ニュースイッチ

ドローンが災害時に活躍するため早急に議論が必要なこと

運行管理システムの運営主体は?
ドローンが災害時に活躍するため早急に議論が必要なこと

UTMを使って荷物を届ける物流ドローン(NEDOの実験)

 災害の状況把握に飛行ロボット(ドローン)は欠かせない存在だ。上空からの俯瞰(ふかん)映像と建物に接近した詳細映像の両方を撮れるためだ。一方、多様な事業者が使うドローンを統合管理する運行管理システム(UTM)の開発が進む。災害時に物流や測量、警備用のドローンが力を合わせ被害状況を調査する、という技術基盤が整う。課題は災害時のシステムの運営主体。公的機関が管理するか民間に任せるか、早急な議論が必要だ。

複数事業者連携


 新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)は、安全にドローンのビジネスを広げるため統合UTMの開発を進める。測量事業者と物流事業者がそれぞれドローンを運用していると、飛行ルートが重なれば衝突の恐れがある。連携は必須だが、事業者間のUTMをつなぐシステムはなかった。

 そこでNEDOとNEC、NTTデータ、日立製作所は、各事業者のUTMから飛行計画を集めて調整し、計画逸脱を監視する統合UTMを開発している。1000台の飛行計画調整を2―3秒で計算し、毎秒約100台程度の逸脱を管理できる。NEDOの宮本和彦プロジェクトマネージャーは「企業に限らず、UTMサービス事業者を通じ、個人用ドローンも安全に運行管理できる」と説く。

 NEC未来都市づくり推進本部の西沢俊広マネージャーによると、技術基盤はできつつあり「次はルール作り。災害や救急対応を優先するなど、運用ルールを議論する段階」という。UTMは災害のない平時の運用を目的に開発が進む。そのため、技術にめどがつき災害時の運用を議論できるようになった。

ルート割り当て


 ドローンはすでに災害後の調査に活躍している。人工衛星や航空写真と違い、ドローンは低高度から建物の側面を撮影できる。建物の倒壊の様子や斜面のひび割れなどは2次災害のリスク推定に使える。

 UTMを使えば、被災地域にあるドローンの台数や搭載カメラ、残り飛行時間などの情報を収集後に空撮ルートを割り当て、短時間で被災地の様子を把握する、という災害時運用を具体的に検証できる。さらに統合UTMが加われば、物流や測量、警備など、ドローンの目的や事業者が違っても、災害時には結集して役立つ。

公共性を考慮


 課題は誰が統合UTMを運用するかだ。NECの橋本研一郎シニアマネージャーは「海外は民間がプラットフォーム(基盤)競争を繰り広げる。だが公共性の高いシステムを市場競争に委ねて良いのか」と懸念する。

 公的機関も運用実績のないシステムは評価できない。現状では技術開発が先行し、ドローンビジネスを構想する事業者はUTMの完成と運用開始を待っている。平時運用が本格化してから災害時の連携機能を導入するのは容易ではない。今のうちに災害調査の要となるUTMをいかに運用するかを決める必要がある。
(文=小寺貴之)
日刊工業新聞2019年3月8日
小寺貴之
小寺貴之 Kodera Takayuki 編集局科学技術部 記者
 ドローンのUTM統合管理システムは本来的には公的な機関が管理すべきだと思います。ですが、とても低い運用コストと大幅な自動化が求められるため、いきなり公的機関が運用を始めるのは難しいかもしれません。飛行機の管制は発着陸で一人1時間に20-30台が限度だそうです。ドローンは一台一台を低コストで運用できないとメリットがでません。1時間に1000台が飛ぶ未来を想定しているので、管制の大部分は自動化しないと回りません。ただ大幅に自動化されたシステムを実績もないのに導入して運用するのは極めて難しいと思います。NEDOと参画企業でジョイントベンチャーなどを作り、小規模な運用から始めて徐々に実績を作っていくしかないように思います。半官半民のジョイントベンチャーなら出資額に応じて貢献度を決められ、参加企業が手を引くときも精算しやすくはあります。運用実績と技術蓄積が進めば、そのベンチャーに公的機関が委託するのがシンプルだと思います。公的投資機関が出資して安全管理をレポートさせたり、ガバナンスを把握することもできると思います。自動運転のダイナミックマップ基盤のような先例があるため、政府にとっても選びやすいアプローチになるはずです。

編集部のおすすめ