"稼ぐ東京”へ、デジタルトランスフォーメーション始動

 東京都は9日、イノベーションにより経済発展と社会的課題解決の両立を目指す新たな社会「ソサエティー5・0」実現に向け、有識者や経済団体の代表らで構成する検討会の初会合を開いた。ビッグデータ(大量データ)や人工知能(AI)などの技術を活用した、都独自の社会実装モデル構築の方向性を検討する。12月に最終報告書をとりまとめ、都の新たな長期計画に反映させる。  初会合で、小池百合子知事は「東京の稼ぐ力につながるよう、さまざまな提言をお願いしたい」とあいさつ。座長に就いた坂村健東洋大学情報連携学部長は、都政の完全電子化や電子地域通貨導入などの持論を展開し、「東京を次のステージへ持ち上げたい」と意欲を示した。 日刊工業新聞2019年5月10日  物事には「ポイント・オブ・ノーリターン」がある。決して後戻りできない地点―。東京にとって、いや日本にとっても、それは2020年である。財政健全化をはじめ、国の施策目標の多くが20年を達成地点に定めているからだけではない。  東京の人口は25年をピークに減少に転じる。少子高齢化が経済成長の重荷となる人口オーナス期に突入する前、遅くとも20年までに手を打っておかなければ、社会的な影響は計り知れない。  団塊世代が後期高齢者となる25年にかけて毎年100万人規模が労働市場から消えていく。これが間もなく訪れる日本の姿である。恐ろしい話で背筋が寒くなる。知事就任直後、真っ先に待機児童問題に着手したのは、今こそ新しい命を育まなければならないと考えたからだ。  私が目指す東京を、一言で表現すれば「サステイナブル」であること。少子高齢化や資源に乏しいといった制約や社会課題を、イノベーションや知的創造力によって克服し、誰もが希望とやりがいをもって暮らす都市。日本の成長エンジンとして世界の中で輝き続ける「新しい東京」を創造したい。  保護主義的な色彩を強め、不確実性を増す世界情勢も、東京にとってはチャンスだ。鳥の目をもって東京を見れば、熾烈(しれつ)な都市間競争を勝ち抜けるポテンシャルを十分備えている。安全・安心や環境先進都市といった魅力を磨き上げ、世界中から人材や投資を呼び込むことで日本経済をけん引できる。  しかし、残念ながらこれまでの都政は、国内外のダイナミックな情勢変化に十分応えられるものとはいえなかった。財政的に豊かであったがゆえに、議会改革ひとつをとっても後れをとってきた。  だからこそ「東京大改革」なのである。一丁目一番地として打ち出した情報公開は、政策に透明性を根付かせ、新たな発想や手法を打ち出す原動力となる。車の両輪をなす都議会も刷新され改革を競い合う舞台は整った。  私にとっての東京の原風景は、都庁があるここ新宿かもしれない。留学先のエジプトから帰国し、関西の実家でのんびりしていたところ母はこう言った。「あなたの居場所はここじゃない」。勝手に新宿に住まいを見つけてきてしまった。  今も昔も東京は、チャンスを生み出すダイナミズムを秘めている。 日刊工業新聞2017年8月29日   平成の約30年間に社会を最も大きく社会を変えたコンピューター技術は、「令和」の時代もその役割を増していく。新しい時代に、技術によって社会やビジネスはどう変化し、人には何が求められるのか。IoT(モノのインターネット)に欠かせないOS「TRON(トロン)」を開発し、1980年代からIoT時代の到来を予言した東洋大学の坂村健情報連携学部長に聞いた。  -平成30年間、コンピューター技術が社会の変化を促してきました。一番のターニングポイントは何でしたか。  「軍事向けに利用されてきたインターネット技術が民間に転用され、インターネットプロバイダーサービスが始まったのは1989年(平成元年)。これが最も大きかった。パーソナルコンピューター(PC)の普及と連動し、一人一人がコンピューターを持つようになった。だが、PCの時代はもう終わるだろう。極端に言えば、手元に2次記憶装置はいらなくなり、令和にはウェブコンピューティングの時代になる」  -企業はビジネスのデジタルトランスフォーメーション(DX)を急いでいます。  「数年のうちに、今までにない変化が出てくる。日本勢は海外に比べ一歩遅れているが、追いつけ追い越せが得意なため、変化できれば心配はいらない。