宇宙ベンチャーの旗手が語る、宇宙業界を変える民間の力

【連載#17】ポスト平成の経営者 ispace最高経営責任者・袴田武史氏

 米国のアポロ計画をはじめ、宇宙や月への夢は技術や社会を進歩させてきた。次は民間企業による宇宙開発が本格化する。日本で月面開発のビジネス化に取り組むispaceの袴田武史最高経営責任者(CEO)に、未知の世界に経営者として挑む思いを聞いた。  -宇宙の道に進んだのは、映画「スター・ウォーズ」への憧れが始まりだったとお聞きしました。  「最初は単純で、映画に憧れ、かっこいい宇宙船を造りたいと思った。そういった宇宙船が飛び交うには、人間が宇宙に住まなくてはいけない。一方、広い視点で見ると、人口増加が進めば、地球環境の資源だけでは足りなくなる。月のように、新しいシステムにアクセスできなければ、将来、人間の発展性がなくなるのと思う」  「ただ、技術者だけでは宇宙船を造れない。私はシステム全体として物事を見る傾向があり、そこに必要なものを考える。米大学院で民間の宇宙開発が花開く瞬間に立ち会った時、周囲は技術者ばかりで、事業資金や経営する人材などが必要だと感じた。宇宙船を“造れる環境”をつくろうと強く思い、経営の道に進んだ。今後、宇宙のビジネス化に向けて、経営や経理、人事など、さらに多くの“企業を支える人”が必要になる」  -『2040年に月に1000人が住み、年1万人が訪れる』というビジョンを掲げています。可能性をどのようにみていますか。  「(生命維持の装備が必要な)南極に常時2000人いることを考えれば、月も可能性は高い。20年代には米中が月へ人を送り始める。月周回軌道上の宇宙ステーションが実現すれば、月へ行くインフラができる。トヨタ自動車が宇宙探査への参画を表明したほか、米政府は月面探査に向けて非常に意欲的なメッセージを発信している。宇宙業界はこれから大変革が起きる。今がターニングポイントだ」  -ispaceは事業をどう進めますか。  「20年の月周回、21年の月面着陸のミッションに向け、準備を進めている。探査と並行し、月への物資輸送サービスや、探査時に取得したデータを活用して月面シミュレーション環境を提供する。現在進めているプロジェクトでは、JALや日本特殊陶業、三井住友海上火災保険にパートナーになってもらっている。直近の期間では、パートナーに支援をしてもらいながら、これまで宇宙に関わっていなかった多くの企業が宇宙に取り組めるようにしたい。必要な技術だけでなく、宇宙や月への旅行、月面の開発、それに伴う保険など、宇宙に必要な仕事は増えてくる」  -経営では何を重視していますか。  「技術開発の比重が重くなりがちだが、サービス提供が目的だという視点を重視している。顧客に十分なサービスを提供できるのであれば、古い技術の組み合わせでいい。最初、民間の宇宙サービスを提供するには、新しい発明は全く必要ないと思う。民生エレクトロニクス技術をもっと活用する。得た利益で次の開発をして、次のお客さんの満足度を高める。宇宙だから全てが特別というわけではない」  「こうした開発を技術者は少し寂しく感じるかもしれないが、『自分が作ったものを月に送る』ことは普通できない。これが大きなモチベーションになっている」  -多国籍メンバーで事業を進めています。  「宇宙ビジネスはグローバルでなければ成り立たない。チームもそうだ。当社は最初から東北大の研究室にカナダ籍や米国籍のエンジニアがいたため幸運だった。責任者に外国人がいると、次の人も入りやすい。それでも、多国籍のチームをまとめることは簡単ではなく、日々模索しながらやっている」  -昨年は開発パートナーとの打ち上げロケットの調整難航が難航し、世界初の月面無人探査レースを断念しました。挫折をどう乗り越えてきましたか。  「非常に大きな挑戦だったため、問題は必ず起きることを前提にバックアップを考え、準備していた。それでも、ああいったことが起きた。残念でショックではあったが、事前に対策を打っていたため、スムーズに次へ移行できた。この経験から、着陸船や打ち上げ機も自分たちで管理する必要があると考え、現在のミッションを進めている」  -日本で技術系スタートアップ企業の成長が期待されています。  「技術系は芽が出るまでに時間がかかる。技術の目利きができ、芽が出る前に投資できる『エンジェル投資家』の少なさが日本の盲点だと思う。こうした人が早い段階でおもしろいと思うものに投資すると、失敗と成功を繰り返して良い技術が見える化される。事業計画を立てやすくなり、ベンチャーキャピタルも投資しやすくなる。こうしたエコシステムが日本の技術系ベンチャーの飛躍に必要なのではないか」 激動の平成を支えたベテラン経営者と、今後を担う若手経営者に「ポスト平成」への提言・挑戦を聞くインタビューシリーズ

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