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クレーター生成に成功!「はやぶさ2」が挑む次のミッションとは?

世界初の快挙、危険に打ち勝つ
クレーター生成に成功!「はやぶさ2」が挑む次のミッションとは?

㊧はやぶさ2の衝突装置の切り離しイメージ㊨運用の様子を分離カメラで観測、リュウグウから一時離脱する(JAXA提供)

 宇宙航空研究開発機構(JAXA)の小惑星探査機「はやぶさ2」が小惑星「リュウグウ」に人工クレーターを作るための衝突体をリュウグウにぶつけることに成功した。生成が期待される人工クレーターを確認後、はやぶさ2のタッチダウン(着陸)でリュウグウ内部の試料を採取する。小惑星にクレーターを作ることは世界初の試みで、天体試料を地球に持ち帰るサンプルリターン計画の新しいモデルとなるかもしれない。

 はやぶさ2は4日13時、リュウグウとの距離20キロメートルにあるホームポジションからリュウグウへの降下運用を開始。5日10時56分に衝突装置を、11時15分にリュウグウの衝突を観測するためのカメラ「DCAM3」を分離した。

 さらに13時45分、はやぶさ2からの信号を受信し、衝突装置の分離と安全を確保するためのはやぶさ2の待避運用が無事に行われたことを確認した。11時36分に作動した衝突装置によってリュウグウ表面から噴出物が出ている様子をDCAM3の画像で確認できた。

 はやぶさ2は衝突装置を分離した後、安全を確保するため、リュウグウの裏側に待避。はやぶさ2はリュウグウを大きく迂回(うかい)し、2週間かけてホームポジションに帰還する。

 その後、はやぶさ2のリュウグウへの降下運用で生成したクレーターを確認する。はやぶさ2に搭載した衝突装置をリュウグウに放出し、小惑星表面に人工クレーターを作ることが今回のミッションだ。5月以降に行われるクレーター付近へのはやぶさ2のタッチダウンでリュウグウ内部の物質の採取を試みる。クレーターを調べることで小惑星の内部の情報が得られる。

 はやぶさ2プロジェクトチームの津田雄一プロジェクトマネージャは「小惑星に穴を掘る技術とその様子を観察できるカメラの技術を合わせ、小惑星に穴を掘り確認するという宇宙探査の新しい手段を確立できた」と喜ぶ。

はやぶさ2(JAXA提供)

 衝突装置は直径30センチメートルの円すい形で、爆薬を含む質量は14キログラム。内部には厚さ5ミリメートル、重さ2キログラムでできたライナーと呼ばれる衝突体を内蔵している。

 はやぶさ2から分離した衝突装置はリュウグウ表面に達する前に爆破し、秒速2キロメートルでライナーが飛び出す。加速したライナーはリュウグウに叩きつけられ、リュウグウ表面に人工クレーターを作る仕組みだ。

  今回の運用は、はやぶさ2にとって非常に危険なミッションだ。衝突装置が作動時に発生する破片やリュウグウの砂や岩などの噴出物が舞い上がり、はやぶさ2にダメージを与えることも考えられる。

 そのため、はやぶさ2は衝突装置の分離とともに、リュウグウの高度500メートルの位置から速やかに離脱する必要があった。

 はやぶさ2はリュウグウから離れる方向に迂回(うかい)し、DCAM3を放出した。人工クレーターの発生地点とDCAM3との距離は約1キロメートル。この距離からDCAM3はクレーター生成時の衝突現象を観測した。

 さらにはやぶさ2自身の安全を確保するため、衝突装置が衝突するリュウグウの場所から見えない後方の位置に身を隠す。衝突装置の分離から作動までののわずか40分間ではやぶさ2はリュウグウの裏側に隠れる必要があった。

 5日13時45分の状況確認で、はやぶさ2の無事が確認され、人工クレーターの放出ミッションは完了。

 クレーターを生成した次は、クレーターの探索ミッションが控える。DCAM3で撮像した画像からライナーとリュウグウとの衝突位置を推定。光学航法カメラ「ONC」や中間赤外カメラ「TIR」による事前事後の低高度撮像を比較し、衝突位置や今回のクレーターを同定する。

 さらに広角光学航法カメラ「ONC―W1」などで、衝突装置の分離時の撮像による分離装置分離の確認や作動位置の推定、TIRやレーザー高度計「LIDAR(ライダー)」による衝突装置衝突後のダストの観測などを行う。

 今回のミッションで、リュウグウ表面に衝突装置をぶつけるとどのようなクレーターができるのかという科学的な知見が得られる。

 プロジェクトチームの吉川真ミッションマネージャは「小天体などの地球への衝突を避ける『プラネタリーディフェンス』に関する大きな成果となった」と評価する。

 人工クレーター生成とタッチダウンで得られる試料の分析から、天体の衝突による成長や破壊をくり返す天体形成進化の理解につながると期待される。

 はやぶさ2は5月の改元を宇宙で迎え、平成と令和の時代をまたいでミッションを遂行する。2020年のリュウグウからの帰還は、日本の新時代の到来を象徴するイベントになりそうだ。
(文=冨井哲雄)
日刊工業新聞2019年4月8日
日刊工業新聞記者
日刊工業新聞記者
なにかとドラマチックだった「初代はやぶさ」と違い、ここまで大きなトラブルもなく順調にミッションをこなす「はやぶさ2」。人工クレーター生成という大きなミッションを成し遂げ、空けた穴に着陸し、試料の採取をいよいよ5月にも実施する。内部の試料には原始太陽系の痕跡があるとされ、地球の生命の成り立ちを解明するヒントが隠されているかもしれない。

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