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人手不足で対応苦慮も…「有給」義務化に中小企業はどう対応?

働き方改革の一環で4月からスタート
人手不足で対応苦慮も…「有給」義務化に中小企業はどう対応?

有給で心身ともにリフレッシュすることが、社員の生産性を高め、企業の業績を高めることにつながる

 働き方改革の一環として、年10日以上の年次有給休暇(有給)を付与されている労働者は、4月から5日以上の有給取得が義務付けられる。大手企業に比べ、中小企業の有給取得率は低い水準に留まるが、すでに有給消化を義務付けている企業も多い。人手不足も重なって対応に苦慮する企業もあるものの、取得率は企業間の差が大きい。「ある程度の強制は仕方ない」と前向きに捉える企業もある。

取得率向上、すでに対応 経営者の伝え方次第


 有給の取得について、ある程度の規模の中小企業ではすでに対応済みの企業が多い。

 プラスチック・樹脂加工を手がける湯本電機(大阪市東成区、湯本秀逸社長、06・6976・3366)は、有給の取得率向上に5年前から取り組む。同社は1か月を通して無遅刻、無欠勤だった社員に皆勤手当1万円を支給していたが、有給を取得すると従来はこの手当がつかなかったという。

 湯本社長はこれが「有給を取得しにくい要因」と考え、一定の有給を取得しても皆勤とする方式へ2014年度に変更。14年度から皆勤とみなす有給を1日ずつ増やし、現在の年休の平均取得日数は5日を超えた。

 業務に支障が出ないよう職場での工夫は必要だが、少しずつ有給を取得しやすい雰囲気が生まれている。取得率向上は「経営者の伝え方次第」と言い切る。

 日光金属(栃木県矢板市、佐藤正太郎社長、0287・47・4581)も08年から年間5日の有給取得を義務化。同社が指定した5日間は全社員が休日となる。佐藤社長は「会社側が有給取得を促すことで休みを取りやすい環境を整備し、働きやすい職場作りに生かしたい」と狙いを説明する。

 こたつ用のヒーターユニットや産業用ヒーターを手がけるメトロ電気工業(愛知県安城市、川合誠治社長、0566・75・8811)も08年から5日間の計画有給制度を実施しており、義務化でも急な準備は必要ないという。計画以外の有給も取得できている社員が多く、「さらに取得率をあげていきたい」(川合社長)。

 屋上換気扇や気化式涼風装置を主力とする三和式ベンチレーター(愛知県稲沢市、服部聡始社長、0587・32・4168)も、大半の社員は年間5日以上は有給休暇を消化している。「すでに2、3日は強制的に取得をさせている」(服部社長)状況で、「残り2、3日をしっかり消化させるよう指導する」(同)と負担感はない様子だ。

 真空注型機などを手がけるsid(埼玉県川口市、清水勝明社長、048・264・7131)の清水社長は「義務化で心配はない」と話す。有給消化日を定め、有給を取るよう声かけするなど、徹底している。完全週休2日制で祝日も休みと大手並みの待遇を確保しており、「2日働いて1日休むようにできれば」と今後のイメージを語る。

「5日以上」さらなる工夫 閑散期の取得を推奨


 ただ、義務化をしても実際に5日以上取得させるには、より一層の工夫が必要そうだ。

 ペンチやニッパーなどの製造・販売を手がけるフジ矢(大阪府東大阪市、野﨑恭伸社長、072・963・0851)の野﨑社長は、「全体の約7割が5日以上の有給を取得している」と説明。今回の義務化でも特に対策を講じはない。

 しかし、業務が一部社員に集中しており、残業や休日出勤で対応してもらっている。「残りの2、3割の社員に有給を取ってもらう方法をどう確立するかが課題」(野﨑社長)。期初に年間計画を作り、順次休んでもらう方法などを検討する。

 R曲げ加工のフジテック(埼玉県川口市、藤田昭一社長、048・284・5103)の藤田社長も、「有給を取得する人としない人と両極端に分かれる。特に現場で主力となる人は休まない」と指摘する。このため、幹部による指示を徹底する。義務化に向けて去年から準備を進めており、繁忙期に重ならず、閑散期にうまく有給が取れるよう計画的な有給取得を促す。

