災害対応ロボの稼動は目前、カギ握る福島評価フィールド

ハードウェア開発も順調

「試験プラント」は入り組んだ配管と点検足場、大型タンクや煙突など、実際の災害現場を想定できる作りになっている

 東日本大震災の発生から8年。日本の災害対応ロボットが大きく前進しようとしている。飛行ロボット(ドローン)やヘビ型ロボなどのハードウエアは実用レベルに達しつつあり、震災直後のリアルタイム被害の推定技術など災害対応ソフトウエアも完成した。福島県に災害現場を模した評価フィールドも整備された。ハードとソフト、フィールドの三要素がそろうと技術開発と用途開拓、事業モデル開発は一体的に進む。  「試験プラント」は入り組んだ配管と点検足場、大型タンクや煙突など、実際の災害現場を想定できる作りになっている  「世界的にもここまでの施設はない。早速、米国で自慢してくる」と長岡技術科学大学の木村哲也准教授は顔をほころばせる。  福島県南相馬市に福島ロボットテストフィールド(福島RTF)で化学プラントを再現した「試験用プラント」がオープンした。入り組んだプラント配管と点検足場、大型タンクや煙突などを本物のプラント設計者が設計。部品もすべて実際のプラントで使うものだ。施設は吹きさらしで、強い海風が吹き抜ける。煙突や足場で風が巻き、複雑な渦をつくる。ドローンが乱流の中を安定して飛び、調査できるか検証できる。  塩を含む風は施設をサビさせる。メーターのガラスには水分を含んだホコリが積もる。汚れを拭くと跡が残り、カメラで撮ると光を反射して数字が読みにくい。木村准教授は「海風でいい感じに劣化が進む。ロボにとって本当にいやらしい。だがこれが現実だ。実用化に向け乗り越えていく」と説明する。試験費用は1フロアを1日借りて10万円だ。  福島RTFは研究者のためだけの施設ではない。ロボを使う企業にとっては自社の課題を開示しなくても、福島RTFで開発者と試行錯誤できる。ロボオペレーターの育成や運用モデルの開発、点検データの蓄積管理などを検証できる。  東北大学の田所諭教授は「あとは、いかに使い尽くすかだ」と指摘する。2019年度末までに試験用の橋やトンネル、がれき土砂災害フィールド、水没市街地フィールドなどが整備される予定だ。  福島県の北島明文ロボット産業推進室長は、「災害対応ロボの評価フィールドは米国や欧州などいくつかある。アジアの中核拠点として試験機能の分担や仲介などをしたい」と展望する。20年にはロボ競技会「ワールド・ロボット・サミット」(WRS)が開かれ、世界から名だたる研究者が集まる。  ロボのハードウエア開発も順調だ。内閣府の「革新的研究開発推進プログラム」(ImPACT)の一環でドローンやヘビ型ロボ、双腕建機ロボなどが開発された。救助犬を人工知能(AI)技術などで高度化するサイバー救助犬は海外からの引き合いが強い。  今は技術開発から事業化の段階に移った。ImPACTでドローンを開発してきた自律制御システム研究所(ACSL)は東証マザーズに上場。東北大や産業技術総合研究所もベンチャー設立に向けた準備をしている。  ロボの技術開発と並行して災害対応ソフトウエアの開発も進む。内閣府の「戦略的イノベーション創造プログラム」(SIP)で、防災科学技術研究所は災害発生から10分で被害を計算するリアルタイム被害推定システムを開発した。ボーリングデータを約30万本集め、関東や東海の地質構造をモデル化。地震波の伝わりやすさを反映し、地表がどう揺れるか推定する。例えば軟らかい地質では周期の長い揺れ「長周期振動」が増幅され、高層ビルが大きく揺れる。  ここに建物や人口のデータを重ね合わせ、250メートルメッシュ(格子)で被害を推定する。建物は種類や年代、階数、人口は平日と休日に分けて屋内と屋外の人数を時間ごとにモデル化した。震災発生後10分で大まかな被害分布を推定でき、どこに救援部隊を送るか決める材料になる。  防災科研の藤原広行社会防災システム研究部門長は、同システムは「情報基盤として働く」と説明する。  現場から被害状況の報告が集まれば、データを反映して被害を計算し直す。データ収集と全体推定を繰り返して精度を高め、報告のない地域の被害も精度良く推定できる。そもそも壊滅的な被害を受けた地域は報告できない課題があった。  同システムはロボ調査と相性が良い。平時は物流や警備などに使うドローンが、災害時に連携して上空から写真を撮れば素早く被害を確認できる。  防災科研の内藤昌平研究員は、熊本地震などを事例に、航空写真から建物の倒壊状況をAIに判読させた。深層学習を用いると目視の86%の精度だった。1・5キロ×2キロメートルの範囲なら約5分で推定できる。目視では24時間以上かかっていた。  内藤研究員は「技術は実証できた。人工衛星やドローンなどの画像を取り入れて汎用性を高める」と力を込める。個々のロボの調査データと、全体の被害推定の連携がカギだ。  これはドローンに限らない。地上を走るロボや監視カメラ、自動運転車などに広く展開できる。災害専用のシステムは市場が小さく、平時から運用されるシステムの活用が必須だ。京都大学の松野文俊教授は、「1台1台のロボットは機能が限られても、災害調査という目的では連携して仕事をする。異質性を包含した群制御が研究の最先端だ」と説明する。こうした異業種連携はハードとソフト、フィールドがそろってようやく挑戦できる。災害対応ロボットの開発が大きく加速する。 (文=小寺貴之)

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