題と可能性

痛みがほとんどないメリット、費用が高く小型化に取り組む

日立の粒子線治療装置(北海道大学病院)

 日立製作所が粒子線治療装置の小型化に取り組んでいる。粒子線治療装置を用いた放射線治療は患者への身体的な負担が少ないというメリットがある一方、機器が非常に大型で導入コストが高額のため設置できる医療機関が限られていた。同社はさらなる機器の小型化や省スペース化に注力し、中小病院や新興国の医療機関へ普及を目指す。  日立製作所の粒子線治療装置はがんを治療する大型装置だ。水素の原子核や炭素イオンを加速器で光速の約70%まで加速し、腫瘍に集中的に照射してがん細胞の遺伝子を破壊する。外科手術や化学療法と比べ治療に伴う痛みがほとんどなく、通院で治療できることなどがメリットだ。  粒子線治療装置は医療機器の中でもかなり大きい。加速器や粒子線を発射するガントリーを合わせると少なくとも380平方メートル程度の設置面積が必要で、機器を導入するために建屋を新設することも珍しくない。設置費用が高額のため、国内では19施設の導入にとどまっている。  「ただし最近は小型化のニーズが増えてきた」と同社ライフ事業統括本部の伊丹博幸統括本部長は話す。「以前は治療室が複数あるような設置方法が一般的だったが、現在は治療室が一つしかない『シングルルーム』の方が人気。使用面積や設置コストが小さいからだ」。  同社は2018年9月に民間の医療機関である湘南鎌倉先端医療センターに粒子線治療装置を導入したが、この装置も治療室は一つだけだ。  同社は放射線治療装置で「動体追跡」「スポットスキャニング」という技術に強みを持つ。動体追跡は呼吸や心拍などで動き続ける部位を追跡してビームを照射する。  スポットスキャニングはがんの立体的な形状にあわせて深部から浅部にビームを照射する技術。最も高い線量でビームを当てられる。「市場のゲームチェンジを引き起こした」(伊丹統括本部長)というほど画期的な技術だ。  小型化だけでなく、今後はデジタル技術や人工知能(AI)の活用で付加価値を高めた治療を提案する。「日立の機器を利用し、5万人の患者の治療データを世界中から集められる。  このデータを活用すれば、予後の経過を予想したり化学療法や外科手術と組み合わせた治療法をつくり出したりできるかもしれない」(同)。AIの活用はまだ構想段階だが、必要に応じて他社との協業も視野に入れている。  今までコストの面から装置を導入できなかった中小病院やアジアの新興国も新たなターゲットに捉える。現在装置を導入済みの病院と提携し、ワークフローの短縮やコストカットに役立つ装置の使用について標準的な手続きを作成。中小病院に落とし込んで治療計画の策定などの時間短縮に貢献する狙いだ。  同社の粒子線治療装置は世界をリードする性能を持ち、新たな価値提供や普及を目指している。放射線治療がさらに身近になることが期待される。

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