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【連載】なぜ、企業は不祥事を繰り返すのか? ④メルシャンの循環取引事件

**事件の概要
 2010年5月、メルシャンの水産飼料事業部が、2年前から循環取引を続けていたことが発覚した。この事件によって同社の過年度決算の損益は、約64億円のマイナスとなった。
 水産飼料事業部は、アルコール製造の際の残渣を利用して、養殖魚用の配合飼料を製造・販売するビジネスを手掛けていた。同事業部は熊本県八代市に所在し、製造業務の一部をa製造に外部委託していた。飼料の販売ルートは、卸売業者を通じた商流と、養殖業者に対する直接販売に大別され、d養殖とe養殖は直接販売の重要取引先であった。

 2007年秋の時点で、d養殖に対する売掛金が9~10億円に膨張して資金繰りが難しくなるとともに、e養殖も台風によって養殖魚が大きな被害を受けていた。水産飼料事業部では、両業者への多額の売掛金が回収不能になる事態を回避するために、2008年1月から循環取引を開始して両業者に資金を融通したのである。

循環取引の構造


 循環取引とは、複数の企業が共謀して商品の転売を続け、やがては最初に販売した企業が当該商品を買い取ることによって成立する環状の取引構造(○○社→△△社→・・・・→○○社)である。取引の対象物は、必ずしも実在の商品であることを要しない。この循環取引によって、帳簿上では売上額を増大させたり、利益を計上したりできるため、経営状態を偽装する手段として悪用されている。

 本事件の循環取引の基本構造は、図のとおりである。まず、d養殖やe養殖が商社に魚(架空)を販売(①)したことにして、商社はその魚(架空)から製造した魚粉(架空)をa製造に販売(②)したことにする。a製造はその魚粉(架空)から製造した飼料(架空)を水産飼料事業部に販売(③)したことにして、水産飼料事業部はその代金をa製造に支払う(④)。a製造はそのカネで商社に魚粉(架空)の代金を支払い(⑤)、商社は魚(架空)の代金を両業者に支払う(⑥)。かくして資金の融通を受けたd養殖とe養殖が、メルシャンの売掛金(⑦)に対して支払いをする(⑧)。

 この取引によって、帳簿上では両業者に対する売掛金は回収されるが、その一方で、メルシャン側には飼料の架空在庫が蓄積される(帳簿上ではa製造に保管を委託していた)。水産飼料事業部では、両業者が養殖魚の販売で利益を上げた際に、この架空在庫をあらためて両業者に購入させる会計処理をして解消するつもりだった。ところが、養殖魚価の低迷が続いて両業者の経営は回復せず、循環取引を反復するようになった。
昆梓紗
昆梓紗 Kon Azusa デジタルメディア局DX編集部 記者
経営状態偽装のための循環取引。偽装のために大がかりな工作がなされていますが、なぜ可能だったのでしょうか。疑問点が気になります。 次回は最終回、「中日本高速道路の笹子トンネル事故」を取り上げます。

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