売り上げ急上昇にはワケがある。シンプルだけど示唆に富む「お〜いお茶」の物語と今後

定番商品のつくり方、育て方 #3 ~伊藤園「お〜いお茶」~

 伊藤園の「お〜いお茶」ブランドは、30年前に誕生しました。当時、「お茶はタダで飲むものだ」という世の中の認識がある中、現会長である本庄八郎さんの「家だけで飲むものではなく、いつでもどこでも手軽に飲めたらいいな」という思いから、10年ほどの開発期間を経て、1985年に「缶入り煎茶」が誕生します。世界初の缶入り緑茶飲料です。しかし、ヒット商品からは程遠い実績が続きました。89年にブランド名を「お〜いお茶」に改めると急成長が始まります。現在に至るまで緑茶飲料市場でシェアナンバーワンを維持しています。  緑茶ブランドグループブランドマネジャー安田哲也さんに、「お~いお茶」の誕生エピソードから現在、そして今後の展開を聞きました。ブランドを大きく成長させた重要な要素がいくつかあり、キーワード的に挙げれば、「先行者利益」「ネーミング変更」「500mlボトル」「網羅的バリエーション」などがあります。そんな「お~いお茶」、さらなる成長に向け目をつけているものがあります。(聞き手・平川透、写真・木本直行) 「定番商品」が定番たる所以は何でしょうか?類似の商品やサービスがある中で、「その商品」が選び続けられるために、つくり手は何を考え、何を大事にしているのでしょうか。 このシリーズは、主に商品開発やマーケティングの観点から、様々なジャンルの定番商品に携わる方にお話を聞き、「多くの人に長く愛される」ものづくりのヒントをお届けします。 —「缶入り煎茶」から「お~いお茶」へ、なぜ名前を変えたのですか?  「缶入り煎茶」は鳴かず飛ばずでした。「煎茶」だと読み方がわからない方が多く、馴染みもないことが理由でした。そこで、家族だんらんのコミュニケーションの場で飲むお茶をイメージした「お〜いお茶」という商品名に変更したところ、幅広い年代の皆様に手に取っていただけるようになりました。名前を変えた初年度で、売り上げが6倍の40億円になりました。 —「お〜いお茶」の名前の由来を教えてください。  お茶摘みの時の「お〜い」という掛け声のイメージをお客様に伝えたいということがありました。また、家庭的な雰囲気を演出して売り場から「お茶をどうぞ」と語りかけるような商品名を検討しました。そうして、当時の当社のテレビCMで俳優の島田正吾さん(故人)がおっとりした口調で呼びかけていたフレーズ「お~いお茶」を採用することになりました。 —1990年にペットボトルのお茶を出しています。ペットボトルの緑茶飲料は世界初の試みですね。  まずは家庭に入ろうということで、当時の定番容量である1.5Lサイズでスタートしました。その後、96年に500mlボトルを出しました。カバンに入れて持ち運べ、外出時でもお茶をいつでも飲めるものにしました。そこからは倍々で売り上げが伸びました。毎年2桁成長どころか、2倍で増えていくという感じです。  「お〜いお茶」を出して約10年間は目立つ競合はおらず、また、市場も他の飲料と比べてそれほど大きいわけではありませんでしたが、緑茶飲料市場は伸長を続けていました。そして2000年、「生茶」が出てきたあたりから市場競争が激化しはじめました。  社内で「緑茶戦争」と呼んでいるものがあり、現在までに第7次まであるんじゃないでしょうか。シェアが脅かされることが7回ほどあったということです。緑茶だけが脅威ではなく、「十六茶」や「爽健美茶」などのいわゆる混合茶との争いも含まれています。 —そういった競合商品の研究はしますか?  毎日とは言いませんが、定期的に飲んで研究しています。他社の新商品が出ると、「作り方はこうだ」とか「この辺をこうしているな」みたいな、経験上わかるところをみんなで議論します。「綾鷹は香りを上げてきたな」「伊右衛門が旨みを強化してきたそうだが実際にそうなのか?」という風に、他社の商品は全て確認します。  ただ我々は、他社の動きに応じて同じようなものを作るというようなことはしません。「お〜いお茶」を高めることと、より多くのお客様に手にとっていただくことの議論が中心になります。 —変えずに守り抜いていることを教えてください。  一貫して無香料無調味で、「自然のままの美味しさ」を謳っていて、足したり引いたりは一切していません。これが大きなこだわりです。 —色々なバリエーションがありますね。  何か1種類だけあって、それが万人受けすれば非常によいのでしょうし、それはそれで目指すところです。