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AIの力で“やわらかいロボ”が動きだす

深層学習で動作習得
AIの力で“やわらかいロボ”が動きだす

ペグ挿入を習得する6軸アーム

 人工知能(AI)にロボットを操縦させる研究が加速している。移動やピッキングなどの簡単な動作をディープラーニング(深層学習)にかけてロボット制御する試みだ。より複雑な作業を獲得させようと、ロボットに適したAIモデルが提案されている。同時にAIモデルからロボットの制御モデルを抽出する研究も進む。動作獲得と制御抽出が交われば、制御すら難しかったロボットが働けるようになる。(文=小寺貴之)

人のまねから


 早稲田大学の尾形哲也教授と日立製作所の伊藤洋研究員らは、組み立て作業の基本となるペグ挿入をAIに習得させた。AIに6関節アームを操縦させ、直径8ミリメートルの穴に7ミリメートルの突起を差し込ませる。まず人間がアームを操作して穴を探り、挿入する動作を数回教える。その動作スキルをAIが学習して習得する。尾形教授は「人の作業のまねから始めるとAIの学習回数を100から1000分の1に抑えられる」と胸を張る。

 関節角だけを学習するAIと関節角とモーターの電流値を学習するAIを用意した。関節角だけでは成功率は25%に留まるが、電流値も学習させると成功率が87・5%に向上した。電流値からモーター負荷を読み取り力覚センサーを代替した。

 電流値のようなノイズの多いデータを学習するために、早大は「S―CTRNN」というAIモデルを開発した。尾形教授は「ノイズ分散を予測し、分散の大きさで誤差を割る。これでAIが学習しやすい構造を優先的に学習できる」と説明する。

ソフトロボ制御


 九州工業大学の池本周平准教授と大阪大学の細田耕教授らは、ロボットの動きを学習したAIモデルから、ロボット制御に使う数式(制御モデル)を抽出している。もともと深層学習などのAIモデルは大量の線形応答関数の塊といえる。この数式をすべて合わせれば制御モデルが得られる。通常の硬いロボットは数式で表しやすいが、軟らかい「ソフトロボット」は数式で表すことが難しい。ソフトロボは安全性の高さなどからロボットの応用可能性を広げる新たな領域として期待されている。

 池本准教授らはソフトロボをグニャグニャと動かして入力とロボの動きをAIに学習させた。一つのモーター駆動の関節と11個の軟らかい関節を持つアームを動かして学習させ、AIモデルから制御モデルを抽出した。するとAIは2―3個の関節を持つアームとして12関節アームを認識していた。

2つを融合 


 制御モデルの抽出では、やみくもにロボをグニャグニャと動かしただけではAIはロボを制御できないと判断してしまう。これはアームが取り得るすべての状態のデータをとれないためだ。

 例えば12関節アームでは5000億以上のデータが要る。そこでデータがとれる部分と、とれない部分を「カルマンの正準分解」という手法で分けた。これでAIは制御可能なアームとして学習し、制御モデルが抽出できるようになった。

 池本准教授は「ソフトロボの身体は連続的に曲がるように変形し、無数の関節があるようにふるまう」と説明する。AIを経由することでソフトロボを制御しやすくなる。硬いロボの動作獲得とソフトロボの制御に深層学習が貢献している。この二つが融合すれば制御すら難しかったソフトロボにも仕事ができるようになるかもしれない。
日刊工業新聞2019年7月12日
小寺貴之
小寺貴之 Kodera Takayuki 編集局科学技術部 記者
 深層学習は12関節のソフトロボを2-3関節のロボとみていました。ただ、2-3関節の位置は決まっているのではなく、各時刻で関節を2-3のグループに分けてみています。関節の位置は変わるけど、だいたい2-3個ありそうというのがわかりやすい表現かと思います。このソフトなアームにモノを持たせると関節の位置も数も変わることになります。そしてソフトロボは人と触れあい一緒に働くという活用シーンが想定されています。たぶん触られる場所はデザイン次第で限定できるはずです。把持重量や接触、外力を含めてシミュレーションして、この状況ではこの制御モデルとライブラリーを作っておくと便利だと思います。一度、学習済みモデルを作っておくと、他の機体に転移学習でフィットさせて、その機体の制御モデルを簡単に抽出できるかもしれません。ソフトロボに限らず、柔らかい素材を扱う食品加工分野や軟体生物の遠隔操作、流体設計にも広げられると思います。

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