いろんな使い方を受け入れる高橋手帳の、か な り こだわった先のシンプル美

定番商品のつくり方、育て方 #4 ~高橋書店「高橋手帳」~

 「手帳は高橋」というコピーで有名な「高橋手帳」、その始まりである日記の創刊から今年で67年目。現在、装丁色と記入形式とサイズが違ってなんと264種類ものバリエーションがそろっています。手帳市場において書店シェア約40%を占める高い知名度の商品です。  日記事業部編集部の山内靖久さんと広告・広報部の吉越久美子さんに、こだわり抜いた手帳づくりや今年のプロモーションについて聞きました。ユーザーの声をもとに毎年細やかな改良が施されています。また、時代の変化を捉え、どのようなキャンペーンや新商品がささるのか、模索し続けています。(聞き手・平川透、写真・北山哲也) 「定番商品」が定番たる所以は何でしょうか?類似の商品やサービスがある中で、「その商品」が選び続けられるために、つくり手は何を考え、何を大事にしているのでしょうか。 このシリーズは、主に商品開発やマーケティングの観点から、様々なジャンルの定番商品に携わる方にお話を聞き、「多くの人に長く愛される」ものづくりのヒントをお届けします。 —手帳には毎年改良を加えているのですか? 山内さん:変えています。アンケートハガキを手帳の中に入れているのですが、お客様は非常に細かくご意見を書いてきてくださります。1年間使っていただいたお客様から「この部分をこうしてほしい」「ああしてほしい」などご意見がたくさんきますので、それをもとに改良しています。基本的には同じ形式でも、細かい部分などは毎年バージョンアップをしています。  ただ、何人かの方から同じ意見をいただいても、それが最大公約数の意見になっているかはわからないので、意見をどのように反映するかが難しいです。基本的には、現在使っていただいているお客様の使い勝手を損なわないで、いかにプラスアルファのことができるか、というふうに考えます。 —「高橋手帳はシンプルだからいい」という声を周りで聞きます。シンプルさを保つことは心がけているのですか。  お客様が自由に使っていただけることが基本だと思っています。フォーマットをカチッと決めて「こう書いてください」というふうに押し付けるのではなくて。もちろん基本的なフォーマットは作っていますが、その上で、お客様の書く内容によってアレンジやカスタマイズできる余地をつくっておくことが重要です。 吉越さん:SNSなどで皆様の使い方を見ると、本当にアイデアあふれる使い方をされていて、私たちが逆に「こうやって使うんだ」という発見をします。 —私は手帳制作に関して素人なので、真似してつくりやすい商品なのではないかと感じています。 山内さん:確かに簡単に作れそうですし、やろうと思えば作れるのかもしれませんが、編集面での細かいノウハウの積み上げだったり、かなり特殊な製本だったりするので、実際に作ろうとするとかなり大変だと思います。見た目よりは結構奥が深いです。編集、紙、製本などいろいろな部分でかなりこだわっています。  編集でいうと、刷色や、日玉(日にちの表示部分)、罫線の太さなどで今まで培ってきた使いやすさのノウハウがあります。本当に細かいのですが。また、紙は特注です。手帳の紙なので、薄く作っているのですが、裏写りしてしまうと使いにくくなるので、「薄くて軽くて書きやすい筆記特性だけど、裏写りしない紙」を製紙メーカーと共同でつくっています。製本に関しても、複数年使い続ける連用ダイアリーなどのように長いものでは5年10年の間、毎日閉じたり開いたりしても決して壊れないようにするノウハウがあります。  見た目で大きく変わらないけれど実際に使っていただくと書き心地やページのめくりやすさ、記入のしやすさなどやっぱり違うんだなと認識していただいているように思います。 —フォーマットづくりはどの辺りが難しいですか?  手帳は持ち歩くものなので、「手帳全体の大きさはなるべく小さい方がいい、だけど、書く欄は広くしてほしい」と要望されるわけです(笑)  また、1日に書く適切な文字量に合わせて行数を決めなくてはいけません。書きやすい幅も確保しないといけない。書く人の文字の大きさも変わってきています。最近の人は書く文字が大きくなってきているんですよ。お客様に最適な1日分のスペースをどうやって確保するかなどは試行錯誤です。 —手帳のプロモーションに関して重視していることは何ですか? 