章男社長を探したトランプ大統領、「82万台」トヨタ北米輸出の行方

国内300万台維持に暗雲、金型などサプライチェーンに大きな影響

トランプ大統領と並ぶ豊田社長(左隣)<5月25日の在日米大使公邸の会合、ホワイトハウス公式ツイッターより>

 日米首脳会談で貿易交渉については大きな進展が見られなかった。米国は、日本に対し自動車の関税引き上げや輸入規制といった切り札もちらつかせる。交渉の行方次第で、国内自動車メーカーはグローバル戦略の見直しを迫られそうだ。  米政府が5月25日、在日米大使公邸で開いた日本のビジネスリーダー約30人と米トランプ大統領の会合。自動車業界からは豊田章男トヨタ自動車社長のほか、日産自動車、ホンダ、マツダ、SUBARU(スバル)、デンソー、アイシン精機の首脳が参加した。  その4日前の21日、豊田社長は日本自動車工業会(自工会)会長として、トランプ政権が自動車や自動車部品の輸入が米国の安全保障に対する脅威であると結論付けたことに関して「大変残念に思う」と厳しいコメントを公表していた。会合では会場で米トランプ大統領が豊田社長を探す場面もあったといい、一定の配慮をみせたとみられる。  ただ危機が去ったわけではない。米国は安全保障上の脅威と認めた自動車輸入に25%の追加関税をかける案や数量規制案を検討しており、25日の会合でもトランプ大統領は「長年、日本が優位に立っていたが、もう少し公平になるだろう」と強気もみせた。北米自由貿易協定(NAFTA)再交渉ではカナダ、メキシコに数量制限を飲ませた経緯がある。  日本メーカーにとって米国は最重要市場だ。2018年は日本から約173万台を輸出した。ここに制限がかかって輸出減を強いられることで、日本国内での生産体制を維持できなくなれば、中小企業まで幅広くサプライチェーンに悪影響が出る懸念がある。自動車部品の現地生産も進んではいるが、メーカーからは「金型は日本から米国に送るケースも多く、関税負担が増えれば痛手」(東プレの松岡邦和常務)との声も上がる。  自工会によると米国で日本の自動車メーカーは18年に約370万台を生産し、9万3599人の直接雇用を創出した。自工会はこうした実績を「米国企業市民としての現地への貢献とコミットメント」(豊田会長)と訴え、輸入制限回避につなげたい考え。また各メーカーは米国での工場新設や生産増強を決断し、日本政府とトランプ政権との交渉を側面支援するといった展開も模索するとみられる。  トランプ大統領の来日前、完成車メーカー首脳は貿易協議について「先行きはまったく見通せない。注視していくしかない」と話していた。3日間で状況が劇的に好転したとはいえず、今後も日本の自動車関連メーカーは緊張を強いられる。  世界販売が拡大し、19年3月期に日本企業として初めて売上高が30兆円を突破したトヨタ。車業界だけではなく日本を代表する企業だ。そのトヨタは、トランプ米大統領が自動車の輸入が米国の安全保障の脅威だと発言したことに対し、「米国の消費者や労働者、自動車産業にとって大きな後退だ」と反発の意を示した。通商問題については慎重な態度を崩さなかったが、異例のメッセージで米政権を強く批判した。  北米地域はトヨタの売上高の3分の1以上を占める主力市場で、3月には米国で新たに7億5000万ドル(約840億円)の追加投資を実施することも発表していた。トヨタは「早期の交渉決着を期待する」としつつ「車や部品の輸入制限は消費者の選択の幅を狭め、雇用や経済にも逆効果だ」と強調した。  トヨタは19年3月期に、日本から北米へ年間約82万台を輸出した。北米にはメキシコなどからも輸出しており、輸入車への追加関税が発動されると、影響を受ける台数はさらに膨らむ。そうなれば日本での生産を縮小し、米国での生産を増やす可能性も出てくる。これまで雇用確保のため、国内生産300万台を堅持してきたが、その旗印に暗雲が立ち込めるのは必至だ。  「なんとかして21年度には、北米の売上高営業利益率を8%に持っていきたい」。小林耕士副社長は5月の決算会見で、北米事業の収益改善に言及したばかり。19年3月期の北米の営業利益率は、1・3%と他地域に比べ低い。販売奨励金の抑制や利幅の大きなスポーツ多目的車(SUV)の投入、生産設備の刷新による生産性向上などで立て直しを図るが、関税引き上げは、この動きに水を差しかねない。  巨大国家・米国の世界経済に対する影響力は計り知れない。トランプ米大統領は日米貿易協定交渉について「8月に大きな発表ができると思う」と表明。7月に想定される参院選後、速やかに合意に達するとの見通しを示唆した。 (文=後藤信之、名古屋・長塚崇寛)

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