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5G時代へ!KDDIが提案する“デジタル×リアル”動物園

とびだせアニマルテック #3 『one zoo』
5G時代へ!KDDIが提案する“デジタル×リアル”動物園

動物園を楽しむアプリ「one zoo」

 デジタル化が進み、スマホやタブレットで多くのことがこなせる現代。家にいながらにして体感できるコンテンツの進化は止まりそうにない。しかし、確かに魅力的ではあるが、気が付けば休日は家にこもりがちになり、リアルタイムの景色を見逃してはいないだろうか。そんな中、KDDIと博報堂が共同開発した動物園をより深く楽しめるアプリ「one zoo」が注目を集めている。2018年9月に開発されて1年、制作経緯から、間近に迫る次世代通信規格「5G」時代に向けた今後の取り組みについて、KDDIライフデザイン事業企画本部ビジネス統括部長の繁田光平氏に話を聞いた。デジタルでリアルな体験価値は向上するのだろうか。
▼one zoo(https://onezoo.jp
全国の動物園から届けられる動画により、いつでもどこでも動物の姿を楽しめるだけでなく、位置情報を活用したナビや音声ガイド、デジタルスタンプラリーなどにより動物園内の体験価値も確実にアップデートしている。基本料金無料のキャリアフリーで誰でも気軽に始めることができる。

KDDIライフデザイン事業企画本部ビジネス統括部長の繁田光平氏

楽しい場所をもっと楽しく


―「one zoo」開発のきっかけは。
 「auスマートパス」という1500万人の会員がいる月額特典サービスで、クーポンを利用する人たちが飲食店に長蛇の列が作ることがありました。そんな状況を見て、もっとみんなが行ったことのない場所や人が行き届いていない場所に対し、大勢の人が出かけていくようなきっかけ作りができたらいいなと感じていました。
 通信会社として、5G時代到来に向けてどこから5G化するかを検討していた時、不便が解消されるスマート化よりも、楽しい場所がもっと楽しくなるようにテクノロジーでアップデートしていく方が、きっとみんなが喜んでくれるだろうと考えました。そんな場所を探していた時期に、たまたま動物園好きの知人の話を聞き、「これだ!」と思ったところから本格的な取り組みを始めていきました。

―具体的にどこにアップデートの可能性を感じましたか。
 飼育員さんの話を聞きながら動物園を歩いていると、檻の窓際に座るオランウータンの姿が見えました。人懐っこさから近くに寄ってきていると思っていると、飼育員さんに、「この行動は、“自分の縄張りだからこれ以上近づくな”という意味です」と教えられて驚きました。知っているようでいて、実は知らないことはたくさんあります。動物園の内側と外側から見る情報の差やギャップを、テクノロジーを使って埋めることができれば、動物園の楽しみ方はもっと広がるように思いました。

動物園の体験価値をアップする、アプリの園内情報

なんてことのない日常が面白い


―制作にあたり、動物園の人たちと話し合ったことは。
 「one zoo」の企画を提案した際、動物園の人たちに、「どれもなんてことのない日常なのに、なにが面白いの?」と言われました。私たちからすると、例えばコアラを体重計にのせて重さを量る姿や、今日一日過ごす木を決めてゆっくり登っていく姿一つとっても、魅力を感じますが、動物園の人たちからすると日常の出来事なんです。
 チンパンジー舎に360度カメラを設置する案がでたとき、「チンパンジーは握力が300㎏もあるので、カメラなんか一溜まりもない」と言われ、ふとした返答の一つにも面白さを感じました。普段は園の外側にいる私たちが感じる、動物の魅力や価値について、どのように伝えられるかを考えました。
 動物園の人たちは、動物のことをとても大切に考えています。課題解決のためには技術も必要ですが、動物が喜び、園を支える人たちにとっても負担がないことが重要です。みんなに喜んでもらうためにどんなツールが使えるかを検討し、提案していきました。

全国の動物園にいる動物の様子を動画で見ることができる

―特に工夫したところは。
 動物園は入場料が安く、100円や200円の園もあります。来園者はお弁当を持参して昼食をとる人が多いため、入園後の一人あたりの売上が100円に満たないことも。「安く遊びに行ける場所」というイメージが定着し前提を崩すことが難しく、価格を上げにくいという現状があります。財政面の苦難により、動物の交配をスムーズに進めていくことや、展示の檻や設備の修繕も難しくなっています。
 私たちは、イベントやライブのようなリアルの場に行くと、興奮が増幅し、その感動体験や価値に対してお金を支払いますが、動物を見て「かわいい」「かっこいい」と感動する体験に対しては、どうでしょうか。そこで、「one zoo」の会員料金の一部を動物園に寄付し、別のモデルからお金を回すことで、動物の飼育や繁殖の研究が進み、園の存続に繋がり、より多くの人が動物に触れることができたら素敵だと思い、通信会社の新しい取り組みとしてできることを考えていきました。

