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国立大の民間資金獲得を後押しする新交付金の全貌

13大学向けに最大年20億円弱を新たに用意
 内閣府は国立大学向け新・交付金の事業を立ち上げ、公募を開始した。民間資金獲得に励む大学を後押しするもので、1大学で最大年数億円の上乗せとなり、候補の大学の関心は高い。文部科学省も2019年度から、大学経営の切り口で見た傾斜配分を運営費交付金に導入した。どちらも国立大の主な役割による「地域」「特色」「世界」の3類型を活用。どの大学も改革意欲を失わないようにと気を配っている。(文=編集委員・山本佳世子)

 6月末に内閣府で開かれた「国立大学イノベーション創出環境強化事業」の説明会。86国立大学のうち76大学が参加し、民間資金収入の範囲や、伸びの計算方法など具体的な質問が相次いだ。「評価指標を見ると本学ではまず無理」(中堅大学の副学長)と諦める大学もある。しかし研究型大学の「世界」と、「地域」「特色」の大学で別の指標となっており、チャンスはそれなりにある。

 同事業の新交付金は産学共同研究費などの獲得を促す後押しとして、計13大学向けに最大年20億円弱が新たに用意される。「使い道が決まった補助金と異なり、自由度が高い予算の獲得は難しい」(政策統括官付大学改革担当室)。他大学を圧迫しない国立大向けの上乗せ予算という点は画期的といえる。

 一方、運営費交付金のうち700億円分の傾斜配分は、18年12月に初めて公表され、大騒ぎとなった。4項目(「世界」の大学は5項目)の数値評価により、各大学の配分は19年1月末と早々に通知されたが、全体の公表は遅れている。ただ意外にも「独り勝ち・負けという状況ではない」(高等教育局・国立大学法人支援課)という。3類型ごとに評価したためだ。

 また「地域」では、医学部のある大学が研究型大学に似た強みを持つ。対して教育系単科大学は卒業生が強く、留学支援や奨学金向けの寄付が集まりやすい。小規模でも1人当たりの指標なら、さほど悪くないという。

 対象の700億円は運営費交付金1兆971億円の6・4%分だ。これを使って例えば、運営費交付金が100億円の大学は、全項目の評価が最高なら6400万円増、最低なら6400万円減となる。大学の経営を揺るがすような増減ではない。しかし今後、傾斜配分の割合は増えるとされている。

 これを含めた21年度予算の概算要求が次の注目だ。さらに22年度からの第4期中期目標期間での、運営費交付金の仕組み自体の大幅変更が議論される。交付金改革はまだ落ち着くところを知らない。

                   

キーワード/国立大学イノベーション創出環境強化事業


Q 国立大学向けに始める新事業とは。
A 国立大が企業から集めた共同研究費や寄付などの関連指標に応じ、国が交付金を配分する仕組み。採択する大学と配分額を内閣府が決め、文部科学省が執行する。イノベーション創出の環境を整えることが目的。

Q 補助金との違いは。
A 補助金は特定事業を補助する資金だが、交付金は国などが大きな目的に向け組織に配分する資金で、使途が決められていないことが特徴だ。このうち国立大学運営費交付金は国立大の定常的な組織運営のため配分され、教員や職員の人件費、設備費などに充てられる。さらに新たな交付金はイノベーション創出の強化に関連する目的に幅広く使える。

Q 採択される大学は。
A 新規採択期間は2019年度から3年間で、1校につき支援期間は2年間。国立大を重点支援するための三つの枠組みのうち、「地域」「特色」の70大学から毎年度数校の計7校、「世界」の16校からは毎年度2校で計6校を選ぶ。各大学の財務諸表を活用し採択する。

出典:日刊工業新聞2019年7月25日



6月に詳細を公表した 

出典:日刊工業新聞2019年6月27日


 内閣府は、国立大学が企業から募る共同研究費や寄付などの集金力に応じて支給する新たな交付金事業を始める。民間資金獲得の実績と今後の計画を基に支給先を決める。全国86国立大から3年間で計13大学を選び、1大学当たり年最大5億円を支給する。民間投資拡大を促して国立大の経営基盤を強化しつつ、継続的なイノベーション(技術革新)を後押しする。

 28日に東京・霞が関の内閣府で国立大の担当者を集めた説明会を開き、初めて詳細を公表する。新たな交付金事業は、内閣府の2019年度新規施策「国立大学イノベーション創出環境強化事業」。文科省が支給する従来の運営費交付金や補助金に加え、内閣府による新たな交付金を新設し、国立大の民間資金獲得を促す。

 交付金を支給する選考条件は、各国立大が目指す役割で変える。国際的に優れた研究を進める東京大学など16の「研究型大学」は、産学共同研究費の中の間接経費の割合や伸び率を重視する。企業との共同研究で光熱費などを大学側が負担している現状を改善する。

 研究型以外の国立大は、大学収入に占める民間資金の割合の伸びも評価する。各大学の財務諸表データから対象を絞り込んだ上で公募し、民間資金の獲得計画をヒアリングして決める。支給期間は1大学2年間。
山本佳世子
山本佳世子 Yamamoto Kayoko 編集局科学技術部 論説委員兼編集委員
弱小大学からつぶしていく目論見を、政府は持っているのではない。「世界、特色、地域のそれぞれのミッションに応じた活動でがんばってもらい、社会の賛同が得られない(外部資金導入ができない)大学は自然消滅してもらう」というのが、少子化時代の高等教育施策における本音だろう。3類型が決まった時、「あの大学が世界を選んだのか。背伸びして大丈夫かな?」といくつか気になった覚えがある。3類型のどれになるかは、各大学自ら選んだとあって「自己責任」とみなされるのだろう。「社会の流れが今後、こうなっていく(であろう)中で、自分たちはどう動くべきか」を決断する、学長ら執行部の責任はますます、重くなってきている。

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