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健康意識に訴える次世代型メガネ店舗、業界の課題を打ち破るか

連載・店舗進化論(4)
健康意識に訴える次世代型メガネ店舗、業界の課題を打ち破るか

メガネスーパー高田馬場本店

 「その選択しかなかった」。メガネスーパーを運営するビジョナリーホールディングスの中村成宏執行役員は、2014年に「アイケアカンパニー宣言」を掲げた背景を振り返る。新興勢力との低価格競争に巻き込まれ、赤字が続く中で安売りから決別するための差別化戦略だった。充実の検査などにより、顧客ごとの目の悩みに細かく対応して商品を提案する「アイケアサービス」を展開し、高付加価値化・高単価化を図った。自社の資源を見つめ直し、長年培った「検査技術」を生かさない手はないと考えたゆえの選択肢だった。スマートフォン利用者の増加などにより、目に対する健康意識が高まっていく可能性も見据えた。この選択は成功し、16年4月期に黒字転換を果たした。

 東京・新宿の「メガネスーパー高田馬場本店」。17年11月に「次世代型店舗」に刷新してから5カ月間の客数が前年同期比21%増え、眼鏡の販売単価も同23%上昇した。検査用の個室を備え、メガネ小売りチェーンでは初めて夜間視力検査を導入するなど、他のチェーンではまねが難しい検査体制を敷き、成果を上げた。事業再生の立役者となった「アイケア」をさらに拡充して、提供できる体制を整えた店舗の形が奏功した格好だ。これを受け、次世代型店舗は4月17日現在、45店舗まで広がった。

 一方、眼鏡店は顧客の生活導線にあるという理由で選ばれるケースが大半とされ、「『この価値があるからこの眼鏡店に行く』という集客の決め手になるような店舗の価値を各社とも見いだせていないのが現状だ」(中村執行役員)。メガネスーパーはこの現状を打破するため、さらなる店舗の進化の道を模索し始めた。

すべて移行したい


 次世代型店舗は、最新の検査設備や検査用の個室、目の疲れを取る施術のためのリラクセーション室などを備える。顧客が目の悩みを安心して相談できるように配慮した。検査は最大52項目実施し、問診も行う。具体的には左右の視力だけでなく、両目で見たときのバランスを測ったり、眼鏡の利用場面などを聞いたりして、顧客それぞれに合った眼鏡などを提案する。

次世代型店舗には検査用の個室(左)とリラクゼーション室(右)を備える

 こうした店舗の構想を始めたのは16年春だ。「目の健康寿命の延伸」に配慮したサービスを提供するアイケア戦略により、事業再生に成功し、そこから次の成長を目指す一手として新たな店舗の開発を決めた。その設計を固める中で、事業再生の主軸だったアイケアを充実するというコンセプトは必然の選択だった。

 次世代型店舗の成果は期待以上だった。高田馬場本店以外の店舗も次世代型への移行前に比べて、軒並み客数や眼鏡の販売単価が拡大した。このため、ビジョナリーホールディングスの星﨑尚彦社長は「すべての店舗を『次世代型』に移行したい」と意気込む。すでに全店舗に占める次世代型の割合は10%を超えており、当初想定していた19年4月期をめどに10%という目標を上回る速さで移行が進んでいる。

「地域性」を付加


 一方、アイケアは「眼鏡店は『生活導線にあるから』という理由で選ぶ顧客が大半」という壁を打ち破るところにまでは至っていない。中村執行役員は「我々はアイケアが来店の決め手になると思っているが、そもそもアイケアの重要性に気づいている人はまだ少ない。アイケアの価値を訴求していくためにも、地域の人が来店するきっかけを別に作る必要がある」と力を込める。そこで店舗戦略の次の一手として考案した方法が、地域性を踏まえた設計だ。

 その戦略の一環として東京・吉祥寺に新店舗「MEGANE SUPER 吉祥寺SUNROAD店」を3月に開設した。アイケアの提供はもちろん、ファッション性の高い商品を豊富にそろえた。中村執行役員は「ファッションに対する感度が高い人が多い吉祥寺の特性に合わせた」と説明する。

 次世代型店舗の構築により、メガネスーパーにとってアイケアは再建から成長へのエンジンに変わった。その店舗に「地域性」の要素を盛り込むことで、成長のギアを上げられるか注目される。
(文=葭本隆太)

MEGANE SUPER 吉祥寺SUNROAD店

連載・店舗進化論


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葭本隆太
葭本隆太 Yoshimoto Ryuta デジタルメディア局DX編集部 ニュースイッチ編集長
次世代型店舗で最も充実した検査コース(有料)を体験しました。約1時間かけて検査し、事細かに自分の眼の状態を教えてくれるので、顧客の信頼を得られるような気がしました。(何よりもリラクセーションが気持ちよかったです)。とはいえ、単価は高いので、眼の健康を強く意識しないと、投資判断しにくいところ。中村執行役員が「他の眼鏡店との戦いではなく、一般消費者の目の健康意識を高められるかどうかの戦い」と話していたのが印象的でした。

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