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人間の反射運動をバランス制御に利用、MITの遠隔操作ロボット

二足歩行での災害現場作業で転倒防ぐ狙い
人間の反射運動をバランス制御に利用、MITの遠隔操作ロボット

バランス・フィードバックを組み込んだコントロール装置(右)とロボット(Melanie Gonick/MIT)

 人間がパンチするしぐさをすると、少し離れたところにいるロボットも同じ動作を行い、目の前の壁を破壊。しかも、ロボットが壁を叩いている時のバランスの乱れが操作する人に力としてフィードバックされる--。こんな遠隔操作方式の二足歩行ロボットの開発に、米マサチューセッツ工科大学(MIT)が取り組んでいる。特徴的なのが、「バランス・フィードバック・インターフェース」という仕組み。リアルタイムでフィードバックされた力に対して、人間が瞬間的に反り身になったり足を踏ん張る「反射運動」を利用し、その反射の動作信号をロボットに戻すことで、ロボットが倒れないよう制御するのに役立てている。

 このロボットは重さ約45kgの「HERMES(ヘルメス)」。DARPA(国防総省国防高等研究事業局)から資金支援を受け、災害現場などでの作業を目的にMIT機械工学部の博士課程の学生が開発中。操作する人がワイヤやモーターなどが付いたコントロール装置を上半身に装着し、レバーを握って腕を動かすとロボットの腕も同期して動く。また、グリップの部分にあるボタンを操作すれば、3本指のロボットハンドが開閉し、ロボットに搭載されたカメラの映像をゴーグル越しに見ながら、モノをつかんで動かしたりできる。

 バランス・フィードバックに使われるのは、ロボットの足の部分に組み込まれた荷重センサー。これでロボットにかかる力を測定し、常に重心の位置を計算。その重心の変化を、ベストのように装着するコントロール装置を通じて、操作する人の体に圧力の形で返す。バランスが大きく崩れて転倒しそうになるほど、より大きい力がフィードバックされるようになっている。

 こうすることで、たとえばロボットが壁を叩いて前かがみになると、それと反対側、つまり人間の背中側に瞬間的に圧力がかかり、反射で少し反り身になる。その動作の信号がロボットに伝達され、目の前の壁が崩れ落ちてもロボットが前のめりのまま転倒せず、バランスが保てるのだという。カメラを使った視覚フィードバックでの操作に比べ、人間が直感的に反応するため、素早い対応が期待できるとしている。

 次の段階では、斧を振り回したり、バネ仕掛けのドアを開けたり、より複雑な動作にも取り組む予定。ゆくゆくは災害現場を想定して、最初は四つ足で歩き、それから立ち上がって、ドアを開けたり障害物を取り除いたり、といった難しい作業をさせることも計画している。
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藤元正
藤元正 Fujimoto Tadashi
人間とロボットが同期して、パンチで壁を壊している様子は迫力がある。ただ、よくよく見るとロボットは上から吊されていて、まだ自立できていないよう様子。発想は面白いが、実際に災害現場で転倒しないようバランスを取りながら作業を行うまでには、時間がかかりそうだ。

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