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歩兵ロボやドローンで戦う、中国・深圳で開催中のロボコンに学ぶべきコト

DJI主催の「RoboMaster」
歩兵ロボやドローンで戦う、中国・深圳で開催中のロボコンに学ぶべきコト

日本向けの中継ブース

 中国・深圳で開かれ、世界の大学生らが参加するロボットコンテスト「RoboMaster」で熱戦が繰り広げられている。2015年と16年に優勝した中国の電子科技大学や東北大学などが準々決勝にコマを進めた。RoboMasterはタワーディフェンスゲームのようにロボットが弾を撃ち合い自陣の基地を守りつつ、連携して相手の基地を攻める戦略性の高い競技だ。プレイヤーは歩兵ロボや哨兵ロボ、ドローンなど5種類7台のロボットを操縦して戦う。相手基地に乗り込んで接近して打ち合う肉弾戦や、自陣から相手陣の基地を狙う長距離狙撃、ドローンが上空から弾を浴びせる空中戦など、大学生たちが作る実機同士の戦いでありながら、eスポーツのようなスピード感と激しさ、ゲーム戦略の豊かさを実現している。DJIなどが主催し世界から173チーム7000人以上が参加している。(取材・小寺貴之)

鍵は自動照準機能と回避機能


 RoboMasterベスト16はレベルの高い試合になった。初戦は東北大学が中国のハルビン工業大学を速攻で圧倒し、同じく中国勢同士の大連交通大学と上海交通大学の試合は両者譲らないシーソーゲーム、南京理工大学と電子科技大学の試合は長距離砲の射撃精度が勝敗を分けた。

 RoboMasterでは3台が連携して動く歩兵ロボと、大口径砲を備えた英雄ロボ、弾の補給や盾役を担う工兵ロボ、完全自動で自陣を守る哨兵ロボ、上空から哨戒する空中ロボ(ドローン)の5種類7台のロボットで戦う。機体には規定の射撃ユニットと被弾検出プレートを載せて、攻撃判定やダメージ計算を自動化している。操縦者は車載カメラの映像をもとに周囲の状況を把握する。視野は限られフィール上の死角は多い。それでも上位チームは全速力で走り回りながら高度な連携プレーと、高い射撃精度を実現している。

 鍵となるのは自動照準機能と回避機能だ。高速で走りながら、動き回る敵機に人手で照準を定めるのは不可能に近い。そのため画像認識で自動照準機能を実現している。対して撃たれる場合も敵機や弾丸を認識して避けることは難しい。そこで常に動き続けることで、被弾検出プレートに照準を合わせにくくしている。機体を停めるときは、車体を回転させて狙いを絞らせない。砲塔やカメラは逆回転させて、車体の回転を相殺する。上半身は固定したまま、下半身は回転し続ける。

 大会では地上ロボの射撃命中率は十数%から二十数%になった。こうした機能は上位チームにとっては基礎的な機能にすぎず、被弾対策のないチームは速攻で機体を撃破されてしまう。その上で各チームの戦術が生きてくる。

左からドローンが青の基地(右)を攻撃

 例えば東北大学とハルビン工業大学の試合では、ドローンが空中からの長距離砲として活躍した。ドローンで相手の基地を直接叩いた。19年大会では7台のロボットのうち1台を破壊されると基地の防衛システムが解除されて、基地がダメージを受けるようになる。東北大学は速攻で防衛を解除した後、ドローンから放水するように直接基地に弾を浴びせた。上空からの攻撃は他のロボットで遮ることができず、ハルビン工業大学は沈められた。

 難しいのはドローンの命中率は他の機体に比べて半分以下になる点だ。そもそも空中で姿勢安定して保つことが難しい。射撃の反力でさらに姿勢が崩れるため、ずれを自動照準で補う必要がある。そのため命中率は数%から十数%に落ちてしまう。

