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大学の設備もシェアする時代、研究者の可能性はもっと広がるぞ!

「大学の機能」と「学術コミュニティー」の二つの強化を狙う
大学の設備もシェアする時代、研究者の可能性はもっと広がるぞ!

先端的な装置には共同利用・共同研究の希望が押し寄せる(電子スピンも測れる東大物性研の光電子分光装置)

 各大学の研究設備を他大学などの研究者に活用してもらい、日本の学術研究の底上げを図る文部科学省の「共同利用・共同研究拠点」制度。拠点の主力は国立大学の伝統ある付置研究所で、世界最先端の研究を手がける一方、拠点制度で日本の裾野を広げるミッションも担う。国立大学と科学技術の改革が連動する中で、「大学の機能」と「学術コミュニティー」の二つの強化を狙う拠点の今とこれからを見ていく。

 国立大の付置研究所は教員数十人規模で、大学の顔となる重点研究を行う部局だ。加えて拠点として認定を受けると公募共同研究などを通じて、自身の装置や施設などの研究資源の利用を、他機関の研究者に促す役目が生じる。東京大学物性研究所の森初果所長は「研究の卓越性と多様性はどちらも重要だ。特に大規模大学は、日本全体を見てリードしていく意識がいる」とミッションが相反しないことを強調する。

 共同利用・共同研究拠点制度は年間、予算60億円強で約3万人の利用者を支える。公私立大の拠点も増えたが、中心は国立約30大学の約80拠点だ。「拠点に多機関が集まることで学際的な共同研究が増え、人材育成でも論文数でも効果が大きい」と東北大学多元物質科学研究所の村松淳司所長は拠点の意義を挙げる。

 拠点制度は18年度に二つの変化があった。一つは中間評価において「相対評価を明確にし、改革のメッセージを打ち出した」(文科省研究振興局・学術機関課)ことだ。もう一つは国際的な活動に重点を置く新たな認定で、競争率約7倍の中から6拠点を選んだ。数多い拠点の中でメリハリを付ける動きが出ている。
               

 拠点に関わる作業部会の主査を務めた稲永忍長崎県公立大学法人理事長は、「各大学は付置研を個性の目玉にしようという姿勢が感じられる」としながらも、「1研究所よりも他と組むことで、力を出せる面がある」と連携の重要性に言及。大学の重点投資の方針によっては、再編の可能性もあると見ている。

東北大多元研など5大学、技術職も切磋琢磨


 1研究所が1拠点というケースが大半の中で、東北大多元研や大阪大学産業科学研究所など5大学・研究所で動くのが「物質・デバイス領域共同研究拠点」だ。化学、ナノシステム、デバイスなど各研究所の違いを生かした以前からの連携が拠点の土台となった。

 目玉は5研究所のどこかにスペースを確保し、若手を研究代表者として60日以上の滞在で受け入れる「コアラボ」の仕組みで、14件が動いている。光応答システムのコアラボの場合、東北大多元研の卓越した研究者の元で、東海大学の准教授が代表者となり、岡山理科大、阪大産研の研究者が加わり、論文などの成果を挙げている。

                

 ガラス装置や機械の製作を手がける技術職員のネットワーク化も目を引く。「独自の設備で他にないデータが得られる―と評価されながら、国立大学法人化後の削減が目立つ」(垣花真人東北大教授)職種だ。それでも5研究所で集まれば約170人。得意分野のテクニックを教え合い切磋琢磨(せっさたくま)している。

一橋大経済研、政府統計データ利用促進


 実験設備を必要としない人文社会科学系では、資料やデータの共同利用がキーとなる。一橋大学の経済研究所は総務省との連携で、政府統計のデータベースを活用した実証分析で実績がある。

 日本の年金、介護など社会保障のデータは、高齢化が迫るアジア各国から関心が高い。ところがデータへのアクセスは、セキュリティー確保の法規制がある。そこで「海外在の研究者は拠点制度で来日し、我々とともにインターネットを操作することで利用可能となる」(小塩隆士所長)。大学のゲストハウスも、来訪者を迎え入れるうえでプラスとなっている。

 東大の物性研は物質の性質を解明する物理系の研究を行っている。物性科学分野のリーダーとして、拠点と似た役割の「大学共同利用機関」の研究所も巻き込んだ新モデルを構築した。

 スーパーコンピューターは多機関にあるが、そのプログラムにはそれぞれ異なる強みや特徴がある。そこで物性研(拠点)、東北大金属材料研究所(拠点)、さらに自然科学研究機構の分子科学研究所(大学共同利用機関)で連携。「各研究所の“ユーザー”が、さらに他研究所のプログラムも活用できるように」(森所長)し、研究の多様性確保に努めている。
            

日刊工業新聞2019年1月10日
山本佳世子
山本佳世子 Yamamoto Kayoko 編集局科学技術部 論説委員兼編集委員
若手研究者は科研費採択を落ちたり、地方の小規模大学で頼れる先輩研究者もいなかったり、というマイナスの影響を、シニア研究者より受けやすい。そんな時にこの共共拠点の制度が活用できる。記事では東海大や岡山理科大の研究者が、旧帝大の著名研究者の指導を受けて力を付けていく事例を紹介した。自らの財産となる人的ネットワークを構築しつつ、各種のマイナスをはね飛ばす活動に、同制度を使って乗りだしてほしい。

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