ニュースイッチ

阪大がカナダの国立加速器研究所に分室のワケ

大型装置のユーザー支援へ
阪大がカナダの国立加速器研究所に分室のワケ

日米中のガンマ線検出器16台を集めて構成した検出器アレイ(阪大核物理研究センター提供)

 大阪大学核物理研究センターは、大型研究装置のユーザー支援や産学連携の国際ノウハウの確立に向け、カナダの国立加速器研究所TRIUMF(トライアンフ)に分室を開設した。加速器関連の研究では、検出器の一部を各国研究機関が持ち寄るような大型国際共同研究が増えて、その輸出入の手法を吸収する。またがんのアルファ線核医学治療の実用化や、半導体ソフトエラーの評価手法の標準化で、阪大コンソーシアム参画の企業の世界戦略を後押しする。

 核物理研究センターは2018年に文部科学省の国際共同利用・共同研究拠点に認定された。近年は1億円超の検出器を十数台、各国から集めて測定に使うような研究の大型化・長期化が進んでいる。先進のトライアンフから手法を学ぶため同センターで輸出入の専門事務員を雇用した。

 ブームの研究テーマの一つに、加速器で作る放射性同位元素を付けた核医薬品がある。主力の同位元素は日本でアスタチンだが、世界ではアクチニウムだ。そのためトライアンフの分室を活用して輸入し、企業の関心が強い両者の比較研究や装置・製法の標準化に取り組む。

 また宇宙線によるソフトエラー対策では、加速器で宇宙線を再現し、半導体デバイスのテストに使っている。エラーの影響は自動走行車で大きく、産業界は測定法の評価や標準化に注目しており、この点でも両者の連携を生かす。

 同センターはすでに別テーマでトライアンフと連携しており、日本から開発した装置を移設。この現物貢献に対し、国際共同研究チームでカナダイノベーション基金から4億円超の資金を獲得しており、今後も同様の展開を狙う。
日刊工業新聞2019年2月7日
山本佳世子
山本佳世子 Yamamoto Kayoko 編集局科学技術部 論説委員兼編集委員
1億5000万円×10数台で検出装置を仕上げて、大型国際共同研究をするといった研究環境にまず驚いた。一つずつ輸入し、研究プロジェクトに使い、終了したら輸出で提供先に戻す。阪大核物理研究センターからも同様の形なのだろう、「現物貢献で4億円もの研究資金を海外から獲得した」という話が目を引いた。実は「加速器の研究で核医薬品、半導体ソフトエラーのテストなどで産学連携」という研究内容も、文科省の産学連携プロジェクト「OPERA」の採択時に執筆し、以前から気になっていた。まだ1時間半しか取材していない相手だが、中野貴志センター長の個性が光る事例といえそうだ。

編集部のおすすめ