ただ実際にはお客様の趣向は様々。だいたいの趣向の傾向は30年やってきてわかっているので、いろいろな方の趣向に合わせた味作りをしています。例えば女性のお客様にはほうじ茶のような香りが好まれるので、苦みや渋みは極力抑えたものを。お子様には渋みが苦手だろうから「ほうじ茶」あるいは「玄米茶」を。男性の働き盛りの方には渋みの強い「濃い茶」を。 —具体的にはどのような考えのもとバリエーションを展開してくのですか?  まず、「お〜いお茶 緑茶」が「香り」「渋み」「旨み」の三角形の中心にあります。香りも渋みも旨みもあるベストバランスなものを「お〜いお茶 緑茶」で追求するべきだと考えています。ただ、お客様の趣向に合わせて、「お〜いお茶 緑茶」からある程度味のポジションの距離を置いたものをシリーズとして展開します。旨みなら旨みに特化、渋みなら渋みに特化、という風に、色々なお客様の好みに対応します。このような考えでバリエーションの展開を行なっているのはうちぐらいです。 —他社ではやっていないのですね。  他社でも「お〜いお茶 緑茶」とほぼ味わいのポジションが近い商品を展開しています。「急須で入れたような味」や「老舗感」といった方向性のプロモーションで自分たちのコンセプトは打ち出されていますが、お客様の趣向に合わせて一つのブランドでいくつものポジションを築いているのは、当社以外にはないかなという印象です。 —シェアナンバーワンで、誰もが知っているであろうブランドの広告をなぜ出すのでしょうか?  新しいお客様に気づいていただき手にとっていただくきっかけを作るということです。今、一番強化しないといけないのが、「若い方」です。  年齢別にみると、緑茶飲料のお客様は4、50代がボリュームとして大きい。次に大きいのは60代です。これは緑茶業界全体の傾向です。  2、30代という、今後飲み続けていただけるであろう世代に対してアプローチが必要です。若い方にもっと手にとってもらえるようになると、それこそ20年、30年と飲んでいただけるかなと考えています。  若い方たちに手にとってくれるきっかけを作るために、アーティストのゆずさんのキャンペーンだったり、季節をイメージしたパッケージを展開したりしています。 —テレビCMは業績にどのような影響を与えますか?  営業社員と広告宣伝について連動して取り組んでいることもあり、出荷数は上がります。取引先のお客様に「CM流します」「キャンペーンやります」とお伝えすると、取引数量の増加を検討していただけるため、売り上げに貢献します。 —他にはどういったキャンペーンが効果的ですか?  従来からやっているペットボトル製品を対象とした「首かけ」のキャンペーンも効果的です。シールを貼って応募する形式のキャンペーンも一定の効果があります。 —今後の展開について教えてください。  国内外で人気が高まっている抹茶に可能性があると思います。今後は抹茶関連の商品を少しずつ広げていきたいと考えています。  国内では抹茶のお菓子など、抹茶のニーズが大きくなっています。一方で、アメリカでは無糖のお茶がIT関係者や西海岸などを中心に広がってきています。炭酸飲料などと比べて無糖で健康によく、「飲むと頭がシャキッとする」ということで、お茶が「クリエイティブサポート飲料」という言われ方をされています。とくに抹茶はスーパーフードなどとも言われていて、体を復活させたり活性させたりするにはよい食品だという認識が広がっています。  また現在、抹茶の健康効果に関する研究にも取り組んでいます。軽度の認知症であれば一定の効果を期待できるのではないかと研究を行っている最中です。数年後に発表できればと思います。  若い方には頭がシャキッとする飲料として、また、高齢者の方には認知症の予防に貢献するのではないか?ということで、抹茶に期待しています。 【略歴】 安田 哲也(やすだ・てつや) 1994年、入社。販売促進部などを経て2015年から「お~いお茶」ブランドのブランドマネジャーを努める。 連載「定番商品のつくり方、育て方」 #1 #2 #3 #4 3月18日午前6時公開 #5 3月16日午前6時公開 #6 コンバース「オールスター」【近日公開予定】 #7 ハウス食品「うまかっちゃん」「バーモントカレー」【近日公開予定】 #8 3月17日午前6時公開 *掲載順は公開順ではありませんので、ご了承ください。

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