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紙幣刷新するけれど…スポーツ観戦会場にキャッシュレス化の波

プロ野球・Jリーグチームなどが採用
紙幣刷新するけれど…スポーツ観戦会場にキャッシュレス化の波

売り子が持つQRコードを読み込んで代金を支払う

 スマートフォンで支払いができるキャッシュレス決済がスポーツ競技場に広がっている。ソフトバンクや楽天が、運営するプロ野球チームの球場などでそれぞれ2019年シーズンから採用した。政府は24年をめどに現在の紙幣を刷新する方針だが、キャッシュレス化は世界的な潮流であり、新紙幣が流通する頃に国内の決済事情は一変しているかもしれない。

ソフトバンク シーズン終了まで割引


 福岡ソフトバンクホークスの本拠地、福岡ヤフオクドーム(福岡市中央区)は、ドーム内のグッズや飲食販売などにソフトバンクとヤフーの共同出資会社ペイペイ(東京都千代田区)のスマホ決済サービスを3月に導入した。月末に始まった埼玉西武ライオンズとの開幕3連戦では、ペイペイによる支払いで生ビール1杯を半額の350円で提供。「今シーズン終了までペイペイ利用額の最大20%が戻るキャンペーンを続ける」(岩永公就ソフトバンク・モバイルペイメントマーケティング室担当部長)意向だ。

 売店の軒先に貼った2次元コード「QRコード」や、ビールの売り子が首にぶら下げたQRコードをスマホで読み込むだけで支払いが完了する。かばんから財布を取り出すことも、お釣りをもらう手間もなくなる。なおかつビールが安く買える―。こうした「お得感を見てもらうことでペイペイに興味を持ってもらう」(岩永部長)戦略だ。

 ペイペイ導入は紙幣や硬貨の利用に比べ額面以上の価値を生み出す。ビール売り子歴4年のエリカさんは「売上金と販売額が合わないミスが減りました」と笑顔を見せる。現金のやりとりがなくなったことでお釣りを多く渡すミスもなくなったからだ。お釣り用に持ち歩く現金が減ることで売り子の負担も減る。運営側も販売データをデジタル化して一元管理できる。年齢や性別、天候ごとの販売データなどビッグデータ(大量データ)に基づく効率的な店員配置や食材購入につなげられる。

 **楽天 野球もサッカーも上々の滑り出し
 楽天は傘下のプロ野球「東北楽天ゴールデンイーグルス」とサッカーJ1「ヴィッセル神戸」で今シーズンから、現金が一切使えない完全キャッシュレス化に乗り出した。QRコードを使ったスマホ決済「楽天ペイ」やクレジットカード、電子マネーでのみチケットや飲料、グッズなどを購入できる。

 4月にプロ野球・東北楽天ゴールデンイーグルスの本拠地「楽天生命パーク宮城」(仙台市宮城野区)で開催した楽天対北海道日本ハムファイターズ戦。プロ野球球団として初めて、スタジアム全体を完全キャッシュレス化した。観客の混乱を避けるため、球場内外にスタッフ150人を配置した。

       

 キャッシュレス化は売り子の最適配置にもつながった。試合中に収集した購買データを基に、ビールなどの飲料がよく売れるブロックに売り子を多く配置。より多くの観客の注文を取ることができたという。

 3月にはヴィッセル神戸の本拠地「ノエビアスタジアム神戸」(神戸市兵庫区)でも完全キャッシュレス化を開始。関係者によると「当初の売り上げ目標を上回った」そうで、上々の滑り出しを切った。

ドコモ 事前注文、受け取り円滑に


 サッカーJ2の大宮アルディージャは今シーズンからクラブ公式アプリケーション(応用ソフト)にスタジアムグルメを事前に予約できるサービスを追加した。来場前に注文・決済をしておけば、スタジアムでは商品を受け取るだけで済む。

 大宮のユニホームの胸スポンサーはNTTドコモだ。ドコモはJ1の鹿島アントラーズともスマートスタジアム化に向けたオフィシャルスポンサー契約を結んでいる。今後、両チームのスタジアムでドコモのスマホ決済「d払い」の本格導入が予想される。

 携帯電話大手が競って競技場にスマホ決済を導入する背景には、急速に拡大するスマホ決済市場で主導権を握り自社の経済圏を広げる狙いがある。自社のスマホ決済の利用者数が拡大すれば加盟店数も増え、販売データ量が増加する。その結果、より正確なデータ分析につながり、利用者ごとに最適な販促活動ができるという成長サイクルが回り出す。

 携帯大手がプロスポーツチームの運営やスポンサーになる理由は知名度や好感度向上に加え、一般消費者が新サービスに触れられる実験場として活用する狙いもありそうだ。

客・運営、双方に利点


 サッカーの地方クラブでもキャッシュレス化が進んでいる。J2のツエーゲン金沢は今シーズンから金沢市のホームスタジアムに隣設するグルメ街「ツエーゲン茶屋街」で事前注文とキャッシュレス決済ができるスマホアプリ「オーダー」を導入した。同アプリで商品を選択後、受取時間を設定して決済すれば並ばずに商品を購入できる。

 観客は待ち時間を短縮できる一方、店舗も商品提供の円滑化による回転率の向上で効率的な店舗運営が可能になる。

 政府は紙幣刷新を発表する一方、25年までにキャッシュレス決済比率を40%にする目標も掲げている。10月の消費税率10%への引き上げに伴う景気対策として、キャッシュレス決済向けにポイント還元も導入する予定だ。
(文=編集委員・水嶋真人、大城蕗子)
来場者にキャッシュレス化を周知するヴィッセル神戸
日刊工業新聞2019年4月10日

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