ニュースイッチ

高速ビジョンが変わらない産ロボを革新する

現在の産ロボは位置決め装置、基本原理は半世紀以上も不変
高速ビジョンが変わらない産ロボを革新する

写真1 石川研究室が公開した2台のロボットでボールを投げ打ち返すシステム(2009年公開)

 現在、ロボット工学者を中心に、東京大学大学院 情報理工学系研究科の石川正俊教授らのプロジェクトに関心が集まっている。プロジェクト名は、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の「クリーンデバイス社会実装推進事業」の1つである「高感度・高速・低ノイズのCMOSを用いた高速画像処理の実用化」。期間は2016年6月まで。
 石川教授らは以前より、ロボットの速さとセンサー(視覚:ビジュアル)フィードバックによる知能を追求している。高速ビジュアルフィードバックによる高速知能ロボットの一例として、スローイングロボットが投げたボールを、バッティングロボットが打つシステムなどを公開している(写真1)。プロジェクトでは高速ビジュアルフィードバックによる高速・高精度の位置決めの達成を目指しており、これによりパフォーマンスを維持しつつ、フレキシビリティを備えた産業用ロボットにつながると期待されている。

【産ロボは位置決め装置】
 力覚センサーや3次元ビジョンセンサーの低価格化に伴う急速な普及により、より巧緻なロボットが増えた印象を受けるだろうが、産業用ロボットの基本構造および動作原理は、その誕生以来ほぼ不変である。その中核となる「プログラム可能物品搬送装置」という特許は、50年以上前の1954年に申請(認可は1961年)されたものであり、それにもとづくティーチング・プレイバック(教示・再生)は実環境で行うがゆえの「直観性」と、現物合わせによる「正確性」は普遍的な技術として根付いている。
 
 ところが、こうした特徴は高速・高精度というパフォーマンスの追求とともに産業用ロボットを、“位置決め装置(NC装置)”的な使い方を助長した。このような使い方は組立作業では具合が悪く、部品を把持して組み付ける際にロボットと環境とが様々な接触を生じ、このときのわずかな位置ズレが作業ミスに至る。生産効率上、このようなハンドの先で起きている不確定要素はほぼ無視し、作業を継続するのが現在の産業用ロボットであり、プログラム可能物品搬送装置からイメージされるフレキシビリティを喪失している(ビジョンセンサーの情報を用いてハンドの位置を補正できるが、作業ミスに対応しているとは言い難い)。

【遅くては使いものにならならい】
 こうした状況に一石を投じる(のでは)と、2012年9月の発売当時、注目されたのがリシンクロボティクス(Rethink Robotics)の双腕ロボット「バクスター(Baxter、写真2)である。
 作業者がハンドを直接手に持って動かすことで記憶させるダイレクトティーチングによりアバウトに軌道計画(動作計画)を行い、ハンド先端部のビジョンセンサーにより位置決めを行う。ハンドの先で起きている不確定要素(把持のミスに伴う部品の位置ずれなど)に対応しようとする設計思想が伺うのが興味深い(ビジュアルサーボを実装するセイコーエプソンの双腕ロボットにも同様の思想が伺える)。
 また、手先にコンプライアンス(柔らかさ)を持たせるために、弾性要素を減速機に直列に結合した「SEA(Series Elastic ActuatorElastic :直列弾性駆動)」を搭載しており、力制御により不確定要素への対応も可能にしている。

 しかし、その代償として速度と精度を犠牲にしており、例えば、最大速度は毎秒1mと既存の産業用ロボットに比べてかなり遅い。バクスターの有意性を認めつつも、生産財としての価値は低いというのが産業用ロボットメーカーのおおかたの見方となっており、実際、エデュケーション(教育)モデル以外の導入例は現時点でも聞かれない。

 かたや、石川教授らはマイクロセック(秒)での視覚制御やミクロンオーダーでの位置制御などによりタスクの高速化と高精度化を目指している。さらに同プロジェクトにおいて、東大では高速ビジョンセンサーによるビジュアルフィードバックにより高速動作時の制振化を図り、生産のスループットを高めることも狙っている。これらが達成されれば、既存の産業用ロボットが備える高いパフォーマンスに加え、フレキシビリティを付与できる。労働集約型産業やいまだに完全自動化できていない生産プロセスの高速自動化に道筋をつけるだけに注目度が高いのである。
ロボット産業・技術の振興に関する調査研究報告書(日本機械工業連合会)より再編集して掲載
今堀崇弘
今堀崇弘 Imahori Takahiro 大阪支社事業・出版部
産業用ロボットのイノベーションは、日本ロボット学会内で議論が進展しています。ケーブルレスやグリースレスなど要素技術に注目した検討に加え、材料メーカーを交えた検討もなされています。ロボット白書に記載されている「システム―エレメント―マテリアル協業」は、それを表現したものであり、議論の進展により当然のように使用されている要素技術が不要になる可能性が期待されます。

編集部のおすすめ