世界を旅する女性写真家が魅了されたインフラメンテ現場のリアル

連載・インフラを生かす(4)

 汚れた作業着を身にまとったたくましい男性が優しい笑顔を向ける―。そんな1枚で始まる写真集『インフラメンテナンス 日本列島365日、道路はこうして守られている』が話題を集めている。道路やトンネルといったインフラを維持するための工事現場で働く人たちを生き生きと捉えており、4月の出版以来、全国の書店でパネル展示などが行われ、現在は大阪・梅田の蔦屋書店で写真展が開かれている。  著者は山崎エリナさん。これまでに40カ国以上を旅して撮影し、国内外で多数の写真展を開催してきた。海外での評価も高い。そんな山崎さんに、インフラメンテの現場にカメラを向けた理由や写真集を通して伝えたい想いを聞いた。(聞き手・葭本隆太)  ―なぜインフラメンテの現場を撮影しようと思ったのですか。  福島市にある寿建設の森崎英五朗社長から「現場の写真を撮って欲しい」という声かけをいただいたのがきっかけです。私の写真集『ただいま おかえり』を見て関心を持っていただいたようで。私も現場ってどういうものだろうという好奇心があり、一度福島に行こうと思いました。  ―最初から前向きだったのですね。  すぐに現場を見てみたいと思いました。あとこれは後付けになるのですが、出身が神戸で阪神・淡路大震災を経験したことも影響したのかなと。高速道路が分断されていたり、道路が陥没していたりする様子を目の当たりにして。そしてそれがいつしかきれいに改修され、町が復興していく姿を見ました。日本の技術はすごいと思ったし、そこには直してくれる誰か、人の力があるのだろうと感じていました。心のどこかにあったそういう思いが福島に行くことを後押しした気がします。  ―現場の第一印象はいかかでしたか。  それが草刈りの現場だったんですよ。(インフラメンテというと)道路補修のイメージが強かったので草刈りもメンテなんだと驚きました。でもすぐにそこで作業する人たちの魅力に引きつけられました。作業をよく見ると道路のコンクリートと草のすれすれの部分をすいすいと刈っていてすごいなと。刈った草が飛ばないように飛散防止ネットを持った人が草を刈る人のリズムに合わせて動くといったすばらしい連携プレーもあって。こういった人たちに私たち(の生活の基盤)が守られているのだと感銘を受けました。それからどんどん現場にのめり込みました。初めて現場に行ったのは2017年秋ですが、それから毎月通っていて、今も続けています。  ―これまで撮影を続けてこられて、印象に残っている場面はありますか。  色々あるのですが、除雪作業はその一つです。夕方に指令が入って朝方まで除雪していて不眠不休で作業していることに驚きましたし、除雪された道を子供たちが通学していく姿を見て感動しました。インフラメンテはこういうことだと。私たちが気づいているようで気づいていないところを丁寧に整備してくれているんだなと。  ―写真集では現場で働く人を主役に据えられています。  人を主役に据えることに理由はいらないという感じです。現場を見ていて技術や頭脳、体力、精神力が備わっていないとできない仕事だと思いました。炎天下でも大雪の後でも集中力を途切れさせずに作業している人たちの熱量を捉えたいと思いました。  ―時折見られる働く人たちの笑顔の写真も印象的です。  作業が終わってほっとした瞬間に笑顔が〝ほろほろ〟とあふれる姿を捉えて、作業員の方の人となりのようなものを写真に閉じ込められれば、実際にどんな人が作業してくれているのかを読者に伝えられると考えていました。  ―撮影時に意識されたことはありますか。  (被写体と)1―2メートルくらいの距離間で自分もほこりにまみれて作業員の一員になったような感覚で撮ることを大切にしています。望遠は望遠の写真にしかならないと思っていて、そばに寄れるだけ寄って撮るからこそ、その場の体温や力強さを表現できるということをモットーにしています。  ―これまでの作品と比べて、ご自身でお感じになる違いはありますか。  ここまで人と向き合って、人の魅力に引っ張られて撮影した作品は初めてだと思います。これまでは世界を旅して路地裏とか人の気配を感じる場面を撮っていたので。その意味では私の写真家人生において大きな転機というか、大きな出会いだったと思います。  ―写真集を特に読んで欲しい人はいますか。  建設業の方などいろいろな立場でインフラに関わっている人たちはもちろん、一般の人も見て欲しいです。できれば子供たちにも。厳しい暑さや寒さの中で、力強く誇りを持って仕事をしている人たちがいることを知って欲しいですね。(インフラメンテの現場について)文章で理解することも大事ですが、写真はぱっと視覚で働く人たちの魅力が素直に入っていく力がありますから。  ―インフラメンテの現場には通い続けているとおっしゃっていましたが、これからどのような写真を撮りたいと考えていますか。  全国に目を向けて地域の現場のカラーを追いかけたいです。すでに新潟や栃木の現場を訪ねていて、同じ作業でも異なる厳しさがあるのだと感じています。例えば新潟は海風が強くて風に吹かれながら作業する厳しさがあります。そうした地域によって異なる部分を捉えていきたいです。また、福島ではトンネルを作る現場を掘るところから追いかけています。そのトンネルが完成するまでや、完成してから人が通るまでを時系列で追いかけたいです。時間はかかるかもしれませんが、こんな過程があったから私たちの車が通れるようになったと1本のストーリーで伝えられたらと思っています。 【略歴】山崎エリナ(やまさき・えりな)兵庫県神戸市出身。1995年渡仏、パリを拠点に3年間の写真活動に専念する。40カ国以上を旅して撮影。国内外で写真展を多数開催。海外での評価も高く、ポーランドの美術館にて作品収蔵。ダイオウイカで話題になったNHKの自然番組ではスチールカメラマンとして 同行し、深海を撮影した。18年には「インフラメンテナンス写真展」を福島、仙台、東京ビッグサイトにて開催。写真集に『アイスランドブルー』『千の風 神戸から』『ただいま おかえり』『三峯神社』『インフラメンテナンス 〜日本列島365日、道路はこうして守られている 』などがある。  ☆写真展情報     日時:2019年10月16~28日(10月19日13時~山崎エリナトークショー開催)   場所:リコーイメージングスクエア新宿(東京都新宿区西新宿1-25-1新宿センタービルMB)     日時:開催中(2019年8月31日まで)   場所:梅田蔦屋書店 店内4thラウンジ(大阪府大阪市北区梅田3-1-3ルクアイーレ9F)

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