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歯科予防を狙う、モノづくり企業たちの勝算

大阪府3市と阪大、新技術創出
歯科予防を狙う、モノづくり企業たちの勝算

ラピスが歯科医院のニーズを聞いて開発した「スケーリングブラシ」

 中小製造業が集積する大阪府の東大阪市、八尾市、堺市の3市はそれぞれ、大阪大学との産学連携で「歯科分野」で新たなモノづくりの取り組みを始めた。歯科医療は病気になった後の「治療」でなく、病気を「予防」し健康な生活を支える医療に変わりつつある。各市はこれまで医療分野の「医工連携」で一定の成果を挙げてきた。変革期にある歯科分野でも新たな技術・事業の創出を狙うが、壁も立ちはだかる。(文=東大阪・友広志保)

「健康増進」でアプローチ


 2月1日、大阪大学大学院歯学研究科と歯学部付属病院は、2007年に包括協定を結んだ堺市に続き、2市と新たに連携協定を結んだ。同時にキックオフイベントとして、企業に対し研究・臨床の現場で抱えるニーズを発表する場も設けた。同研究科長の天野敦雄氏は歯科医療の現状を「口の健康が全身の健康につながっていると、過去30年の研究ではっきりしてきた」と説明する。また連携協定の意義について「大学が持たない技術や視点で、歯学を健康増進のための“生活健康科学”に発展させたい」と意気込む。

 連携協定を結んだ3市は医工連携ですでに支援実績を持つ。医療機器の部品やOEM(相手先ブランド)品、医療現場で使う器具の製品化などで成果を出してきた。

 一方、市場調査が不十分なまま製品開発が進むケースも多い。ユーザーは既存製品に対する優位性と価格のバランスを考え、新しい製品の購入を決めるが、企業や大学、病院側の考えがそこまで及ばないこともある。結果、製品が完成しても「モノが売れない」事態が起こってしまう。

 また付属病院のある大学の教授は教育、研究、診療と業務が多岐にわたる。連携に挑む中小企業経営者も今の本業があり、双方とも時間の制約が大きい。加えて医療機器の開発は、認証取得などに長い時間と費用がかかるのが特徴だ。わずらわしさから連携を諦めてしまうケースも多い。

 今回の歯工連携でも課題はあるが、チャンスをつかもうという企業の姿勢は強い。

キックオフした「歯工連携プロジェクトキックオフ ニーズ発表会・マッチング会」

 ナンゴウヤデンタルラボラトリー(大阪府東大阪市)は、入れ歯や銀歯といった歯科技工物を手がける。ニーズ発表会に参加し、開発の機会を探った。南郷谷亨社長は「参加企業同士の横のつながりもできれば、何か(新しい技術や製品が)出てくるのでは」と指摘する。続けて「1回限りでなく、2回、3回と歯工連携のイベントを続けてほしい」と大学側に要望する。

現場ニーズ、製品競争力に


 ラピス(大阪府八尾市)は超音波振動で歯石を取り除く「超音波スケーラー」のブラシ部分を製造している。もとはドイツ企業が保持していた特許が切れたのを機に「日本で使いやすい形状のものが欲しい」と歯科医院から要望があり、開発した。乾真治社長は現場ニーズを受けて製品開発するメリットを「(消費者への)押しつけにならず、理解してもらいやすい」とする。

 医療機器開発の拠点を東大阪市内に置くJOHNAN(京都府宇治市)は医療機器事業拡大のため、歯科分野への進出を検討する。医療機器の認証取得や製品の量産化は高い障壁と言われる。同社は開発から認証取得、量産まで一貫した事業化支援などを手がける。今回の歯工連携を機に「歯科分野からも案件が来れば」(商品開発部)と期待を寄せる。

 歯工連携の実績をバネに飛躍する中小企業もある。亀井鉄工所(大阪府東大阪市)は96年に、大阪大学歯学部と歯科用研磨装置を共同開発した。社長の亀井治夫氏は「(共同開発した実績の)宣伝効果は大きかった」と当時を振り返る。

 現在、同社の主力製品は歯科用ではなく、工業用研磨装置に移った。ただ工業用研磨装置の開発は、同社の歯科用研磨装置が世の中に浸透し、顧客から「同技術を工業用にも生かせないか」という話が持ち上がったのがきっかけだ。

 亀井社長は「共同研究があったから今がある」と産学連携の恩恵を話す。

大阪大学大学院歯学研究科イノベーティブ・デンティストリー戦略室教授 十河基文氏に聞く


 歯工連携を主導する大阪大学大学院歯学研究科イノベーティブ・デンティストリー戦略室(ID戦略室)の十河基文教授に、取り組みの意義や今後の展望を聞いた。

 ―ID戦略室の役割を教えてください。
 「18年4月に大学院に新設された、産学連携を担う教室だ。12ある国公立大学歯学部・歯科大学のうち、歯学部単独で初めて専任教授を置いている。医療とモノづくりの橋渡しなどを手がける」

 ―大学側から見た歯工連携のメリットは。
 「大学もこれからは自ら稼ぐ経営をする必要がある。そのために研究開発から発明を行い、特許化して特許料を回収する流れが必要だ。産学連携による企業との共同研究や、大学の持つ特許の製品化からロイヤルティーをもらうことができる」

 ―今回の連結協定に3市を選んだ理由は。
 「産学連携にはお金も大切。医療現場の人間はモノづくりにどれだけお金がかかるか知らないので、製造業側に資金を負担してほしいと思ってしまう。しかし中小企業に投資だと言って(金銭面で)頼るのは酷だ。3市はモノづくりの助成金に予算を割いており、医工連携や産学連携のコーディネーターがいることも大きかった」

 ―ニーズ発表会を開いた効果は。
 「研究や臨床の現場でしか分からない、小さなニーズを参加者が知ることができたと思う。阪大歯学部の門戸が開いているというアピールにもなった」

 ―今後の活動方針は。
 「大ヒット商品は、思いもよらないとっぴな発想から生まれることが多く、ニーズ発表会だけでは不十分なのも事実。手間も時間もかかるが、ニーズを超えた新しい製品も作っていきたい」
十河基文氏
日刊工業新聞2019年4月1日

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