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文科省が20年度に実施へ、社会人の学び直し教育強化策の全貌

幅広く再チャレンジ支援
 文部科学省は2020年度予算の概算要求で、社会人の学び直し(リカレント)教育の総合施策を打ち出した。観光や農業の6次産業化といった地方創生人材育成のプログラム開発から、リカレント教育の普及・浸透を図るファシリテーターの養成、講座運営の優れたモデル開発まで幅広い。人生100年時代に重要な再チャレンジを、大学を中心とした地域・産学官連携で幅広く支援する。(文=編集委員・山本佳世子)

 社会人教育は18歳人口減少に直面する大学で関心は高いが、実施は全大学の15%程度だ。しかし働き方改革や非正規雇用者の支援との連動で、政府がリカレント教育の強化を打ち出し、各省の20年度関連予算要求は活気づいている。文科省も大学を核にした新規事業を多数、打ち出した。

 このうち25億円と規模が大きいのは、産学官連携でリカレントと新たな就業を進める地方創生人材養成だ。観光や1次産業の高度化などをテーマに、「都市部で働きながら地域の学びと副業的な活動を経験し、転居・就職に結びつけてもらう」(文科省総合教育政策局)設計とする。

 教育改革と関わるのは人文・社会科学系大学院での実践的プログラム開発だ。理系と異なり文系のリカレントは、社会人学生と所属企業に溝が生じがちだった。ソサエティー5・0時代のリーダー養成であれば、産学の組織的な連携で進められると期待される。

 ユニークなのはリカレントのファシリテーター養成だ。個人ニーズに応じて受講先や科目選択を助言したり、リカレント向け新カリキュラムを設計したりする支援人材だ。

 また、各大学が手がける講座の中身を丁寧に調査し、広報活動と収支など自立できる分野別のモデルを確立する事業も目を引く。個別大学に任せきりではない、リカレント推進の基盤ができてきそうだ。

                    

キーワード/再チャレンジ


Q もともと政府発の言葉だよね。

A 「仕事などの活動が思うようにいかなかった人も、再び挑戦できる社会をつくる」というメッセージが込められている。就職氷河期世代が非正規雇用から正規雇用の仕事に変わったり、子育てで退職した女性が社会復帰したり、といったイメージが強かった。

Q 最近は転職など、もっと広く使われている印象だ。

A そうだね。でも横滑りの転職はともかく、前向きな転職ならキャリアアップを目指すもの。より高度なビジネススキルや、新時代のニーズに対応する能力を身に付けないと簡単ではない。その意味で再チャレンジには、リカレント教育が重要だ。

Q 働きながら学ぶのは大変だよ。

A 文部科学省の3000人対象の調査によると、大学などで「学んでいる・学んでみたい」との回答は36%。30代に限ると50%を超えるという。課題は費用や時間、教育プログラムの拡充や情報を得る機会など。これらを改善すれば、挑戦する人はもっと増えてくるだろう。
日刊工業新聞2019年9月5日
山本佳世子
山本佳世子 Yamamoto Kayoko 編集局科学技術部 論説委員兼編集委員
文科省の担当部局が多様さが印象的で、リカレント教育の総合展開を改めて実感する。総合教育政策局(旧生涯教育局が中心)は生涯学習推進課、地域学習推進課、教育人材政策課、男女共同参画共生社会学習・安全課などフル出動。高等教育局からは大学振興課、専門教育課などが加わる。縦割りとならずにパワー発揮となることを期待したい。

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