なぜ製造業の現場はITが嫌いなのか。不幸な対立を終わらせる「データをお金に」

コネインのキーマン、法政大学デザイン工学部・西岡靖之教授が語る

 製造業の現場は、ITが嫌いである。正確に言えば、トップダウンで「型」にはめていくITのやり方が嫌いである。あるいは現場の個別性を認めないITの横柄さが嫌いである。  日本の製造業は、現場で自ら考える三現主義(現地、現物、現実)が重視され、これが競争力の源泉と言われている。一方でITは、こうした現場を無能化させ、意思を持たない3Dプリンターのように設計情報をひたすらモノに転写するマシンとして扱う。現場の人たちは、そのように感じ、抵抗し、現場に根付いたモノづくりのハートを守り続けてきた。  失われた20年、このような現場とITとの不幸な対立が続いた。中核となる人材の世代交代とともに現場の抵抗は力を失い、そして日本の製造業そのものが競争力を失った。高度成長時代、資源のない島国である日本は原材料を加工し製品で稼ぐしか未来がない、と多くの人が信じ、追いかけてきた未来が終わろうとしている。  こうした中でIoTが登場した。IoTはモノのインターネットと訳されるが、正しくはモノとコトのインターネットである。現場で起きているリアルなモノづくりが、そのリアリティーを保持したままデジタル化され、ネットワークを介して展開可能となった。  狭義の情報システムの枠組みに制約されることなく、現地、現物、現実に合わせ込むことが可能な世界がIoTなのである。IoTの登場で強い現場をより強くするためのデジタルツールが安価に提供されるようになった。これを武器に、現場からのボトムアップ型の改革を後押しする体制が整った。  世耕弘成経済産業相が、目指すべき産業のあり方として「コネクテッドインダストリーズ」というキーワードを用いて、第4次産業革命における日本企業の一つの道筋を示した。  系列企業間での取引と地場のネットワークに支えられてきた日本の製造業は、過去を捨て、新たなバリューチェーンを構築する必要がある。デジタル化の時代を前に、ITが嫌いだった製造業の現場は新たに手にしたIoTを武器に、製造業復権と日本再興をかけたのろしを上げた。  製造業が自らの意思で取得したデータの価値は、現場を知り尽くした製造業自身が知っている。データを利活用してお金に変える方法を知っているのはIT企業ではなく、製造業自身である。大企業よりは、むしろ個別の収益構造と日々のキャッシュフローに敏感な中小企業のほうが、この傾向は顕著かもしれない。  自動車部品を製造する武州工業(東京都青梅市)は生産現場から得られた膨大な量のリアルデータをもとに得意先との間で度重なる交渉を重ね、ある製品で利益を2割増やした。林英夫社長は「コストダウンにも対応でき、結果としてお客さまにも喜んでいただいた。根拠となるデータがあることで三方よしの関係をつくることができた」と、データの持つ重要性を強調する。  人工知能(AI)が「頭脳」、ロボットが「身体」、そしてIoTを「神経回路」に例えて、高度に自動化された未来の工場を描くことは可能である。  一方、AIは単に視覚や聴覚を代替するインターフェースで、ロボットはモノを操作するマニピュレーターだと割り切ることもできる。IoTは、それらを含む生産システムをデータを介してつなぎ、そのデータをお金に変えるための強力なツールとなるだろう。  IoTで現場の設備から大量にデータを集めたが「データの使い道が分からない」「AIを使って予知保全をしたが、結局当たり前のことしか分からなかった」「ロボットはお金がかかる。ならば従業員に2倍の給与を払いたい」といった声が漏れ聞こえる。  短期的な取り組みとして結果を求めるのではなく、デジタル社会を生き抜く製造業の長期的な現場改革の取り組みとして捉え、新たに生まれたデジタル化の息吹が、近い将来大きく実を結ぶことを願いたい。 <関連記事>

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