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大学発ベンチャーの成功と失敗、エキスを紹介

Kyoto Robotics社長・徐剛④
 私は大学教授として立命館大学に勤める傍ら、2000年12月からベンチャー企業を立ち上げて18年間経営を続けている。多少の成功と数多くの失敗を経験してきたので、その中から抽出したエキスを幾つか共有したい。数回に分けて紹介する。

 大学発ベンチャーは多くが技術からスタートする。技術をベースに試作モデルを作って市場に問い、市場からのフィードバックを繰り返し受けて量産・量販できる製品に仕上げる。加えて製品を大量販売する仕組みと、販売後のサービス体制まで構築して、初めて一つの事業として成立する。私の感覚では、試作モデルの製作コストは技術を開発するコストの10倍、製品を作るコストは試作モデル製作コストの10倍、事業体制を作るコストは製品を作るコストの10倍である。つまり、一つの事業を作るコストと労力は、最初の技術を開発する際の1000倍。その覚悟を最初から持つのが成功への近道であろう。

 大学の研究室は技術を発想し実験で試せても、顧客に使ってもらう試作モデルを作る体制がない。そのため会社組織が必要となる。この段階で他社に技術を譲って事業化を任せるか、自ら会社を立ち上げ事業化まで手がけるか、これが最初の重要な意思決定である。

 また技術から製品までの距離が遠ければ遠いほど、技術を深く理解している人の関与が必要である。いずれにしても、研究者が最高技術責任者(CTO)または最高経営責任者(CEO)として長期間事業化に関わる事が成功の条件である。今までの日本はこのような研究者が少なく、米国や中国ほどベンチャーが成長していない。

 自ら起業する場合、会社設立日から、サラリーマンとしての大学教授と違って、資金繰りの重圧が掛かる。1日でも資金がショートすれば全てリセットである。

 資金確保の道は大きく(1)売り上げ、(2)補助金、(3)金融機関からの調達―がある。重要なのは売り上げである。未熟な技術でも試作モデルでも、興味を示す顧客が必ずいる。その顧客から不満を積極的に吸収し、製品開発にフィードバックするのが王道である。

 だが、最初から売り上げだけで資金を賄えるベンチャーはほとんどない。次にありがたい資金は政府の研究開発補助金である。政府が技術から試作モデル、製品への成長を加速させる。最後は金融機関。ベンチャーはベンチャーキャピタル(VC)からの出資が主。VCの出資は株式公開が前提で、会社設立から上場を見据え事業計画を練るべきである。上場の意思の有無で経営に大きな違いが生じる。高い志と目標を持つことを勧める。
(全7回、毎日掲載)
日刊工業新聞2018年11月2日(ロボット)

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