ニュースイッチ

あおり運転で脚光「ドラレコ」はどこまで進化するのか

記憶より記録
あおり運転で脚光「ドラレコ」はどこまで進化するのか

広範囲を撮影できるユピテルの「marumieQ−01」の撮影動画

 ドライブレコーダーの普及が進んでいる。常磐自動車道で起きたあおり運転殴打事件を受けて、量販店では市販品の注文が殺到。業務用でも運送業者だけでなく一般企業の営業車にも導入が広がる。メーカー各社は運転時のさまざまなトラブルに対応できるよう機能を強化した新機種の投入や、ドラレコを活用した新たなビジネスモデルの構築に乗り出している。

 オートバックスセブンでは事件が明るみに出た後の1週間(8月12―18日)のドラレコの販売が前の週に比べ大きく伸びた。8月は需要が高まる季節要因はあるものの事件の影響は大きく、車両の前方と後方を両方撮影できる2カメラ型は約2・1倍、前後左右を録画できる360度型は2・3倍になった。

 「運転のトラブルや事故は一瞬の出来事で、記憶を頼りに状況を説明するより記録として残した方が安心できると思って購入する人が多い」(同社広報)という。

 ドラレコに注目が集まったのは今回の事件に始まったことではない。富士キメラ総研(東京都中央区)の東雄大研究員は「社会的な注目が集まる交通事故や事件がメディアで取り上げられると販売が増える」と指摘する。

 2012年に京都市で起きた暴走事故では周囲の車がドラレコで捉えた動画が取り沙汰された。以降年約20%の増加率でドラレコの販売が伸びている。17年にはあおり運転の末に東名高速で痛ましい追突事故が起きたが、この事件もドラレコの関心を高めた。

 東研究員によると国内市場は大手電機メーカーのほか、海外からOEM(相手先ブランド)で調達する企業、工場を持たないファブレス、海外メーカーなどが台頭し、100社ほどが参入しているといわれ、競争は激しさを増している。

 製造販売大手のユピテル(東京都港区)は、2009年にドラレコ事業に参入。鮮明な映像を残す画像処理技術や全方位を撮影するドラレコの投入や駐車中の監視など機能を強化しながら商品群を増やしている。市販用のほか業務用にも力を入れており、タクシーやバスなどの運輸業、トラックなど運送業向けに増やしている。

 交通トラブルの対応や交通事故を未然に防ぎたいとする企業が自己防衛のためにドラレコを導入している。近年の傾向として一般企業の営業車の導入が増えているといい顧客層がさらに拡大している。東研究員は、ドラレコの市販市場は25年には17年比37%増の181万台になると予測している。
            

通信型でさまざまな顧客の課題を解決


 高性能で価格も手頃なドライブレコーダーが増える中、各メーカーは通信型ドラレコを活用したテレマティクス事業を強化する。運転のトラブル回避のほか、カーナビゲーションシステムと連携して業務用車両の運行管理に役立てるなど、顧客が抱える課題解決につなげている。

 JVCケンウッドはシンガポールの配車サービス大手グラブと共同で、インドネシアでの運転手向けセキュリティーサービスを始めた。インドネシアでは配車サービスの運転手が乗客に襲われたり、車が盗まれたりするなど事件が多発し社会問題化している。

 同サービスは運転手に何らかの危険が及んだ場合、車内の緊急ボタンを押すことで通信型ドラレコを介して外部のオペレーターにつなぎ安全を確保するもの。オペレーターはドラレコの映像を確認し、状況に応じて警備会社への手配や近くの配車サービスの仲間らに知らせるなど対処を仰ぐ。

 2018年6月にインドネシアの複数箇所で実証実験し、19年4月にジャカルタで正式に商用サービスを開始した。当面はインドネシアにおけるグラブの登録運転手の約1割に当たる3万5000台分の導入を目指す。サービス開始から運転手が大きな危険に遭遇する事案は発生していないが、盗難車両の早期発見につながるケースが増えているという。

 パイオニアはドラレコとカーナビを組み合わせて交通安全や効率的な運行管理を支援する業務用車両向けのクラウドサービス「ビークルアシスト」を展開する。

 専用車載端末を通信回線を通じてクラウドサーバーにつなぎ、各車両の位置や走行軌跡などのデータを集約する。運転中の急加減速や急ハンドル、速度超過など危険挙動を検知した場合、ドラレコで撮影した運転映像と合わせ、危険運転の分析や通知、指導などといった安全管理に役立てる。業務用車両を運用する運送業者や介護・福祉関連企業での採用が進む。

 運行管理においても巡回や配送、送迎など最適な走行ルートを容易に作成できるため、例えば専門の運転手を置かず従業員自らが車を運転して人員を送迎する場合など、誰でも安心して運転に集中できる環境を整える。

 富士キメラ総研(東京都中央区)の東雄大研究員は「ドラレコはこれまで録画中心の役割だったが、今後はシステムを構成するデバイスになるだろう。MaaS(乗り物のサービス化)やソリューションビジネスに活用される」と指摘する。ドラレコの普及とともに既存のビジネスを組み合わせて付加価値を提供しようとする動きが加速しそうだ。
通信型ドラレコで運転手の安全を支援する

(取材・松崎裕)

 
日刊工業新聞2019年8月29日 /30日

編集部のおすすめ