デジタル化によって効率化しなければ、日本は少子高齢化によって社会を維持するサービスを提供できなくなる。日本にDXは必須。人工知能(AI)に助けてもらわなければ、生きていられなくなる。そのくらい危機感がある」  「東京を離れると、それを強く実感する。地方の人口減少は著しく、大学も同じだ。ただ、勉強中の若者が新しい情報や機会に恵まれる都市部に集中するのは仕方がない。若者は勉強中の身だ。勉強が終わった後、農業や漁業などに最先端の技術を取り入れ、変えることもできる。選択肢を示せればよく、実際にその道を選ぶ若者を出てきている。」  -坂村学部長が開発したOS「トロン」は、今のIoTに欠かせません。なぜ日本は海外に比べIoT普及に遅れたのでしょうか。  「規制の影響が大きい。個々の規制を指摘する以前に、日本の規制は“やってよい”ことが書いてある『ポジティブリスト』で、米国の規制は“やってはいけない”ことを書いた『ネガティブリスト』という根本的な違いがある。規制より後に生まれた新しいテクノロジーは規制のリストにない。だから米国ではすぐに使えて、日本では使えない。そんな規制がたくさんある」  -IoTをはじめ、テクノロジーによって変革を加速させるためには、どんな人材が求められますか。  「イノベーションは、技術と社会構造を組み合わせて考えなければいけない。日本には優れた技術があれば問題を解決できると思う人が多いが、そうではない。技術と社会構造の両方を理解し、連携できる人材が必要だ。今は互いに技術や情報を『ちょっとちょうだい』と持ち合って、連携して、新しいものを創る」  -トロン開発時は個人の力が大きかったのではありませんか。  「時代が違う。今でも数学の問題のように天才1人でできることもあるが、技術の成熟期にイノベーションを起こすにはチームの方がいい。1人の天才の1個のアイデアよりも、凡人が何人も集まって多くのアイデアを出す方が成功の確率が高い。昔から『三人寄れば文殊の知恵』と言うが、多様な人が集まるといい」  -連携を重視すると、企業は差別化できなくなりませんか。  「連携パーツが増えれば、組み合わせは階乗で増えるため、差は出る。可能性が爆発する。一方、誰もが簡単にテクノロジーを使えるようになるほど、本当のプロの価値も見いだされる。例えば、今では誰もが簡単に写真を撮れるが、プロが“その一瞬”を捉えた写真は全く違う」  -連携によってイノベーションを生むため、教育活動で重視していることは。  「私が学部長を務める東洋大情報連携学部(INIAD)では、デザインや都市工学が専門の学生もプログラミングとコミュニケーションを必修としている。例えば、今後の都市開発では、地域住民をSNSから研究することも必要だろう。また、デザインは文系科目や理系科目と同じくらい重要になる」  -経営者に求められるものは。  「経営者はオーケストラの指揮者のようにならなければいけない。オーケストラは連携の極地だ。大きな集団を一つの方向に引っ張るには、哲学や倫理観が求められる。個人の考えを哲学に昇華することで、集団に広め、次世代に引き継ぐことができる。一方、インチキなどの問題行動がすぐに広まることもデジタル時代の特徴だ。哲学や倫理観を浸透させれば、これを防げる」  -次々と登場する新しい技術をキャッチアップすることは、簡単ではありません。  「30代も40代も勉強した方がいい。効率的に勉強するために大学がある。INIADもリカレント教育に力を入れている。経営者は自分でプログラミングをする必要はないが、理解して、技術と世界がどう変化するか自分で考える力が求められる。例えば、オランダは欧州連合(EU)発足後に農作物輸出の競争力が低下したが、農地統合とデジタル技術導入によって今では世界2位の輸出国になった。将来の変化を考えて、手を打てたからだ」  「世間では“令和詐欺”があるが、従来の技術と同じなのにAIをかたって不当に利益を得る“AI詐欺”の方が深刻だ。自分の頭で理解できない会社はだまされ、ダメになる。新しいことを知るのは大変とは言ってられない。勉強を続け、デジタル化によるチャンスをつかんでほしい」 日刊工業新聞2019年5月2日掲載より加筆

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