産業界が投資する、目で見て走るロボットのテクノロジー

既存の研究を覆す可能性が眠っている

大阪大学コマツみらい建機協働研究所によるトポロジカルマップと全方位カメラを組み合わせた研究(全方位カメラの映像、阪大提供)

 目を頼りに移動するロボットの開発が進んでいる。全方位カメラが普及し、人工知能(AI)技術で画像の用途が広がった。画像の特徴を基にロボットの位置や移動方向を求める研究が進む。ロボットが移動するには正確な地図が必要だが、人間は初めて訪れる場所でも簡単な道案内があれば目的地にたどり着ける。この差を埋めようという研究だ。まだ基礎的な段階だが産業界は投資している。(文=小寺貴之)  大阪大学コマツみらい建機協働研究所の大須賀公一所長と立命館大学の倉鋪圭太准教授らは、「トポロジカルマップ」と全方位カメラを組み合わせて市街地を移動するロボットを研究する。トポロジカルマップは距離や形、方向の概念を持たない地図だ。特定の地点を見た目の特徴で識別し、各地点を結ぶつながりを道としてマップを作る。  自分がどの地点にいるか、どの道を進むと、どの地点に着くかという情報だけで目的地へ移動する。  大須賀所長は「3次元地図の作成は、ある意味力業。環境が変化すると対応が大変になる」と指摘する。  研究では全方位カメラを基に70メートルの道を道なりに移動できた。15枚の全方位画像をラベル付けし、180枚に増幅して学習させた。大学の構内を走らせると学習時にはいなかった歩行者や自転車がノイズになるものの、初期位置を変えても道なりに移動できた。大須賀所長は「マップとカメラを用いた移動は全地球測位システム(GPS)が使えない環境での選択肢になり得る」と期待する。  見た目だけに頼ると景色が変わると混乱してしまう。物流倉庫では日々、棚の荷が入れ替わり、昼夜の照度変化も問題になる。  産業技術総合研究所の「豊田自動織機―産総研アドバンスト・ロジスティクス連携研究室」は、荷と照度の両方が変わっても、自己位置を見失わない技術を開発した。庫内無人搬送車の「単眼SLAM」への利用を想定する。  SLAMとは自己位置推定と地図作成を同時に行う技術で、単眼SLAMでは広角カメラの画像から特徴的な点をいくつも抽出し3次元地図を作る。移動時は地図と照合して自身の位置を推定する。    そのため地図作成時と移動時で景色が変わると特徴点を照合できなくなる。この原因を分析する所から始めた。  特徴抽出やベクトル化で、それぞれ精度が悪化していることを特定。搬送車の運用を工夫することで対策した。荷の並び方や明暗が変わっても位置推定が可能になった。古室達也研究専門員は「今後、画像認識と組み合わせ知能化を進める」と力を込める。  ロボットに移動の仕方そのものを体得させる試みもある。リコーはシミュレーションでロボットにあらゆる階段を上り下りさせている。急峻(きゅうしゅん)ならせん階段や段差が等間隔でない、うねる階段など、シミュレーションならいろいろな障害を設定でき“意地悪”ができる。リコーの山科亮太シニアスペシャリストは、「シミュレーションでいじめにいじめ抜いて制御動作を獲得させ、現場で数回操縦して順応させる」と説明する。  シミュレーションの強みは第一人称視点と第三人称視点の映像を自在に生成できる点だ。学習時には自身を俯瞰(ふかん)的に見た映像と自身の目の映像と階段の上り下りを学び、移動時には自身の目の映像からそれらを再現する。  優れたスポーツ選手が3次元的に空間を把握するように、ロボットも自分の目を頼りに周囲や自身の状況も勘案して動くことが可能になる。山科氏は「操縦する人間もロボットの成長過程を見ながら、教え方がうまくなっていく。相互成長のような感覚がある」と目を細める。  どんな階段でも上り下りできる「ステアレーター」の実現が目標だ。この過程でAIが学習しやすい階段の構造が求まる。階段が階段を上る知能を創る―。このようにタスクを学習するための最適環境を求める方法論を確立できるとインパクトは大きい。  ここで紹介した研究事例は企業が主要な役割を果たしている。昨今のAIブームはロボット研究を根本から問い直す機会になった。AI研究のように産業界が基礎的な研究に投資すれば、既存の研究を覆す可能性が眠っている。

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