 大連交通大学と上海交通大学の試合では命中率が双方とも6%と低く、ドローンが決め手にならなかった。そこで地上の接近戦に持ち込まれた。ただ、双方とも歩兵ロボなどの性能に大きな差はない。勝敗を分けたのは巧みな連携プレーだった。第3ラウンドで大連交通大学が相手陣に攻め入り、防衛側の上海交通大学の防衛ロボをおびき寄せることに成功した。その裏で1台の歩兵ロボが基地に入り込んで、集中砲火を浴びせて落とした。プレーヤー同士はカメラ映像を共有できるわけではない。陽動と急襲のタイミングなど、訓練していなければできない連携技が光った。

 南京理工大学と電子科技大学の試合では長距離砲の精度が勝敗を分けた。ドローンの命中精度は南京理工大学が6%で電子科技大学が11%。互いにドローンから基地に弾を浴びせるが一回のアタックでは決めきれない。そこで大口径砲を備えた英雄ロボが自陣から狙撃した。大口径砲は通常の弾に比べて10倍のダメージ量が計上される。互いに10-20メートル離れた位置から狙撃し合った。

 この長距離狙撃は、攻撃を受ける側がスナイパーの位置がわからない。フィールドを探索して英雄ロボの位置がわかっても、それを守る歩兵ロボがついている。狙撃を止めるには、探して見つけて他機を集めて、阻止しに行く必要がある。その台数だけ守りが薄くなるジレンマがある。自陣深くから狙撃できれば、極めて有利に運べる。結果、電子科技大学が狙撃で基地の体力を削り、二回目のドローンの集中砲火で南京理工大学を沈めた。

DJIが一貫性を持たせて競技を設計してきた


 こうした肉弾戦や空中戦などの開発一つ一つが、日本のロボコンの1大会分に及ぶの開発量になっている。ベスト8チームは、いずれの機能も高いレベルで実現した。個々のロボットが稼働するのは当然として、相手に合わせて戦術を変える余裕さえある。これはDJIが5年間、一貫性を持たせて競技を設計してきたことが背景にある。ゲームの内容が進化し続けるように、徐々にロボットの種類を増やして、ルールを追加してきた。大会ごとに競技自体を変えてしまうと、こうした蓄積は難しい。

 開発技術は参加チームがオープンソース化すると報奨する。チームに技術を蓄積させ、優れた技術はオープンソースとして世界中で共有させる。新規参入するチームにとっては基盤となる技術にアクセスでき、そこに自身のアイデアを加えて勝負できる。2019年大会では前回の地区予選敗退チームが上位に食い込んでいる。トップチームが進化を続け、かつ新規参入組のハードルを上げすぎない運営がなされている。

 これが画像処理や自動制御、機体の作り込みと堅牢性、ゲーム戦略など、開発項目が多くても、学生主体のチームで実現できる理由になっている。さらにRoboMasterでは各チームの学生が自身でチームスポンサーを探す。企業に技術力やブランド効果を訴求し、開発資金や運営資金を獲得する。企業にとっては技術力やチームマネジメントのレベルが高い人材を青田買いする格好の場になった。そしてゲーム性が高く、小さな子供に人気がある。ゲームの世界が実際に目の前で繰り広げられ、食い入るように観戦している。親にとっては、子供の興味をゲームからロボットに誘導する絶好の機会になった。

 STEAM教育やロボット教育など、若い親たちの教育熱も受け止めて、大会が成長している。大学生の人材育成と技術開発、子供向けのエンタメと教育を両立させて、競技会で好循環を回すための臨界点は越えた。日本が実現したかったものがここにある。
会場で子供が市販用の歩兵ロボ「S1」を操縦してロボット体験
ニュースイッチオリジナル
小寺貴之
小寺貴之 Kodera Takayuki 編集局科学技術部 記者
ロボットのコンテストはロボットが実用化された未来を見据えて競技が設計され、その途中段階のロボットが技を競ってきました。ですがRoboMasterはゲームや興業として、すでに完成しています。ここではeスポーツとして実用化レベルのロボットが、何台も走り回っています。それを大学生たちが作っています。他の大会の、未来に向けた途中の段階という言い訳はなく真剣勝負です。だからゲームは激しく、面白く、人材と資金を集めて、青田買いも起きるのだと思います。

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