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顔パスで日本周遊?!ホステルの最新進化形「bnb+」

AIとIoTでスタッフの労力削減、「日々の暮らし楽しんで」
 リモートワークの推進で街にシェアオフィスやコワーキングスペースが増え、自由な場所で働くことが可能になりつつある今、次に求められるのが宿泊などの効率性や快適性だろう。思い立った時にふらっと好きな場所へ行きたい気持ちはあるものの、遠方に行くには宿泊の手間もあってなかなか腰が重くなる。次世代型ホステルサービスを展開する「bnb+」(ビーエヌビープラス)は、そんな悩みを解消してくれるかもしれない。
※ホステルとは、ドミトリーと呼ばれる相部屋に置かれるベッドスペースに、複数のゲストが宿泊する施設のこと。シャワーやトイレも共同。そのため、価格は1泊2000円前後~とリーズナブルで、気軽に利用することができる。共有空間が多いため、ゲスト同士の交流もよくみられる。

 2019年1月に導入した自社開発の「顔パス」システムでは、顔認識によるAI技術でホステルへのスムーズなチェックイン&アウトができ、注目されている。ホステルは進化している。また、東京・虎ノ門や新橋など、都心で駅チカの好立地に店舗を置きながら、安全・清潔・低価格で泊まれるのが特徴。IoT(モノのインターネット)の取り組みや現代のライフスタイル感をbnb+社長の高志保博孝氏に聞いた。(聞き手・梶田麻実)

▼bnb+の「顔パス」システム


分散型の空間再生ホステル


―bnb+ホステルの特徴は。
 駅近で好立地にあるオフィスなどの空きスペースを宿泊施設にし、空間を再生するホステルとしての取り組みを進めています。経営のノウハウを学んで行く中で、ホステルは分散させたほうが効率的であることに気がつきました。世の中は、まだ労働集約型のホテルが主流ですが、これからの時代、手軽に利用できるシステム化された分散型ホステルが増えていくと思っています。bnb+ホステルも、大阪への2店舗展開が決まり、今後は福岡や沖縄などにも広げたいと考えています。

 昔のホテルは、ラグジュアリーなラウンジが多くありましたが、今は余分そうな空間はそこまで必要がないと思っています。食べたいものや行きたい場所、やりたいことも色々あり、泊まること自体に時間やお金を費やさなくなっています。目的を達成する場所はたくさんあるので、bnb+ホステルでは、宿泊施設として徹底したものをしっかり提供していきたいと考えています。低価格で立地の良い場所に泊まれる、ということを、分散型&IoT化することで実現しています。

「顔パス」システム

―「顔パス」システムとは、どんなものですか。
 顔画像を1枚登録していただけば、顔認証でお客様を特定することができるようになり、その後の利用は顔だけでホステルへの入館が可能です。スタッフも同様に利用しており、宿泊予約管理や入退室状況、決済など、社内システムのすべてを一元管理することで、ホステルの業務効率化に有効なシステムとなっています。顧客や従業員の管理が行いやすいため、ホテルや空港など、様々な場所に取り入れられていくはずです。

 本システムは現在、bnb+虎ノ門店でセキュリティ運用中で、精度に問題なく使われており、今後全店に導入します。将来的には、日本全国にbnb+ホステルを展開し、お客様が顔パスで日本中を旅して回れるような目標を掲げています。

―利用状況はどうですか。
 右肩上がりです。稼働率に応じて価格設定を行う「自動プライシングシステム」を取り入れたタイミングでは、売上げが特にアップしました。基本の価格設定については、地域最安値にしてしまうと100円でも安ければいいという人で溢れてしまうので、一番に安くはしないことで、一定の清潔感を担保できるように心掛けています。

―ユーザ層やターゲットは。
 メインは20~35歳で、若い人が圧倒的に多いです。戦略としてSEOやマーケティングについて考えたこともありましたが、調査をして検証し、それを突き詰めていくと単なる常識に落ち着くので、あまり興味が湧きませんでした。それよりも、自分がやりたいことをしっかり表現できているかどうかが重要で、今後も若い世代が集まるような空間作りに力を入れていきたいと思っています。

よりシンプルに


―「bnb+」という名前の由来は。
 bnbは「Bed & Breakfast(ベッド&ブレックファスト)」の略語で、寝床と朝食だけを提供する小規模な宿泊施設のことを指します。bnb=ホステル、のような意味合いを持つので、そこに価値をプラスをする意味で、「bnb+」と名付けました。