―アプリで満足してしまい、動物園に行かなくなる懸念はなかったですか。
 確かにそういう議論はありましたが、まずは動物に興味を持ってもらうための案を練りました。動物につけられた個体の名前を出し、お気に入りマークをつけられることで、一匹一匹に愛着を持ち、実際に会いに行きたくなるような仕組みにしています。また、動物園の情報はあまり表に出ないため、ナイトズーの開催やエサやり体験の実施など、イベントの掲示もしています。auスマートパスと連携し、プレミアム会員は日曜日の動物園を無料にするなど、送客が上手くいくようなシステム作りにも力を入れました。

アプリ内では、動物の名前や情報、動画検索も可能

デジタルで作るリアルの場


「one zoo」デジタルスタンプラリー

―ところで、デジタルスタンプラリーとはどんなものですか。
 動物の足の形のスタンプをスマホにあてるとアプリ上に印がつき、全部集めるとプレゼントが貰えるという、デジタルのスタンプラリーです。足の形のパターンにより、動物の種類を認識するように出来ています。子供たちに興味を持ってもらえるような分かりやすい作りで、「one zoo」の中でも人気の高いコンテンツです。

スマホのアプリにスタンプを押す

―開発から一年経ちましたが、意外だった点は。
 多くのお客さまにご利用頂いているなかで、子育て中と思われる30代女性のダウンロード数が多い傾向にあります。ターゲットについては、多くの方に動物園に行っていただきたいという思いから、開発当初は新規のお客さんを増やす方向で動いていましたが、コストや効率性の観点からみると、広告などで新規の人たちを呼び込むよりも、まずは日常的に来園しているロイヤリティの高いお客さんに向け、2回目3回目の来訪を促すほうがいいかなど、現在登り方を再検討しているところです。
 デジタルスタンプラリーのような見た目にわかりやすいものを作り、リアルの場を楽しんでいただくために必要となるID登録を通して、次にまた来園してもらうきっかけを作っていければと思っています。

―5G時代に向け、意識していることはありますか。
 テックベンチャーなどと連携しながら、まるで横に飼育員さんがいるかのようにいろんな情報が分かるようになればいいなと思っています。デジタルで操作すると、遅延なく瞬時に情報が出るという状態が、到来する5Gの世界です。テクノロジーの導入については、赤外線カメラがあると眠れない動物がいるなど難しい点もありますが、可能な場所にはライブカメラを設置して撮り続けていくことで、動物に異変があったときに映像を見返せたり、学術的に使えるデータになる可能性もあるなど、メリットはあるはずです。
 普段はデジタルに接することが少ない環境だからこそ、デジタルトランスフォーメーションで大きく課題を解決することができるのではないかと考えています。新しい決済システムについても動物園側からお話をいただき、現在導入を検討しているところです。

―今後の取り組みについて教えてください。
 5Gの対応をはじめ、企画を考えていく必要があります。5Gでは“リアルがデジタル化される”という考え方を大切にしています。現在、動物園に、観光望遠鏡のようなハードウェアの設置を考えています。100円玉を入れて覗くと、目の前にいる動物がよく見えるかと思いきや、VR映像で他の動物園にいる動物や世界中にいる様々な動物を見ることができ、リアルの場で新たなデジタル体験ができるものです。
 アプリ内では、全国の動物園を生中継する『ライブZOO』や、いいね!することで動物へ想いを届ける『ハートサポート』というシステムの導入も検討しており、ソフトウェアレベルで動物園の体験価値を上げていくことができる。今後も、デジタルでリアルの場をアップデートすることに注力していきたいと思っています。「久しぶりに動物園に来たら、さらに楽しくなっている」と感じてもらいたいですね。

「one zoo」で動物園をもっと楽しく
▼提携動物園
現在、下記動物園で園内サービスが利用可能。提携動物園は順次拡大予定。
「旭山動物園(北海道)」「よこはま動物園ズーラシア(神奈川県)」「金沢動物園(神奈川県)」「野毛山動物園(神奈川県)」「のんほいパーク(愛知県)」「天王寺動物園(大阪府)」「愛媛県立とべ動物園(愛媛県)」「福岡市動物園(福岡県)」
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日刊工業新聞記者
日刊工業新聞記者
街ではスマホの画面ばかり見ている人が多くみられます。ふと気がつくと、眉間に皺が寄っていませんか。情報収集に追われる無意識の使命からときには離れて、街の景色や声に目や耳を向けてみて分かることもきっとあります。リアルの場を感じる興奮はいつまでも変わらないはずですよね。

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