 同社は今年、年間休日を20日増やし、120日とした。年間休日数の増加と有給義務化は、稼働日数が重要な製造業にとって厳しいが、「生産性を上げるなど、どうにかして利益を上げていく」と力を込める。

 プリント基板や制御盤、制御盤用電線加工機の製造を手がけるライオンパワー(石川県小松市、高瀬敬士朗社長、0761・44・5411)は、5日分のうち3日分を会社指定日に充て、残り2日分は社員に一任した。しかし、年度末など繁忙期には懸念が残るのも事実。休みやすくするには「受発注企業相互の意識改革による生産の平準化が欠かせない」(高瀬社長)。

 一方、田倉繃帯工業(東京都八王子市、田倉勉社長、042・661・4955)の18年度の有給消化率は62・5%。女性従業員は約3分の2で、平均年齢は53、54歳。ベテランがそろい、もともと有給がとりやすい環境だ。全社的に指定日を設けていないが、有給消化が少ない社員に個別に声掛けをしていく方針だ。ただ、田倉社長は「有給管理業務の煩雑化や、生産効率低下の影響への対応が課題だ」と危惧する。

休みを取りやすい環境と働きやすい職場作りに動き出す中小が増えてきた

 タービンの設計からシステム開発までを手がける阪技(兵庫県高砂市、後藤純次社長、079・443・4405)は、年間で数日を有給の計画的付与日に設定。19年度は7月と8月に連休となるよう、計8日設けた。全社の従業員約230人が一斉に取得する予定だ。「休暇取得や残業削減を進める分、業務量を補う工夫が必要」(後藤社長)だ。

 また、米山製作所(東京都瑞穂町、米山俊臣社長、042・556・2358)の米山社長は、「トップが積極的に有給を取得し業務改善に努め、社員が率先して有給を取れるようにしている」としつつ、「大手企業の休暇状況を見据えて業務に取り組んでいるが、受注が集中するなど企業1社の努力だけでは困難だ」と懸念する。

義務化に歓迎の声 取得促す“きっかけ”


 自動車部品向けプラスチック成形用金型などを手がける九州池上金型(福岡県糸島市、池上信社長、092・325・0930)は、4月から年3日の有給取得推奨日を設ける。「現実的にやっていかなければならない」(池上社長)と、推奨日を設定することで、社員間で均等に取得しやすい体制をつくる。

 背景には有給休暇に対する社員間の考え方の違いがある。現在、社員によって取得率はバラバラ。大型連休に合わせて取得しやすい環境にある大手企業と違い、「中小企業にとっては法律や規制がきっかけになる」(同)と前向きに捉える。

 インフュージョン(横浜市港北区、角三十五社長、045・472・0938)の角社長も、「現状は企業間の取得率の差が大きい。均等化するにはある程度の強制は仕方ない」と考える。同社では、半数以上の社員が有給をほぼ毎月取得している。角社長は「社内で取得しにくい雰囲気にならないように気をつけている」と話す。

 しかし、角社長は「あまり取得していない社員に対しても会社側から取得すべき日を指示する必要性が出てくるのでは」と備える。まずは社員を対象に説明会を開く予定だ。

中小企業診断士・社会保険労務士の高橋美紀氏の見方


中小企業の中で1人の社員に年次有給休暇をどれだけ付与し、かつ消化されているかを正確に把握している企業がどれだけあるのか気になるところだ。通常は入社後の半年間で8割出勤すれば10日の有給休暇が与えられる。ただ、中途入社の多い企業では、有給休暇の付与日(基準日)が社員によってバラバラになり、管理が煩雑になる。そこで、それを避けるために基準日を社内で統一することも検討してほしい。

また、そもそも義務化される5日の有給休暇すら取得させていない企業もあるかもしれない。過去の実態把握を急ぎ、取得が進まない原因を探るとともに、場合によっては夏のお盆休みなど、業務に余裕のある時期に計画的に有給休暇を取得させることも必要だ。

高橋美紀氏

(文=特別取材班)
日刊工業新聞2019年3月26日

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