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#3 昨対150%を達成する、小霜流デジタル広告のやり方

プロが教える 個人経営や中小企業のための 月5000円でできるデジタル広告【全5回】
 今回は、広告を出すにあたっての、ベースとなる考え方といいますか、僕がプロとして企業のデジタル広告をどのように設計しているかのお話をしておこうと思います。その考え方を元に、それを個人経営の方や中小企業が応用すればどうなるかという理解をしていただきたいので。

「自分ごと化」が超重要


 今回は、「自分ごと化」が超重要、というお話をします。この「自分ごと化」のパワーを最も使えるメディアがSNSです。ターゲットを小刻みに分けて、彼らの視点で「これは自分に取って価値がありそうだぞ」と感じてもらうような広告の出し方をするということです。

 たとえば#2のケーキ屋さんの例(リンクは下記にあります)でいいますと、最近は男性も仕事の一服でコンビニスイーツを食べたりしますよね。お店の近くで働く男性ビジネスマンに向けて、いかにも男性が好きそうなスイーツを用意しましたよ、とか。逆に男性向け商品を好む女性も多いので、それをあえて女性ビジネスウーマンにも配信するとか。ママにはママ友ランチにぴったりのケーキがありますよ、とか。

 前回はあまり触れませんでしたが、InstagramやFacebookの「詳細ターゲット設定」を使えばさらに広告を配信する先を職業や興味関心などで絞ることもできます。近くに大きな病院があれば、看護師さんに絞って、夜勤明けの疲れを取るのにこんなケーキはいかがでしょう、とか。ターゲットは小刻みに細分化して、彼ら彼女らの気持ちに刺さるように、商品を用意し、ターゲティングし、メッセージを変えていけば、同時にお店の「認知」も獲れ、「刈り取り」もできていくということです。

自分ごと化してもらうには


 デジタル広告が登場する前、TVや新聞などいわゆるマス広告と呼ばれるものの役割は大きく2つでした。「認知」してもらうことと、「自分ごと化」してもらうことです。広告の敵は他の広告です。生活が広告で溢れかえる中、他よりも目立つことをやらないとその広告はスルーされてしまいます。それを防ぐために、斬新で奇抜な表現や旬のタレントを起用することによって伝えたいことやものを記憶に留めてもらいます。これが「認知」。

 ただ、記憶に残ったからといってそれが自分にとって価値のないものと思われてしまってはいけません。たとえば一眼レフカメラの広告で、すごく美しい画が撮れるようになったところで、「自分はスマホでじゅうぶんだな」と思われては買ってもらえません。「入学式などのイベントではこのカメラが大活躍しますよ」と言えば「じゃあ買っておこうか」と思う人が出てきそうです。これが「自分ごと化」。

 しかし、この「自分ごと化」には、なかなか克服できない問題がありました。

 先ほどの例で言えば、そのカメラに価値を感じる人は入学式などのイベントに使う人だけではありません。もちろんプロや根っからのカメラ趣味の人も見込み客に入るはずですし、インスタ映えを追求する人や、撮り鉄の人たち、いろんな人たちが漏れてしまうのです。しかしデジタル広告ならこれを解決できるのです。

大きな効果が出るやり方


 僕が設計するデジタル広告は、「認知」と「自分ごと化」をできるだけ分けます。どういうことかというと、「こんな商品が出ましたよ」という強いお知らせをTVCMやTrueView、バンパーというYouTube広告などで流します。ここは自分にとって価値がある「かも」ぐらいで構いません。

 そして、見込み客を細分化します。その人たちが自分にとって価値があるなと感じてくれることに徹して、SNSで広告を出し分けるのです。カメラの例でいえば、撮り鉄の人たちには「西武鉄道の新型特急を撮るならこのカメラで」といった広告の方が、漠然と画質がいいよとか入学式にとかいった広告より商品に興味を持ってもらえるのは当然といえば当然ですよね。

 これは非常に大きな効果がありまして、僕が携わってこのやり方を採り入れた商材は売上げなどが昨年対比150%とか、そんな数字が出ます。この、SNSで広告を出し分けるノウハウは大企業でもまだそんなに持っていません。TVCMをそのままWEBでも流す、といったやり方ばかりしているのが実状です。なので、これを読んでいるあなたは大企業よりも先を行く広告ノウハウを身につけていると思って、いばってもらっても僕は構いません。

ダメ押し


 さらに、「刈り取り」と呼ばれる広告の出し方があります。これは、商品やサービスに明らかに興味を持っているとわかる人にこちらからダメ押しのアプローチをかけようということです。先ほどの一眼レフでいえば、そのカメラの商品名で検索した、あるいは商品サイトを訪れた、WEB広告を最後まで見てくれた、などの人は競合商品と比較検討している最中かもしれません。であれば、「今ならこのクーポンで10%OFF」などをくっつけたバナーを見せてあげるわけです。そして意を決していただこうというやり方です。

「自分ごと化」こそが広告の要


 デジタル広告が登場し、さらにインフラが進歩してネットで動画を見ることが普通になってから、僕らプロは、広告コミュニケーションを「認知」「自分ごと化」「刈り取り」と分けて見込み客にアプローチするようになりました。

 ただこれはまだ広告業界的には発展途上です。なぜなら広告主の中で「認知」は宣伝部/マーケティング部、「刈り取り」はデジタルマーケティング部、というように別組織で行われるのが一般で、「自分ごと化」を行う組織が育っていないのです。

 しかし僕は、「自分ごと化」こそが今後の広告の要であると思っていますし、実際にここをきちんとやれば成果に結びつくことを実感しています。

 また、「自分ごと化」はそれだけでも「認知」「刈り取り」の役割を担うことができます。僕は「自分ごと化」の広告設計から始めて、「認知」「刈り取り」をどうすべきかという順番で考えていくことが多いです。

 以上、僕のデジタル広告の考え方の概要でした。

 明日以降は、士業の場合、工場が元請けを探してアプローチする場合、などについてデジタル広告でどんなことができるか考察していきます。いわゆるBtoB(企業対企業)のアプローチはプロでも難度の高いものですが、ちょっとチャレンジしてみましょう。できるだけ抽象を避け、具体的に書いてみます。

連載一覧
#1 デジタル広告、あなたもやらなきゃもったいない
5月20日(月)、朝6時公開
#2 ケーキ屋さんがデジタル広告を始めるなら【Instagram広告編】
5月21日(火)、朝6時公開
#3 昨対150%を達成する、小霜流デジタル広告のやり方
5月22日(水)、朝6時公開
#4 士業がデジタル広告で仕事を見つけるには【リスティング/アドネットワーク編】
5月23日(木)、朝6時公開
#5 町工場がデジタル広告で元請けを探すなら【Facebook広告応用編】
5月24日(金)、朝6時公開


<プロフィール>
こしも・かずや クリエイティブディレクター、コピーライター。86年、東京大学法学部卒業、同年コピーライターとして博報堂入社。98年退社。現在、ノープロブレム合同会社、株式会社小霜オフィス代表。「プレイステーション」や「一番搾り」、「ドラゴンクエストX」、「VAIO」など多くの広告に携わる。マス・Web広告統合の先駆を務める。広告賞受賞多数。著書に「急いでデジタルクリエイティブの本当の話をします。」「ここらで広告コピーの本当の話をします。」などがある。

担当編集・平川透、グラフィック制作・影山明日香
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日刊工業新聞記者
日刊工業新聞記者
明日からまた具体的なケーススタディに戻ります。コンサルタントや公認会計士といった「士業」の方が新規顧客を獲得するための考え方と方法を紹介します。あまりない切り口ですので、お楽しみに。

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