「移動弱者」を救うのはトヨタかソフトバンクかそれとも…

MaaS実証進む

群馬大と相鉄バスが横浜市内で始めた大型バスの自動運転実証

 人口減少・超高齢化社会が進展する日本では、「移動弱者」と呼ばれる人が増加している。過疎化が進み従来型の公共交通機関の維持が困難な地域では、車を運転できない高齢者は移動の制限を余儀なくされている。こうした現状を打破する起爆剤として期待されるのが、ITを活用した次世代移動サービス「MaaS(乗り物のサービス化)」だ。  MaaSをめぐっては自動車メーカーやIT企業などがこぞって技術開発を進める中、頭角を現しているのが、トヨタ自動車とソフトバンクの共同出資会社であるモネ・テクノロジーズ(東京都港区)だ。トヨタの持つクルマに関する技術やサービスと、ソフトバンクのITを組み合わせ、移動弱者の“足”になろうとしている。  モネは現在、愛知県豊田市や広島県福山市など22の自治体と次世代オンデマンドモビリティーサービスで連携し、実証実験に取り組んでいる。豊田市小原地区では、一部住民向けにオンデマンドバス「おばら桜バス」を使った実証を実施。乗降するバス停や日時、人数を指定して利用できるようにした。  従来の予約受け付けは電話のみだったが、モネのプラットフォーム(基盤)を活用しスマートフォンでの予約や最適な運行ルートの提示、運行の遠隔監視などを検証。実験は2月末から3カ月間実施し、期間中の予約数は約950件に上った。  豊田市の太田稔彦市長は「中山間地域に住む高齢者の移動手段の確保という課題は全国共通だ。その解決に向け豊田市がモデルとなり全国に発信したい」と力を込める。  路線バスも高齢者の移動手段として欠かせない。バス事業者の人手不足が深刻な課題であるとともに、「郊外で高齢化が進んでおり、路線バスの採算が取れないと地域の方々が孤立する」(横浜市の林琢己経済局長)との声も聞かれる。群馬大学はそうした課題の解決に向け、日本各地でバスの自動運転の実証実験に取り組む。14日からは相鉄バス(横浜市西区)と横浜市内で大型バスの自動運転の実証実験を始めた。  群馬大学次世代モビリティ社会実装研究センターの小木津武樹副センター長は「細かい道などはドライバーに任せつつ、幹線道路など自動運転がしやすい場所から入れていく。高齢者の移動手段としてバスの路線はむしろ広げられるのではないか」と期待を寄せる。  ただ、過疎化が進む地域では利用者の絶対数が少なく、シェアリングなどMaaSの効果を実感しにくいとの指摘もある。足元で多くの企業がMaaSの事業化をもくろむが、収益を考えると人口の少ない地域での事業化には困難が伴う。経済産業省と国土交通省がMaaSの実証プロジェクトに着手したように、移動弱者の支援には官民の踏み込んだ連携が不可欠となる。 (取材=名古屋支社・長塚崇寛) 日刊工業新聞2019年9月20日  世界的に加速するMaaS(モビリティー・アズ・ア・サービス)への取り組み。日本には日本流のアプローチ、日本だからこそ克服できる課題があるはずだ。  「まだまだ勝ち筋、成功モデルが見えない世界。だからこそ、できるだけ多くの挑戦、トライアルの機会を創出し、フィードバックを繰り返すサイクルを回すことで社会イノベーションにつなげたい」。6月21日、都内で開催された「スマートモビリティチャレンジシンポジウム」の冒頭、経済産業省の小林大和参事官はこう語った。  経済産業省と国土交通省は、地域と企業との協働による意欲的な挑戦を後押しするプロジェクトをスタート。自治体や企業などが幅広く参加する協議会(6月21日時点で、60の自治体を含む148の団体が加盟)を発足し、各地で展開される実証実験を通じて得られる知見や課題の共有を進めることにしている。  イノベーションの担い手は、革新的な技術やビジネスモデルを生み出す企業や地域である。しかし、MaaSを広く社会に普及するうえで、国が取り組むべき課題は多い。