ニュースイッチ

トヨタと三菱自だけが増益になる理由

トヨタと三菱自だけが増益になる理由
トヨタと三菱自だけが増益になる理由

先日のデトロイトショーでスープラをお披露目したトヨタの豊田章男社長

 乗用車7社の2019年3月期連結決算業績見通しは、日産自動車やホンダなど5社が営業減益を見込む。米中の自動車2大市場の停滞が響く。米中の貿易摩擦問題などで世界経済の不透明感が高まっており、原材料費高や新興国通貨安も向かい風だ。電動化など新技術への対応も喫緊の課題で、各社経営トップのかじ取りは困難さを増している。

 18年の新車販売で米国は前年比横ばいに留まり、中国は28年ぶりの前年割れとなった。日産は米中市場での販売減を見込み、19年3月期予想の営業利益を前回予想比900億円減の4500億円(前期比21・7%減)に下方修正した。

 米国では市場停滞で販売競争が激化しインセンティブ(販売奨励金)に上昇圧力がかかっている。

 日産は米市場でインセンティブやフリート(大口顧客)に依存した販売戦略をとった結果、ブランド力が毀損(きそん)し収益力が低下した。12日の決算会見で、西川広人日産社長兼最高経営責任者(CEO)は「一貫性を持って販売の質改善を継続する。無理なストレッチはしない」と、業績の下方修正の背景を説明した。

 なお、19年3月期の販売台数見通しは同32万5000台減の560万台(同2・9%減)、そのうち米国は9万5000台減の145万5000台、中国は同13万1000台減の156万4000台に下方修正した。
 
 ホンダも米市場で、18年4―12月期に「インセンティブが前期に比べて相当大きくなった」(倉石誠司ホンダ副社長)。会計処理変更という特殊要因もあったが、スポーツ多目的車(SUV)の旧モデルを売り切るため積み増した。

 販売増をテコにした成長は難しくなり、19年は「収益性向上が重要な経営テーマ」だとゴールドマン・サックス証券の湯沢康太マネージング・ディレクターは指摘する。

 米国の金利上昇を一因に新興国通貨安が広がる。スズキはインドルピー安などが響き、18年4―12月期連結決算が同期として7年ぶりに営業減益となった。さらに19年3月期通期予想ではルピー安が、営業損益ベースで前期比237億円のマイナス要因になると見込む。

 マツダは西日本豪雨などの影響、SUBARU(スバル)は品質問題で工場の操業を一時停止した影響などで営業減益を見込む。

 一方、通期でトヨタと三菱自動車は営業増益を見込む。トヨタは「日系メーカーで独り勝ちの状態」(湯沢ゴールドマン・サックス証券マネージング・ディレクター)という中国事業のほか、欧州でハイブリッド車(HV)販売が好調に推移する。米国事業の低収益性が課題となる中、「ある地域が不調なときは別の地域で補い、ある車種が不調なときは別の車種で補うという、多角化に向けては道半ば」(友山茂樹トヨタ副社長)とするが、「車輪は少しずつ回り始めている」と手応えを示す。三菱自は多目的車(MPV)「エクスパンダー」の販売が東南アジアで好調だ。

 米中市場の低迷で事業環境が厳しさを増す自動車産業だが、「CASE(コネクテッド、自動運転、シェアリング、電動化)」と呼ぶ技術・サービスの新潮流が勢いを増している。次世代への投資が不可欠で、「電気自動車(EV)対応を加速しなければならない」(長尾正彦スズキ取締役常務役員)との声があがる。
                    

(文=後藤信之)
日刊工業新聞2019年2月14日

編集部のおすすめ