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日本の航空産業の脅威にも…サプライチェーンめぐる国際競争が激化

「アジアの下請けにならないか心配だ」
日本の航空産業の脅威にも…サプライチェーンめぐる国際競争が激化

海外の主要航空ショーに中小が継続出展(18年7月の英ファンボロー国際航空ショー)

 航空機産業のサプライチェーンをめぐる国際競争が激しさを増している。欧米大手が東南アジアに拠点を構え、各国で現地企業が育ちつつある。航空機の一大市場であることを強みに、生産拠点としての実力が高まれば、日本の航空機産業が脅かされかねない。一方で、国内では中小が現地でサプライチェーンに入り込んだり、新たにクラスターを組むなどの動きを見せ始めた。

欧米大手、東南アで現地化推進/打って出る日本企業


 「日本の航空機産業はアジアの下請けにならないか心配だ」―。航空機関連機器の多摩川精機(長野県飯田市)で社長、副会長を歴任した萩本範文AMシステムズ(同)社長は、そう危機感を抱く。

 マレーシアには欧州エアバスや米ゼネラル・エレクトリック、仏サフランなど欧米大手が拠点を置く。機体の修理・整備(MRO)拠点として発展したが、いまではMROと製造の割合が同じだという。マレーシア投資開発庁のリドゥアン・ラフマン東京事務所所長は、「2030年までに東南アジアで一番の航空機産業国になる」と目標を掲げる。

 また、タイは最大8年間の法人税免除などの税制優遇策を打ち出し、外資の航空機産業の誘致を目指す。サンティ・キラナンド工業省副大臣は、「航空機部品や装置の製造拠点としての強みがある」と自信を見せる。

 東南アジアは各国の経済発展や格安航空会社(LCC)の成長もあり、航空機需要が今後も伸びる。日本航空機開発協会の民間航空機市場予測調査では、アジア・太平洋の航空旅客輸送量は17年実績で北米と欧州を上回っており、37年にはその差はさらに広がる見通しだ。需要が特に伸びるのが中国と東南アジアだ。

 萩本社長は、多摩川精機を17年に退職してAMシステムズを設立し、長野県内のクラスターや中小製造業の航空機産業進出を支援する。「アジアが発展する中、日本で航空機産業は中小を支えるメーン産業になれるのか」と懸念する。

 日本では三菱重工業など重工大手がボーイングのティアワンとして機体製造を担い、サプライチェーンを形成してきた。だが、欧米の装備品やシステム機器大手と中小との関係は深まることはなく、彼らはむしろ東南アジアに進出した。装備品やシステム機器も手がけることが日本の航空機産業の底上げになるが、市場が縮小する日本の現状では難しい。

エアバスは日本のベンチャーとの関係構築に動きだした

 一方で、東南アジアに進出し、現地のサプライチェーンに入り込もうとする中小も出始めた。三菱重工のサプライヤーの和田製作所(愛知県清須市)は、グループ会社のエアロ(愛知県弥富市)とともに、マレーシアの自動車部品メーカーと提携した。19年に合弁会社を現地に設立する。

 和田製作所は航空機部品や治具、エアロは機体組み立てをそれぞれ手がけ、これらをマレーシアでも展開することを狙う。同社の和田典之社長は、「ボーイングなどは顧客の近くでサプライヤーを育てようとしており、我々も出ていかねば」と狙いを説く。

 マレーシアに既に進出した中小もある。極小の鉄球をぶつけて表面加工する「ショットピーニング」などを手がける旭金属工業(京都市上京区)は、16年に現地工場を稼働した。装備品大手などから表面処理を受注しているが、中村止専務は「取引量はまだ少ない」と明かす。

 海外売上高は現在数%だが、将来は2割に引き上げるつもりだ。十数年前から海外の主要航空ショーに出展を続けるなど、売り込みに余念がない。

国内に変化の兆し/クラスターで技術結集


 国内ではボーイング中心の産業構造から変化の兆しもある。競合のエアバスがサプライヤー開拓に動き始めたのだ。重工大手はボーイングと深い関係にあるものの、エアバスとの取引量は少ない。それは中小サプライヤーも同じだ。エアバスは、仏航空総局が17年に経済産業省と覚書を結んだのを機に、日本での関係作りを始めた。

 手法はベンチャーへの投資だ。投資子会社を通じ、航空宇宙関連ベンチャーに出資する。既に4社への出資を決め、さらに数社への出資も計画する。

 投資対象は航空宇宙関連にとどまらない。エアバス・ジャパン(東京都港区)のステファン・ジヌー社長は、「航空機以外の会社とも関係を築きたい」と意欲的だ。人工知能(AI)やビッグデータ(大量データ)などの新技術が産業を問わず重要になる中で、それらの知見を持つベンチャーへの投資も視野に入れる。

 ボーイングとの強固な関係がある重工大手やそのサプライヤーではなく、技術力のあるベンチャーと組む戦略だ。しかし、これでは重工大手のサプライヤーや新規参入を狙う中小が入り込むのは容易ではない。

 では中小は生き残りに向け何をすべきか。新規参入勢では、受注に向けてクラスターを組んでの活動が活発だ。単独では難しくても、「数社で加工や表面処理など複数工程をこなせる」と訴えて共同受注を目指しており、全国に40を超えるクラスターが誕生した。

 岐阜県の5社と愛知県の1社が参加する「岐阜航空機部品クラスター」は、16年の発足後、初の受注に成功した。多摩川精機へ18年度中に月200個ほど部品を納入する計画だ。クラスターに参加する岩田鉄工所(岐阜県羽島市)の岩田真太郎専務は、「クラスターとして一つの成果を出せた」と喜ぶ。

 受注は、旭金属工業がパートナー企業として協力を始めたことも大きい。同社は岐阜県安八町の工場で表面処理を手がけており、受注製品も同社に依頼した。

 東南アジアに航空機産業のサプライチェーンが形成されつつある中で、中小の現地進出や国内でのクラスター活動が少しずつだが実を結んでいる。航空機を正業にする中小が増え産業として発展するには、こうした取り組みの拡大が不可欠だ。

岐阜航空機部品クラスターは16年の発足後、初めて受注を果たした

(文=名古屋・戸村智幸)

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