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シリコンを超える!成果相次ぐペロブスカイト太陽電池

安価で軽量、フレキシブル・・・。日本発の技術、ノーベル賞の有力テーマに
シリコンを超える!成果相次ぐペロブスカイト太陽電池

22平方センチメートルの薄膜太陽電池の作製に成功(京大提供)

ペロブスカイト(灰チタン石)構造という結晶構造を持つ次世代太陽電池「ペロブスカイト太陽電池」の研究が進んでいる。有機無機混合材料を使い、安価で軽量のうえ、折り曲げも可能であり、現在主流のシリコン系太陽電池に代わると期待されている。この太陽電池を開発した桐蔭横浜大学の宮坂力特任教授はノーベル賞受賞の有力候補に挙げられており、日本発の新しい太陽電池が世界に広がろうとしている。

京大が大面積塗工に成功


 京都大学化学研究所の若宮淳志教授らは、次世代太陽電池のペロブスカイト薄膜の大面積塗工に成功した。軽くて柔軟性があり、従来より溶媒に溶けやすく、塗工後に乾きにくい材料を開発。高い濃度の溶液をゆっくり塗工できるようになった。従来、0・1平方センチメートルサイズしか作れなかったペロブスカイト薄膜太陽電池が、22平方センチメートルまで拡大できた。光電変換効率の高い太陽電池を低コストで高効率に作れる。

 新材料はさまざまな溶媒に溶けやすい。乾燥し始める時間が従来より50秒以上遅い溶媒を使っても、10分以内に完全に溶かせる上、従来より高濃度の溶液が作れる。厚さ350ナノメートル(ナノは10億分の1)の均一な膜が作製できる。

 高速回転で膜を作成中に溶解性の低い溶媒を加える工程は、従来は塗布から8秒後と早かったが、新材料では82―95秒後のどのタイミングでも均一な高品質薄膜ができる。

 今後、導電塗装を手がけるプラスコート(京都府久御山町)や京大発ベンチャーのエネコートテクノロジーズ(京都市左京区)などとの共同研究を進める。2021年をめどに量産化技術の確立を目指す。

樹脂基板にインクジェットで低温成膜


IJ法を使い作製したペロブスカイト太陽電池(宮坂研究室提供)

 桐蔭横浜大学の宮坂力特任教授、戸邉智之大学院生らは、インクジェット(IJ)法によるペロブスカイト層の低温成膜に成功した。一般的な樹脂基板の耐熱温度である150度C以下の条件で、IJプリンターを使ってペロブスカイト太陽電池(用語参照)を作製し、同手法では世界最高のエネルギー変換効率13・3%超を達成した。これまでIJ法では500度C以上で成膜しており、樹脂基板に適用できなかった。折り曲げ可能なペロブスカイト太陽電池の早期実用化につながると期待される。

 紀州技研工業(和歌山市)と協力し、同社のエレクトロニクス用IJプリンター「WM5000」を使って、酸化インジウムスズ(ITO)ガラス基板上にペロブスカイト層を成膜した。

 従来は太陽電池専用のガラス基板しか使えなかった。成膜条件を調整し、安価かつ樹脂基板コーティングにも使われているITOガラス上に成膜できた。

 変換効率は、ペロブスカイト層の厚みや表面粗さなどに影響を受ける。溶液の吐出サイズや印刷ピッチ、基板加熱温度など、最適な条件を検討した。

 その結果、120度C前後で最も変換効率が高くなり、ダブルカチオン型ペロブスカイト溶液を使う場合、13・3%を達成した。耐久性が高く最も商品化に近いとされるトリプルカチオン型ペロブスカイトでも実験し、変換効率12%超を得た。

 今後、ペロブスカイト層だけでなく、ペロブスカイト太陽電池作製の全工程へのIJ法適用を目指す。

桐蔭横浜大学の宮坂力特任教授

 ペロブスカイト太陽電池を開発した宮坂教授は、2017年に米科学情報企業のクラリベイト・アナリティクスが学術論文の被引用数などを基に予想する、ノーベル賞受賞の有力候補者の1人として選定されている。
日刊工業新聞2019年5月29日(科学技術・大学)、同2018年10月3日(同)に加筆
小川淳
小川淳 Ogawa Atsushi 編集局第一産業部 編集委員/論説委員
宮坂教授がペロブスカイト太陽電池の論文を発表したのがちょうど10年前の2009年。以来、研究は急速に国内外で進んでおり、当時は3・8%だった変換効率は20%以上と現在主流のシリコン系に近づきつつある。塗布で製造できるため、製造コストはシリコン系より大幅に低下する見通しであり、実用化が期待されている。課題だった毒性の強い鉛を使う点も、鉛フリーの材料による研究が進んでいる。

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