新紙幣でも生きる、偽造防止で輝くホログラムの凄さ

美しさに高度な技術を凝縮

正面から見た凸版印刷のセキュアカラー(凸版印刷提供)

 偽造防止対策としてホログラムの活用が進んでいる。ホログラムの製造には高度な技術が必要で、紙幣や金券、クレジットカードのほか、ブランド品の保護などさまざまな分野で採用される。一方、偽造する側の技術も向上し、手口も巧妙化していく。ホログラムの製造を手がける印刷各社は研究の手を緩めず、偽造防止技術のさらなる向上や偽造が難しい新製品の開発に力を注ぐ。(文=国広伽奈子)  凸版印刷の調べでは、偽造品や模倣品の流通による被害額は全世界で年間約177兆円に上るという。企業にとって偽造品や模倣品の横行は売上高の減少という直接的な被害だけではなく、信頼やブランド価値の低下につながる厄介な問題だ。安心・安全ではない食品や医薬品、化粧品などが広く流通してしまう危険性もある。電子商取引(EC)の拡大を背景に、消費者でも簡単に商品の真贋(しんがん)を判別できる仕組みが求められている。  そこで凸版印刷が2018年に開発したのが、世界で初めてパステルカラーの構造色を発色するホログラム「セキュアカラー」だ。従来とは異なる特徴的な色は、製造時に光の干渉や散乱現象を調整することで発色が可能になるため偽造が非常に難しい。珍しい色調に加えて、傾けると色が消失する構造のため目視で判別しやすい。審美性の高さを生かして、アイキャッチとしても活用できる。日本ゴルフ用品協会が推奨する業界共通のセキュリティーラベルに採用された実績もあり、ホログラムの付加価値を高めることに成功した。  スマートフォンのカメラ機能や発光ダイオード(LED)ライトを活用する動きも活発化している。大日本印刷はスマホのLEDライトを使って本物と偽物を区別できるホログラムを手がけている。表面に微細な凹凸形状を施し、LEDライトを照射すると文字や絵が浮かび上がる仕組み。消費者でも特別な機器を使うことなく簡単に判別できる。画像を撮影して製造元などに提供することで製品回収をしなくても確認作業を進めることができ、負担軽減にもつながる。  スマホカメラで判別できるホログラムは、製造現場でも高い需要がある。大日本印刷はフル3次元(3D)の立体表現ができる「リップマンホログラム」のスマホ対応製品を18年に開発した。リップマンホログラムはフィルム上に特殊なフォトポリマー層を塗布し、物体から反射させた光の干渉縞を、材料内部の密度を変化させることによって記録する。製造・複製に特殊な技術や材料が必要で安全性が高い。自動車や電子部品など、精密機器を扱う現場での採用を見込んでいる。  凸版印刷も、専用のホログラムラベルを活用した製造業向けのシステムを開発している。スマホで撮影したラベルの画像を分析し、ラベルの光学設計情報と高精度に比較することで真贋を判定できる。  スマホを使って判別するホログラムは、導入コストの低さが大きな利点の一つだ。ホログラムの製造に携わる大日本印刷の情報イノベーション事業部第2技術本部プロダクトイノベーション部の中曽根聡氏は「読み取り専用の機械を導入すると数十万円かかるケースもある」と語る。  特許庁の17年度の調査では、国内で産業財産権を保有する企業のうち、模倣被害の対策を実施していない企業は13万2757社に上った。自社が模倣被害を受けているのか、実態を把握していない企業も多いのが現状だ。導入の手軽さやコストの低さは、偽造対策を推進するためにも重要な要素だ。  政府は24年度に1万円札と5千円札、千円札の紙幣デザインを一新する。紙幣・硬貨の刷新の目的は巧妙化する偽造・犯罪防止につなげることだ。  警察庁によると偽造紙幣の発見枚数は18年に1万円札が1523枚、5千円札29枚、千円札146枚の合計1698枚もあった。これまでも偽造防止のため、紙幣を傾けると文字が浮かび上がる潜像模様、模様が出たり発光するインキ、すかしなど、さまざまな技術が使われているが、今回最も注目されるのがホログラムだ。新紙幣では、肖像の3D画像が回転するホログラムが世界で初めて採用されることが明らかになっている。  大日本印刷情報イノベーション事業部の中曽根氏は「リップマンホログラムではなく、エンボスホログラムの技術を活用するのではないか」と予想する。エンボスホログラムとは、現在の紙幣やクレジットカードなどに幅広く採用されている種類で、比較的低コストで量産できる。コンピューターグラフィックス(CG)で作成した3D原稿を使うことで、立体的な表現も可能だという。

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