「軽」が“普通”になる日、機能で登録車級も存在感埋没!?

燃費性能とコスト競争力を磨き続けられるか

ホンダ「エヌワゴン」の新モデル(ホンダ公式サイトより)

 軽自動車の商品ラインアップに新潮流が出てきた。キーワードは“普通”。近所の買い物の足といったように用途を限定せずに普(あまね)く利用できるよう安全運転支援機能などを拡充したモデルや、シンプルなデザインを採用したモデルが増えてきた。この新カテゴリーが新規開拓や買い替え需要を活性化すれば、軽全体の販売拡大に結びつく。一方、機能面で登録車に一層近づくこの流れは、軽の存在意義を低下させる懸念をはらむ。  ホンダが7月に発売した軽「N―WGN(エヌワゴン)」の新モデル。先進安全運転支援システムを標準搭載したことに加え、ハンドル位置を上下・奥行きで調整できる機構を新設したのも特徴だ。旧モデルではハンドルは、女性ドライバーを想定した位置に固定しており、男性ドライバーが乗ると手が届きにくかった。  コスト高になる同機構を軽で採用するのは業界で珍しく、社内に慎重な意見もあったが、「軽のユーザー層の広がりを考慮」(本田技術研究所の黒崎涼太パッケージデザイナー)して踏み切った。新モデルを身長190センチメートルの男性に試してもらったところ「『やっと快適に乗れる軽ができた』と評価いただいた」(同)と満足げだ。  日産自動車と三菱自動車が共同開発して3月に発売した新型軽(日産「デイズ」、三菱自「eK」)は自動運転・安全機能を多く搭載したのが最大の売り。軽をファーストカーとして利用する消費者が増え、「用途では登録車と変わらない存在になった」(星野朝子副社長)と認識し、日常の買い物からレジャーの遠出まで対応できるようにした。  「(存在を誇示するような)どや顔とは遠いイメージでしょう」―。ダイハツ工業が7月に発売した新型「タント」の“変身”を同社デザイン部の才脇卓也主査はこうアピールする。フロントマスクを簡素にしたほか、車体にメリハリを付けるキャラクターラインを少なくして幅広い客に支持される洗練されたデザインに仕上げた。  同部の竹川侑子氏は「従来、軽はかわいさや力強さを強調するため、足し算の発想でデザインしてきた」という。「しかし、最近は素の自分の価値観を大切にする人が増えており、過度に飾らないデザインを求める声が大きくなってきた」と背景を説明する。  ホンダの新型エヌワゴンも旧モデルよりデザインをシンプルにした。寺谷公良執行役員は「販売前から顧客やディーラーは好意的。2輪車の『スーパーカブ』のようにスタンダードになり得る」と自信を示す。  機能とデザインの両面で性別や年齢、用途を限定せず、普く利用できる―。デイズやエヌワゴン、タントの新モデル登場によって、こうした特徴を持つ軽のラインアップが厚みを増した。  国内乗用車販売に占める軽比率は、軽自動車税が2015年4月に1万800円(従来は7200円)に上がった前の14年に39%とピークを付け、16年は32%まで下落したが、17年は33%に回復し18年は34%まで戻した。  足元でも「軽販売は底堅い」(星野日産副社長)、「全体的に軽を選ぶ人が増えている」(倉石誠司ホンダ副社長)との声が上がる。“普通”に進化した軽が消費者に受け入れられれば、軽販売比率は35%程度で安定化し、さらに40%を伺う展開になる可能性もゼロではない。  一方、各種装備の充実で軽の価格は高くなった。総務省の小売物価統計調査によると7月時点の平均価格は約142万円と10年前と比べ約36%、5年前と比べ約10%上がった。軽は機能と価格の両面で登録車に近づいている。今後、軽の差別化要素が薄れていけば、優位性を失いかねない。  10月から自動車税(登録車)が下がっても軽自動車税と倍以上の開きがあるが、中西孝樹ナカニシ自動車産業リサーチ代表は「両者の間で機能や価格で差がなくなれば、『税金の差も縮めるべきだ』という機運が高まるのではないか」と指摘する。  日本自動車工業会がまとめた「軽自動車の使用実態調査報告書(17年度)」によると軽の選択理由(経済面)は「税金が安いから」が67%でトップ。登録車との税金差が縮んでいけば、どこかで需要が一気に流れかねない。  登録車に対する独自性を維持するため、特に軽を主体とする自動車メーカーは、安全運転支援など先進機能の拡充と並行して、燃費性能など軽の以前からの強みとコスト競争力を磨き続ける姿勢が欠かせない。 (取材・後藤信之)

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