吉越さん:店頭で売るということをとても重視していて、店頭でいかに「手帳は高橋」のコーナーを見つけて来ていただけるかを大事にしています。  2019年版は、アーティストの絢香さんをイメージキャラクターに起用しています。起用した主な理由は、幅広い年代にファンがいて、手帳ユーザーのターゲットと合致しているからです。ライブでは会場に「10代の方」「20代の方」と順番に呼びかけていくのが恒例なのですが、10代から70代以上の方までいらっしゃるんですね。  年末には絢香さんのCMを展開しましたが、店頭でも絢香さんのアイキャッチとなる拡材を置いています。それに加えて、毎年10月に開催している「手帳大賞」で審査員に加わっていただき、高橋書店用の楽曲「365(サンロクゴ)」を発表していただきました。その曲とミュージック映像を店頭で流しています。このように、店頭・CM・イベント・タイアップなど、いろいろなキャンペーンが全部一体となって動いています。 —デジタルツールの普及をどのように捉えていますか? 山内さん:デジタルの手帳が普及し始めたことで、紙の手帳って危ないんじゃないかと皆さん思われているのではないでしょうか。実はそうではなくて、一度はデジタルを使っても、紙の手帳に戻る方も多くいらっしゃいます。紙には紙のよさがあるというご意見を多くいただいています。ただ、デジタルの手帳が普及した今、紙の手帳ってどうあるべきか突き詰めなければならないです。紙とデジタルを併用されている方もいるので、どういう形の手帳が一番よいのか模索しています。 —これからの手帳のあり方をどう考えていますか?  昔のように、「これを売っていればみんながそれを買ってくれる」ということがだんだん成立しにくくなっている部分があって、お客様のライフスタイルや趣味趣向はどんどん多様化してきています。それに応じて商品のバリエーションも増やさないといけないと考えています。  以前はビジネス用途が主流で、単に「何時に誰とどこで会う」「この会議がどこである」などを書き込めればよかったのですが、今は自分の身の回りに起こっていることを書く人や、目標達成のための計画を立てて書く人、さらにはライフログ、つまり朝起きてから寝るまでの出来事を何でも書く人などがいらっしゃり、多様な使い方がされています。そういう使い方に対応した手帳も増えています。使い方に伴って、サイズもどんどん大きくなっています。昔はポケットに入るサイズが主流でしたが、今はB6判くらいの大きさが主流なんですよ。そういった流れにある中で、フォーマットをどう変えればさらに用途が広がっていくのか、その辺の研究をしていかないといけません。(ちなみにB6の大きさは128×182mm) 吉越さん:今年、「torinco(トリンコ)」という新シリーズ18点を発売しました。20代30代の女性を獲得したいという強い思いから企画されたもので、上質で洗練されたデザインのとてもシンプルなシリーズです。  torinco1には「1日1ページ」という新しいフォーマットがあります。1日分の記入スペースが、1ページ用意されています。  時間軸で時間の管理ができますし、日記としても使うことができます。その日に食べたものの写真を貼ることもできますし、仕事にもプライベートにも使える。自由度の高いフォーマットです。自分でカスタマイズしてつくっていく感じです。 山内さん:若い人に定番だと認められるような新シリーズにしていきたいです。 【略歴】 山内靖久(やまうち・やすひさ) 1988年入社。販売部、書籍編集部を経て、2010年より日記事業部第1編集部ディレクター、18年より日記事業部編集部副部長を務め、現在に至る。 吉越久美子(よしこし・くみこ) 2011年高橋書店の商品企画プロデュースやプロモーションを行う子会社「株式会社 高橋インターナショナル」に入社。18年より高橋書店広告・広報部課長を兼任、現在に至る。 連載「定番商品のつくり方、育て方」 #1 #2 #3 #4 3月18日午前6時公開 #5 3月16日午前6時公開 #6 コンバース「オールスター」【近日公開予定】 #7 ハウス食品「うまかっちゃん」「バーモントカレー」【近日公開予定】 #8 3月17日午前6時公開 *掲載順は公開順ではありませんので、ご了承ください。

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