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世界シェア7割、「マテハンの“万能細胞”」の正体

伊東電機のコンベヤー駆動用モーターローラー「MDR」 その開発精神とは
世界シェア7割、「マテハンの“万能細胞”」の正体

増設が進む本社第一工場(兵庫県加西市)

 伊東電機は兵庫県加西市に本社を構える搬送関連機器メーカー。主力製品のコンベヤー駆動用モーターローラー「パワーモーラ(MDR)」は、物流倉庫や製造現場で大活躍。世界シェアは7割を占めるという。開発者の伊東一夫社長はiPS細胞(人工多能性幹細胞)を引き合いに、MDRを「何にでもなれるマテハンの万能細胞」と表現する。米国や欧州、アジアに拠点を置くグローバル企業に成長した同社だが、地元・加西に根ざした経営を貫く姿勢は変わらない。

改良の喜びが原点


 伊東電機の歴史は伊東社長の父・市郎氏が戦時中、神戸から疎開し1946年に北条町(現在の加西市)でモーター修理会社としてスタートしたことに始まる。同地域は三洋電機の発祥の地であり、掃除機モーターの協力工場としてモーターの製造設備も手がけていた。伊東社長は設備改良を通じて顧客の生産効率が高まることに喜びを見出し、さらに改良を繰り返す。この原体験がMDR開発のベースにある。

 社業は順調に伸びるも、1970年代の石油危機で受注がストップ。この経験が下請けから脱皮の原動力となり1975年にパワーモーラが誕生。その後、時代を見据えた改良を重ね1988年に現在の主力製品となる「パワーモーラ(MDR)」を開発した。

 MDRは内蔵したモーターとギアにより自転する円筒状ローラー。ローラーに載せた荷物自身がコロの原理で動く。フォークリフトや無人搬送車のように運搬機と荷物が一緒に動かないため、搬送エネルギーを減らすことができる。MDRを動力源とした分岐部や合流部のコンベヤーを組み合わせることで、効率の良い搬送システムになる。そのほかにもMDRは仕分けや保管、重量物の移動など、あらゆるマテハン(マテリアルハンドリング)駆動源に使える点が「万能細胞」と称されるゆえんだ。

米国からの大型受注が弾み


 満を持して市場投入するも、順風満帆に進んだわけではない。ベルトコンベヤーが搬送の主力だった1970-80年代。パワーモーラが家電メーカーのビデオデッキ量産組み立てラインにようやく採用され、生産ラインのスピード向上に寄与するも、その後のバブル崩壊で販売は伸び悩み、独自技術は苦戦を強いられた。88年に市場投入したMDRも「最初の10年は全く売れなかった」(同)という。

 ようやく日の目を見たのは1998年。米国郵便公社(USPS)からの受注がきっかけだ。250カ所もの全米の配送仕分け拠点にMDR搭載のシステムが導入されたことが話題となり、その後も大量の荷物を取り扱う物流施設での採用に結びついていった。ただこうした大型受注の背景には海外に自前の営業拠点を構え、USPSに10年もの長きにわたり、粘り強く提案するとともに取引先の性能基準をクリアするという地道な取り組みがある。

 今やMDRは、大量の荷物を仕分ける物流施設以外に、医薬品やアパレル、食品など幅広い産業分野で活用されている。MDRにはIPアドレスが搭載されており、専用コントローラーとの組み合わせによってインターネット回線を介した通信が可能。こうした技術を生かし、パソコン上でモジュールの組み合わせによって需要変動に応じて柔軟にラインのプログラム変更ができる物流システム「id-PAC(アイディーパック)」も誕生した。簡単制御で運用に応じたラインが構築できるため、「製造現場の動線を妨げずにレイアウト変更できる」(伊東社長)のが特徴だ。コンベヤーなどによって動線を妨げたくない自動車工場などで導入が進んでいるという。

 ネット通販市場が拡大するなか、中国をはじめとする新興国での需要拡大も見込まれる。現在、10億円以上を投じて本社第一工場(加西市)の延べ床面積を2倍以上に拡張しており、MDRの月産能力を2020年には現在の倍にあたる月10万-12万台に引き上げる。さらにMDRを動力源とするコンベヤーを組み立てる工程を担う加西市内の別工場では拡張も検討している。
新たな発想引き出す

 採用分野の拡大が見込まれるビジネスだが、顧客提案力のさらなる向上は不可欠と認識している。そこで同社では所属部署に関係なく有志を募り、自社の山荘(兵庫県朝来市)で伊東社長とともにログハウスやワインセラー作りに汗を流す休日を過ごしている。一見すると、本業とは無縁の取り組みに映るが、通常業務以外の体験を通じて、新たな発想を引き出す狙いがある。

 こうした考え方は、長年にわたり続けてきた地域貢献活動にも貫かれている。地元で30年以上続く少年野球大会の開催や子ども向け科学教室は、子どもたちの可能性を広げる場である一方、社員教育の場でもある。これらを通じて伊東社長は「社員一人一人が万能細胞のように自らの可能性を追求してほしい」と語る。

 「MDR」を通じて、世界に羽ばたく同社。伊東社長の夢である「世界で1番のモノづくり」を実現する人材を、ここ加西で育んでいる。

伊東一夫社長とMDR

【企業情報】
▽所在地=兵庫県加西市朝妻町1146の2▽社長=伊東一夫氏▽設立=1965年10月▽売上高=約110億円(グループ連結、2019年3月期予想)
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神崎明子
神崎明子 Kanzaki Akiko 東京支社 編集委員
「マテハンのips細胞」との表現が言い得て妙だと印象的。ネット通販市場の拡大で物流分野にはさらなる革新が求められるだけに今後の成長が期待されます。                           

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