こうした政府の動きと歩調を合わせ、オールジャパンでMaaSプラットフォームづくりに挑むのが、ソフトバンクとトヨタ自動車などによる共同出資会社「MONET Technologies(モネ・テクノロジーズ)」である。  今回のシンポジウムにも登壇し、MaaS普及に向けた課題を自治体やサービス提供者から集め、今後、官公庁との間で共有していくという。そんな同社が描く日本発MaaSの世界観、そして実現の原動力となる協業のカタチとはー。  モネ・テクノロジーズは次世代のモビリティー社会におけるプラットフォームづくりを目指しています。車両を開発するのは自動車メーカーの領域ですが、モビリティーとサービスが連携した高度な移動サービスを提供することは僕らの役割です。  ソフトバンクとトヨタという一見異色の組み合わせは、まず、リアルなものづくりの場面でその効果を発揮すると考えています。自動車メーカーは各社独自の開発力を持っていますが、モビリティーを通じて新たな事業を提供したいと考える企業にとって、個々の仕様に合わせてサービスを開発するのは現実的ではありません。  モネが、メーカーとサービス側の架け橋となって開発ニーズを「翻訳」し、ひとつのコンポーネントを提供するー。こんな役割が担えると自負しています。  2018年3月の発足当時、88社だったモネ・コンソーシアムへの参加者は、現在では250社以上を数えます。各社がMaaSとして実現したいことをヒアリングした上で、実証環境を整えている段階です。  17の自治体とも連携しており、年内にはすべての自治体で実証実験がスタートする予定です。例えば長野県伊那市では移動診察車の実証を始めますが、現状の法制度の枠組みの下で実現できる実証にはどんどん取り組んでいく方針です。  だからこそ、今後の国の政策にはせめて民間企業並みのスピード感を求めます。「できます」と言ってから実現に半年もかかるとしたら、これは民間の感覚、とりわけソフトバンクのビジネス感覚からするとできないことと等しいのです。  今回、日本は世界に類をみないMaaSプラットフォームを作り出そうとしている。その事業構造がつまびらかになっている以上、海外勢との競合は必至です。  だから少しでも早く事業を軌道に乗せ、先行しなければならないのです。米アップルやグーグルに席巻されたインターネットの世界と同じ轍(てつ)を踏みたくない僕の強い信念でもあります。  各地でさまざまな実証を重ねる過程で、みえてきた課題もあります。例えばオンデマンドバスの柔軟な運用・料金体制の設定です。オンデマンドバスは、輸送効率性に優れる路線バスと、快適性を持つタクシーの中間に位置づけられますが、現行の法制度ではその良さが生かせない。  移動型店舗をめぐる問題もあります。「不動産」が「可動産」に変化する視点で捉えるとイメージしやすいのですが、所在地をベースに営業許可を取得する枠組みがなじまない。  あるいは車両のマルチタスク化など現行制度が想定していなかったモビリティー形態にどう対応するのか。これら現場が直面するさまざまな課題を国にフィードバックし、まずは認識を共有することが打開策につながると考えます。だからこそ、官民で情報共有を進め、横断的な課題の整理を進める「スマートモビリティチャレンジ」の取り組みには期待しています。  MaaSを新しいテクノロジーを活用した壮大な社会実験に終わらせてはなりません。最も重要だと考えているのは、将来も収益がきちんと上がる持続可能な事業モデルを構築することです。  個人的にはモネの取り組みの中で、提供されるモビリティー規模とユーザーの満足度との因果関係や、許容されるコスト負担額といったきめ細かなデータも蓄積、そして分析していきたいと考えています。採算が合わないならどうするか。そこはビジネスマンである僕らの知恵の出しどころです。(談) METIジャーナル2019年06月12日

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