 プラスとは言いつつも、時代はデジタルによってシンプル化していきます。当ホステルをベーシックなものにしていく意味でも、店名に番地を取り入れるなど、今よりもっと分かりやすい形を目指していきたいです。これまでは、忍者をテーマにした店舗や、コスプレに特化した店舗など、コンセプトを重視してきたところがありますが、売上に変化もなく、ホテルの片手間でコンセプトを作っても、お客様を満足させられないことに気がつきました。結局、居心地がよくないと意味がないので、安全で、清潔で、快適に泊まれる環境を整えることに注力します。

bnb+ホステルのベッドスペース

―IoTの導入で期待することは。
 ホステルは小スペースのため、売上に対して人件費が重くなります。すると経費がかかるので、IoT化で削減すべく、システムの勉強をしました。「AIやIoT化で労働を奪われるのでは」と恐れる人もいるようですが、無人化するという意識ではなく、手間がかかることをする必要がないという考え方で、スタッフの労力を減らしたいという想いがあります。仕事に対する負担や不安がなくなり、健康で安全な生活が保証されれば、人は人助けをするのではないかと思っていて、bnb+のスタッフにもそんな風になってほしいと思っています。働き方についても、終身雇用ではなく、一生のうちに2年くらいはうちにいてもいいのでは?というくらいの心持ちでいます。

安全・清潔・低価格で泊まれるホステル「bnb+」

暮らしを楽しむ


―スタッフの働き方はどうですか。
 スタッフとお客様が仲良くなってご飯に行ったりすることもあれば、もともとお客様として利用していた人が、うちで働くようになったこともあります。スタッフには、可能な限り労働時間を抑えて、遊ぶように暮らすことで対価を貰ってほしいと思っています。お客さんとご飯に行ったりして楽しんだら、その様子をSNSに4回以上アップすれば、給与以外に月2万円の領収書を買い取ることにしています。

 これまでは、嫌なことややりたくないことをすることでお金を稼ぐことが多い時代でしたが、これからはyoutuberが収入を得ているように、楽しいことに対して対価を得られる時代になると思っています。その流れはすでに始まっていて、不可能だと思い込んでいたり、社会の常識が変わっているタイミングなので怪しさはありますが、人に楽しみを提供して対価を得られる関係は成り立つと思います。とにかく日々の暮らしを楽しんでほしいです。

―最近は、アドレスホッパーという自宅を持たない生活スタイルも注目されています。
 これからどんどん増えてくると思うので、そういう人たちの生活のプラットフォームになれたらいいですね。生活スタイルもそうですが、旅行自体も少人数化すると考えていて、一人旅や二人旅が多くなることで、バンクベッド(二段ベッド)で低価格のホステルも増えると思います。
※アドレスホッパーとは、職を持ちながらも、特定の住所に定住せず、各地の宿泊施設などを転々としながら暮らす人たちのこと。新世代の新しい生活スタイルとして、注目を浴びている。

―今後の展望を教えてください。
 うちのシンプルなホステルを基準として、他の宿泊施設の価格設定が分かるようなプラットフォームを作りたいです。例えば、bnb+ホステルの1日宿泊チケットを1bnbとすると、Aホテルは1bnbでうちと同じクオリティ、Bホテルは1.5bnbなのでうちより少し高いクオリティ、というような、宿泊施設のレベルが分かりやすく選びやすくなるシステムを作りたいです。インデックスとなるために、まずは日本中にbnb+ホステルを広げていくつもりです。

 誰もやっていないことは、取り組んでいて高揚感があります。日本ではまだドミトリーの稼働率は低く、個室のホテルの方が売上があることも分かっていますが、そのうち絶対にドミトリーの時代がくると思っているので、今のうちに風呂敷を広げて、第一人者になりたいと思っています。

bnb+社長の高志保博孝氏

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日刊工業新聞記者
日刊工業新聞記者
手軽であることで、行動範囲はぐっと広がります。仕事もプライベートも、気軽に好きな場所で過ごすことができれば、毎日の景色に変化が生まれ、今よりもっと暮らしを楽しむことができそうです。フットワークを軽く、柔軟性を持ちながら、新しい環境に身を置いていきたいですね。

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