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見守りだけじゃない!認知症対策のサービスはここまで進んでいる

VR活用やロボットと対話
見守りだけじゃない!認知症対策のサービスはここまで進んでいる

全国の観光地やレジャーのVRで認知症患者の「回想法リハビリ」が可能

 65歳以上の高齢者の4人に1人が認知症とその予備軍だと言われる。団塊の世代が75歳以上の後期高齢者となる2025年には65歳以上の人口が約3677万人になると予測され、認知症患者も相対的に増える。社会的な負担が増大していくため、政府は6月に「認知症施策推進大綱」を取りまとめ、今後の対策を急ぐ。産業界でも認知症対策につながる製品やサービスの投入が増えており、官民を挙げて取り組みが進む。

センサー・IT…リスク予測


 認知症対策につながるサービスとして国内企業が早くから実用化を進めてきたのが「見守り」の領域だ。センサーやITを使った従来の高齢者向けサービスを高度化し、認知症患者の徘徊対策などに役立てられるようにしている。

 NTTドコモは、消しゴム大の全地球測位システム(GPS)端末を利用者に装着することで現在地をスマートフォン上の地図に表示できる「かんたん位置情報サービス」を提供している。

 利用者が道に迷った際は端末のボタンを押すことで現在地を知らせるメールを家族や介護施設など最大五つのメールアドレスに送ることができる。事前設定したエリアから利用者が離れたり危険なエリアに入ったりしてもメールで連絡する。

 厚さ約1センチメートル、重さ約30グラムのGPS端末を取り付けた靴やつえが振動した際もメールを送るため、認知症患者が徘徊することを直前で防げる。

 高齢者の比率が3割を超す北海道登別市で申請のあった市民に同端末を無償貸与した。捜索時間が大幅に短縮したと利用者の8割から喜びの声が聞けたという。

 パラマウントベッドが手がける見守り支援システム「眠りSCAN(スキャン)」は、マットレスの下にセンサーを設置し、ベッドで寝ている人の状況をリアルタイムでモニタリングする。

 ベッドにかかる重さを測る離床検知機能で、認知症患者がベッドから離れるとすぐにわかる。体動センサーで患者の睡眠や覚醒の状態もモニタリングし、横になっているが起きている場合などに転倒のリスクを予測・管理できる。呼吸や心拍数なども確認し、状況に合わせた見守りが可能だ。

 見守りだけではなく、今後はさらに認知機能の維持や低下予防につながる製品やサービスの充実が期待される。

 ジョリーグッド(東京都中央区)は介護スタッフ向けに仮想現実(VR)で研修やシミュレーションができるサービス「ケアブル」を手がける。認知症患者による「帰宅願望」「入浴拒否」など、被介護者との関わりにおいてよくある状況をVRで再現し、適切な対応の仕方を学べる。

 ケアブルは介護スタッフの訓練だけではなく、認知症患者にも使用できることが大きな特徴の一つだ。全国の観光地やレジャーのVR映像を見ることで過去の記憶を思い出すきっかけをつくり、思い出を介護スタッフと話すことで認知症の予防や進行を遅らせる「回想法リハビリテーション」に利用できる。

 認知機能の維持・低下予防では、ロボットも注目の領域だ。日本の企業が得意とするコミュニケーション型ロボの癒やしの効果や対話、交流などを活性化させる効果が、認知症患者にも有効だと期待されている。

 東京都渋谷区は6月、日本認知症予防学会、ソニーと認知症に関して協定を結んだ。ソニーのイヌ型ロボット「aibo(アイボ)」を認知症対策に活用したい考えだ。その他、コミュケーション型ロボを導入する介護施設や高齢者向け施設は全国で増えている。

 見守りサービスや人工知能(AI)を搭載したコミュニケーション型ロボなどの利用が広がれば、次に重要になるのがデータの活用だ。認知症患者のさまざまなデータを収集し、ビッグデータ(大量データ)として解析することが「共生」「予防」に対して有効な次の製品・サービスを生み出すことにつながる。

保険、付帯サービスも手厚く


 生命保険業界も認知症保険を相次ぎ投入している。その中でも太陽生命保険が16年に発売した一連の認知症保険シリーズが人気で、累計販売件数は50万件を突破した。長寿化に伴い高齢者が抱える不安を業界に先駆けて商品化した点が支持を広げている。

 認知症患者は25年に、65歳以上の5人に1人まで増えると推測され、高齢者や家族は介護費用など経済的不安を抱える。そこで18年に発売したのが認知症になる前の予防に重きを置いた「ひまわり認知症予防保険」。

 契約から一定期間経過ごとに「予防給付金」を受け取れ、認知症予防サービスに活用可能。早期のケアによって発症を未然に防ぐことなどにつなげられる。認知症に限らず、白内障や骨折治療などシニア層の給付事例が多い特定疾病を特約で保障する仕組みも好評だ。

 同社の副島直樹社長は「60―70代の不安を真正面から見つめる着眼点が成功の第一ステップだった」と販売好調の要因を分析する。商品そのものに加え、高齢者向け付帯サービスも人気の要因。その一つが「かけつけ隊サービス」。内勤職員らが保険契約者や家族を直接訪問し、必要書類の代筆やモバイル端末を利用した簡易的な給付金請求を実施する。サービス利用者は8万人を超えている。

25年に700万人、どうなる国の対策


 認知症の発症や進行を遅らせる「予防」―。25年までの認知症対策をまとめた大綱では、認知症になっても安心して暮らせる「共生」とともに、予防を施策の柱に位置付けた。

 大綱は15年策定の認知症戦略「新オレンジプラン」の後継で、「認知症になるのを遅らせ、認知症になっても進行を緩やかにする」ことを予防と定義。認知症予防の可能性が示唆される運動不足改善などを推進するほか、予防に関する科学的な証拠の収集や普及に取り組む。

 認知症は認知機能が低下し、日常生活に支障を来した状態を指す。脳の老化による「物忘れ」とは違い、何らかの病気により脳の神経細胞が破壊されたことで発症すると考えられている。

 症状が進むと妄想や徘徊(はいかい)などが見られ、無気力や怒りなど感情の変化も大きくなる。患者は普段の生活でも支援や介護を必要とすることが多く、家族など周囲の負担が大きいのも特徴だ。

 高齢者が大幅に増える中で、25年には認知症の患者は現在の約1・5倍の約700万人に達するとする推計がある。これは65歳以上の5人に1人が認知症になる計算で、大綱でも「誰もがなりうる」身近な疾患との認識を示している。

 その上で重要になるのが、予防に関連する取り組みだ。大綱では運動不足改善のほかに、糖尿病や高血圧症といった生活習慣病の予防、社会的孤立の解消なども認知症の発症を遅らせる可能性が示唆されるとし、公民館など高齢者が身近に通える場を拡充、参加率を引き上げる。

 さらに、かかりつけの医師や保健師などによる健康相談も推進する。予防の観点から重要とされる「軽度認知障害(MCI)」の早期発見を後押し、重症化を未然に防ぐのが狙いだ。

 認知症患者の増加を受け、企業は認知症の予防に役立つ商品やサービスの開発を活発化している。大綱では商品やサービスの適正な評価や認証の仕組みも検討するとした。

 共生に向けた重要課題の一つは、バリアフリーの推進だ。大綱では認知症の患者にも移動や買い物などがしやすい町づくりを目指すとし、高齢化が急速に進む中山間地域で、自動運転による移動サービスの実証や実用化を後押しする。
                 
日刊工業新聞2019年7月23日

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