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災害に強い「ラジスマ」対応スマホ、ラジオ界に千載一遇の好機

ドコモとKDDIが販売中
災害に強い「ラジスマ」対応スマホ、ラジオ界に千載一遇の好機

スマホ画面上でオンオフを切り替えるだけでFM波を受信できる

自然災害時に被災者の強い味方となるスマートフォンが誕生した。NTTドコモとKDDIがFM放送とインターネットラジオ「radiko(ラジコ)」を切り替えて聴ける機能「ラジスマ」を搭載したスマホの販売を始めた。インターネット回線が遮断されても手元のスマホでFM放送を受信でき、被災地での情報収集に役立つ。災害対応だけではなく、ラジオ業界はラジスマを新たなビジネスと結びつけ、利用拡大を図る。

手元に手段


 11日に東日本大震災から8年を迎えた。自然災害はその間も国内で多発し、今後も避けては通れない。

 「いざという時は突然やってくる。情報を得る手段が手元にあることが重要だ」。CBCラジオ(名古屋市中区)の升家誠司社長は声を大にする。災害時の情報収集の手段としても使われるラジオだが、日頃から持ち歩く人は少ない。多くの人が持っているスマホにラジオ機能をそのまま搭載しようという発想で生まれたのがラジスマだ。

 ラジスマに対応するスマホはNTTドコモの「らくらくスマートフォン me(F―01L)」(富士通コネクテッドテクノロジーズ製)と、KDDIの「URBANO V04」(京セラ製)の2機種。FMチューナーを内蔵し、FM波とネットラジオ「ラジコ」の受信機能を持つ。日本民間放送連盟(民放連)ラジオ委員会がメーカーや携帯キャリアなどと連携して開発を進め、今回実用化された。民放連は対応機種の拡大に向け、海外スマホメーカーなどとも交渉を進めている。

 ラジスマには専用アプリケーション(応用ソフト)「ラジコ+FM」がインストールされている。ラジコとFM放送を自由に切り替えられ、FM波で聞く場合はネット経由の3分の1程度の消費電力で済むという。

普段使いも有効


 もちろん、普段使いにも有効だ。ラジコは聴取エリアが広く、過去1週間の放送をさかのぼって聞ける反面、実際の放送より数秒遅れて放送することや権利上の問題で放送できない番組がある。ラジスマなら普段はラジコを聞き、よりリアルタイムで聞きたい番組はFMに切り替えるといった使い方もできる。

 スマホの普及などで情報収集の手段が多様化し、ラジオを取り巻く環境も大きく変わった。さらに20年には第5世代通信(5G)も始まることから「ラジオの存在が埋没しかねない」と民放連の岩崎正幸ラジオ委員長(ニッポン放送社長)は危機感を示す。その中で「ラジスマは千載一遇のチャンス」(岩崎ラジオ委員長)と大きく期待する。

 今後はリスナーに応じて、広告や飲食店のクーポン券を提供する取り組みも検討する。すでにラジコは視聴ログなどを基にリスナーに応じた広告を出す実証を始めているが、これをラジオ放送でも実現したいという。TBSラジオ(東京都港区)の塩山雅昭メディア推進局技術部部次長は「電波(FM波)を使って聞いても、リスナーがいる場所に応じて(飲食店などの)クーポンを出したい」としている。

発展占う試金石


 ラジオ業界とメーカー、携帯キャリアが一丸となって実現したラジスマは、放送と通信の融合が進む中での新たなラジオの形を明示した。ラジスマを通じ、次のビジネスの芽を育てられるかどうか。業界の発展を占う試金石となりそうだ
(文=大城蕗子)
日刊工業新聞2019年3月12日
葭本隆太
葭本隆太 Yoshimoto Ryuta デジタルメディア局DX編集部 ニュースイッチ編集長
ラジコは月間700万人ほどのユニークユーザーを抱えますが、ラジオ業界の課題である聴取率の下落傾向に歯止めをかけているとは言いがたい状況です。本文にあるように通信との融合でどんなビジネスモデルが描けるか正念場にあるように思います。

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